第二話「新しい家族」
妹、、あっ、いや姉なのかもしれないか。
まず少なくとも、前世の頃は俺に兄弟はいなかった。
兄弟がいる、それが嬉しいことなのかはわからなかったけれど、その時はただ寝ている妹の顔をただじっと見つめていた。
彼女はおそらく妹だと直感はしていたが、寝顔を見て確信した。
「おいでー」
部屋に入ってきた母はそのまますっとベッドで寝ている俺を片手で持ち上げて部屋を出た。
おいでと言われても一方的に抱え込まれるだけなのだけれど、今はそのように言う母の気持ちを理解できた。
このようにされることは記憶にはない経験だったので少し動揺する。
はじめての兄弟に衝撃を受けてそちらにのみ意識が向いていたが、この母はとても美人だ。
もちろん、俺が生まれてきている以上両親がいることは当たり前だがあまり意識しておらず特に心構えもしていなかったので、少し違和感がある。
ただ今の俺は今が西暦何年なのかの方を気にしていた。
もし百年以上、いや五十年でも経っていたら今後の俺のモチベーションに関わってきてしまうかもしれない。
母が俺たちを抱えて廊下を歩いていると途中、壁に世界地図らしきものがあった。
ちょうど自分の正面に地図はあったので簡単に見ることができた。
しかし、それは何百年前の地図のような表記、書き方をしており、俺はすぐに理解できなかった。
色も黄ばんでいて大航海時代ぐらいのものなのではないかと思うほどだ。
それに、見覚えのない形をしている大陸がそこに書かれている。
これはこの国の地図なのか?
確かに一つの国の地図として見てもあまり違和感のない形をしていたのでこのように考えることもできた。
日本にだって日本地図というものがあったしこれもそういうものだろう、とその時は自分を納得させた。
国名らしきものもそこには書いてあったがその時は読むことができず、母に抱えられたまま階段を降りた。
今更だが地図があまり貼らないような場所に貼られていたことには少し疑問を持った。特に理由などないだろうが。
階段を降りると、目の前にひらけた空間が現れた。
ここはリビングと言ったところか
そこには暖炉があり、床に赤い布を敷いていていかにも西洋の家という雰囲気だ。
今のところ、父の姿が見当たらないが昼間なのでどこかに仕事をしに行っているのだろうか。
この家の様式や外の風景からはここはかなり田舎なのだと思う。
父の職業は農家なのだろうか、もしかしたらここからはどこか遠いところに働きに行っているのかもしれない。
また、俺はまだ言葉を話せる年にはなっていないはいないが、おそらくまだ一歳といったところだろう。
先程、起き上がるという動作はできたことから多分、やはり一歳以上にはなっている。
その点でひとつ疑問に思うことがある。
どうして、一歳以前の記憶はないんだろう
俺が死んだ直後にこの赤ん坊に俺の意識が介入でもしたのだろうか。
だとすると、俺がこの赤ん坊の人生を奪ったことになるのではないか。
人生を捨てることよりも他人の人生を奪うことの方が重罪だ。
肉体は死んでいなくても殺人と同じなのではないか?
このように考えてしまうと罪悪感が湧いてくる。
あるいは、以前の記憶は俺が日本で生きている頃のものだったから時制の矛盾が発生することによって記憶が消されたのかもしれない。
もしそうだと、今は俺が死んでからあまり時間が経っていないということになる。
本当にそうだとありがたい。
でも、実際は全て想像であり、結局考えてわかるようなことではなかった。
一歳の時点で言葉を話すことはできるのだろうか?
もし、それが事実なのならば色々親に聞くことができて楽なんだけど。
でも、あまり幼児が一歳の段階で話すことができる印象はなかった。
実際、試せばすぐにわかることだが、あまり、リスクを負うことはしたくない。
突然、話せるはずのない子供が話し始めたら、親も驚くどころか怖がるはずだからだ。
最悪、何か疑われるのかもしれない。
あっ、いや話せるようになるのは声帯が発達してからだからどちらにせよ歳に応じて次第に言葉を話せるようになるのか。
だから、今話そうとしてもはっきり話すことはできないのか。
こういう生活面の知識も勉強していたら身につけられていたのだろうか。
リスクを負うことなく一般的な成長に俺も合わせるにはどうしたら良いのだろうか?
