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王女の護衛が終わり、私とヨルグ副師団長は食堂で食事をとっていた。夜勤の者と交代したのだが、有事の際は駆けつけなければいけない。咄嗟に力が出る様に、と言い訳をして私は美味しい食事を口に詰め込んだ。
「......落ち着いて食え」
隣に座っている副師団長に呆れた声で注意され、今口の中に入っている物を飲み込んでしまおうとゆっくり咀嚼した。
「ふみまへん、あまりにも美味しくて」
えへへ、と笑うが隣の彼は無表情だ。なぜか目も合わない。
「後で一度会議、と言うか伝えておきたいことがある。俺の執務室に来い」
「?......はい。分かりました」
怒られるのだろうか。今まで失礼を働いた分が今一気に......?
先ほどまで味わっていた料理の味がよく感じられず、私は機械の様に料理全てを口に運んだ。
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「失礼します」
副師団長の執務室をノックし扉を開けると、この時間にアシア様を警護している騎士以外の者が集まっていた。私1人が怒られるわけではなさそうだ、と私はホッと息を吐いた。
「よし、集まったな」
ヨルグ副師団長が私たちの顔を見回す。怒ってはいない様だが、真剣な顔だ。
「今王女を警護している者にはもう伝えたが、実は現在王女を付け狙ってるやつがいてな......」
「え、殺害予告的なものですか?」
不安になり話に割り込んでしまった。
「いや、そうでは無いんだが、まぁ端的に言ってしまえばストーカーだな」
副師団長も困ったような顔で頭をポリポリと掻いている。
「うわぁ......」
彼女は美人なのでそう言う被害がこれまでにも多々あったのだろう。私には到底想像できない苦労だ。
「彼女は第三王女だから政治関係では無いだろう。ただ、今回の人物は少々過激なようでな。万が一の事も考えて俺が呼ばれた訳だ。言うまでも無いと思うが、より一層気を引き締めて警護に当たってくれ」
詳細は文書で渡す。以上。との声掛けで騎士たちが執務室を後にする。私も早めに休んで有事にそなえよう。
「スウェイル」
部屋を出る間際声を掛けられた。
「はい?」
まだ業務連絡があるのかと彼に向き直る。
「あ〜その、クレイグ様の事なんだが......いや、やっぱり何でも無い」
「はぁ......?」
もう部屋を出て良い、のかな?
私は失礼します、と頭を下げ自分の部屋へと戻った。
湯を浴び、自室で濡れた髪を乾かしながら副師団長が何を聞きたかったのかがとても気になった。
王女様のストーカーと、婚約者のクレイグ、ストーカー......。
そこで私はハッとして手を叩いた。
「あー!そう言う事!」
点と点が繋がったような気分だ。なぜ女にだらしなかったクレイグが王女様の婚約者になったのかと不思議だったが、先ほど聞いたストーカーを炙り出すためでは無いのか?
激昂したストーカーはより大胆な行動を取ることになり、それを騎士たちが捕まえて仕舞えば良いのだ。
アシア様が悪い男に騙されているわけでは無いことが分かり、私は安心して布団へ潜り込んだ。
*****
王からの手紙でアシア様の身が危ないから、と警護を任されたのだが。まさか彼女も一緒に警護に就くとは。
「ふぅーー......」
思わず大きいため息が出た。
彼女を見た時は自分でも信じられないのだが、少しだけ浮かれていた様に思う。あの笑顔が再び自分に向けられることが単純に嬉しかったのだ。
だが彼女がクレイグ様と話している所を見た瞬間、そんな気分も霧散した。
遠目に見ていたので会話の内容は聞こえなかったが、いつもニコニコしている彼女がクレイグ様とは表情を作らずに話していたのだ。
2人は仲がいいのか?クレイグ様も騎士学校に通っていたのは知っているが、2人に接点があるとは思わなかった。
なぜ落ち込んでいるのか自分でも訳が分からず髪をグシャと掻き上げる。自分の感情がコントロール出来ないようでイライラが止まらない。しかも執務室を出ようとした彼女を呼び止めてしまうとは。自分は何を聞こうとしていたのか。
だがクレイグ様はアシア様の婚約者だ。何も心配することはないでは無いか。
俺は何の心配をしているんだ?
頭の中がグルグルと同じ事を考えてしまい今夜は眠れそうになかった。