すると、妹がいつ起きたのかあるいは今起きたのか、裁縫をしていた母に抱きついた。
初めはそんな妹の行動を見て、少し羨ましく思っただけだった。
そうだ、妹に合わせればいい
すぐにその考えに至った。
こいつも転生してるなんてことがない限り、一般的な成長速度で成長するはず。
まさか、こいつも転生してるなんてことはないだろうな。
現に俺が転生をしてここにいるから、普通にありそうで再び心配になったものの、なんやかんや一つの心配事が解決したということで今度は地図を再び確認したくなった。
アピールぐらいならできるか
「あう、あー」
階段の方を指差し言ってみた。
案の定、言葉を話すことはできず、今はやはりクーイングを発することしかできなかった。
後から考えれば当然のことだがいまさら理解する。
「あー、うあー」
「なに、なにー?」
優しい笑みを浮かべて尋ねてくる。
すぐに俺が指をさしていることに気付くと、母は階段に向かって歩き出した。
意外と簡単に伝わるものなんだな
母は階段の前で立ち止まり、ここがどうかしたの?と聞いてきた。
そこから、俺が地図の方を指さすとすぐに階段を上り始め、地図の前で立ち止まってくれた。
伝えようと思ったことをすぐに理解してくれて嬉しかったが、突然自分の一歳ほどの子供が地図を指差すことに何も違和感を感じずに歩き出したことには驚いた。
天然か、天然なのか?
でもそんな母のおかげで今はこの地図をじっくり見ることができる。
まずは、ここの国名。
どうやらこの地図には三つの国が書かれていたようだ。
しかし、知らない言語で書かれていたので地名は一つも読めなかった。
何か情報を掴もうと、地図を眺めていたら一つあることに気がついた。
緯度と軽度の数値の部分も知らない文字になっている
数字は万国共通のはずだ。
これは日本でいう漢数字みたいなものなのだろうか。
じゃあ、大したことじゃないか
それにしても、アルファベットとは遠くかけ離れていて、アラビア語のような歪さもない。
本当に今まで生きてきた中で一度も見たことのない文字ばかりだ。
心当たりも似たような文字すら見たことがない。まるで、小学生がその場で思いついたかのような文字である。
結局、俺が知ってる国は地図にはなさそうで何も理解できなく何の収穫もなかった、と思い落胆していた矢先思いがけず母が大陸の東端を指さすと、
「ここに、このイホス村があるんだよ」
この村の位置を俺に教えくれたのだ。
それと反応からなんとなくこの地図は現代のものなのだと思う。
そう、話している内容は理解できる。ならば、母に国名を教えて貰えばいいんだ。
すぐに俺が地図を見たいと伝えようとしたことに気づく母のことだ。簡単に伝えることができるだろう。
指で国境をなぞり母に伝えようとする。
「っ、うぅ、、」
脇のすぐ下に母の腕があることと、腕が短いことによって地図に手が届かず上手く伝えることができない。
しかし、母はすぐに俺の言いたいことを理解してくれる。
「これはね、イオプトシっていう国なんだよ。イホス村もこの中にあるんだよ」
ちょっと変な名前だな
しかし、一度も聞いたことのない国であることには変わりない。
そんな国あったか?とも思ったが俺の知識不足として受け入れる。
あれか?ロシア国内にあるやつか?
国名を知らない以上、ここがどこなのかはわからない。
他に得られる情報はあるのだろうか。
数字がわからない以上、おそらく地図のどこかに書いてあるはずの年代も読むことはできないだろう。
結局、落胆していると突然一階から男性の声がした。
「おーい、クリスいるか?」
「はーい、どうしたのペトリ?」
「ちょっと一階に来てくれないか、クリス?」
いちいち語尾に相手の名前をつける必要はあるのか、気になったがそこはスルー。
両親の名前を初めて聞いた。母がクリス、父がペトリ。
なんか、スペインっぽいな
と、思いつつ先ほどの地図に書かれている文字がスペイン語とは思えないのであくまでも俺の印象に過ぎない。
これが、俺の新しい家族か
そう、実感した。
それだけは今ここで、改めて理解することができた。
一章は全部描き終えてから投稿しています
改めてよろしくお願いします