第一話「初めての憧れ」
ここ最近、学校を受験する家庭が昔と比べて急増している。俺の周りにも中学受験、高校受験や大学受験をしていた人はたくさんいた。
やっぱり真面目に勉強していたら何かが違っていたのかな
昼間なのに暗く何もない路地裏で地べたに座りながらふと思う。
すると、真っ先に親友が脳裏に浮かぶ。
「あいつは今頃しっかり仕事しているんだろうな」
あいつと俺を比べるなんて無作法すぎる。
こんな俺に今更作法もクソもねぇか。
ここからは俺の言い訳。
昼間に仕事していないと誤解されがちだが、決して俺はニートのように堕落した生活を送っているわけではない。
いわゆる夜勤というやつだ。二十六歳の段階でニートだと人生終了まっしぐらってわけだが、、やっぱり俺も全く変わらないな、めちゃくちゃに堕落している。むしろニートにも失礼かもしれないくらいだ。
どこからこんなルートを歩むことになったのか、それは比較的最近のことからだ、でも本当は最初から決まっていたのかもしれない。
「……これからどうしよっかな」
でも、こんな状況でも案外簡単に、一瞬でこの状況を抜け出すことができるもんなんだな。
もちろん、俺に何か天才的な人生逆転のシナリオや現状の打開策があったわけではない。
結局、やり直そうと思えばやり直せるということは自覚していた、でも、ここからやり直そうとする意欲も根気も一才湧かない。その狭間を終始彷徨っていた。
初めからやり直せることができるのならば話は変わるのかもしれない。
でも、実際はゼロからでも一からでもなく、引き返せもしない中途半端な位置から再開するという選択肢しかない。
そう考えると、途端に最初から、本当の最初からやり直したくなる。
そんな我儘なことを考えていた。
こういう思考に陥る時点で、俺にはもうここから一切やり直そうとする気になることはないのだろう。
人に来世ってあるのかな
今を生きていることにネガティブになると自分に対して起こる出来事もマイナスなものだけになるというのは本当のことなのかもしれない。
路地裏を抜けてしばらく目的地もないのにシャッター商店街をふらふら歩くがろくに整備されていない道で段差に躓き転んでしまう。
立ち上がると気分が悪くなったので、踵を返して家に帰ろうとする。
もう、何日振りだろうか
実際はこの数日間、そこら辺の路肩で寝ていたわけではない。訳ありではある。
でも、ろくに食事も睡眠もとっていないので足元がふらつくが懸命に家に帰ろうとする。
そう、こんなことを考えつつも俺は今日も懸命に生きていくつもりだった。
三日に一度ほどしか帰らない家への帰路に着く。
しかし、ふと左側をみると目の前に巨大な影が俺に迫ってきていた。
今、音してたか?
躱そうとする気力も体力もなく、俺はトラックに轢かれてしまった。
いつも車は通らず、人ですら歩いていないような道でなぜかトラックに轢かれ頭を地面に強打した。
次第に視界が暗くなっていく。
あれ?走馬灯も何もないのか
こういう時って走馬灯でも見て人生を振り返りながら死ぬもんだと思ってた。
俺の人生ってなんか最後の、最期まで中途半端なんだな
改めて思う、
人に来世ってあるのかな?
もしかしたらこの時は後悔していたのかもしれない。
すると、何か淡く優しいものに包まれるかのような感覚が全身に走り意識が途切れた。
目が覚めると、というより朦朧としていた意識が少しずつはっきりしてきたとき、目を開けると見覚えのない木板の壁が視界に入った。
あれ?生きていたのか?
トラックに轢かれて頭を打って少しずつ視界が暗くなって…と俺の頭の中にある記憶を順々に探っていく。
当然、意識がなかったのでこの先何も覚えているはずがない。
目がはっきり開かない
病院とは思えない木造の屋根裏、真横にある窓の外を見ると今まで見たことがない自然豊かな広々とした平原
しかし、外の景色ははっきりと見えた。
容体があまりにも悪くてヨーロッパの病院にでも移動させられたのか?それにしても田舎だな。というかそもそもここは病院ではないんだった…
頭が回らず様々な情報が一度に頭に傾れ込んでいく。何もしていないのに少し疲れて再びベッドに転がる。
そこで力の使い方に違和感を覚え、本来は最初に気づくであろうことに今更気がついた。
体が小さくなっている
下半身を切断したとか?
トラックにもろに轢かれたのだから後遺症なら十分にあり得る。
むしろ、あって当然だろう。
俺はこのままずっと親に迷惑をかけていくことになるのだろうか
もし、ここがヨーロッパなら様々な費用が治療費に積み重なることになるだろう。
その費用は両親が払うことになってしまう。
その上、こんな俺の面倒を見てもらうことになってしまうのかもしれない。
しかし、ここで少しでも自分の心配をしてしまう俺を心底悔やむ。
結局俺の頭に現実的かつ恐ろしい可能性がよぎり恐る恐る自分の目で確認する。
幼体化してる!?
下半身があることを確認すると安心する暇もなく思っても見なかった衝撃的な事実を理解し驚愕する。
すると、これまで疑問に思っていたことの答えを次々と理解してきた。
これって転生か
まさか何かしらの最新技術で自分の脳を何かと共にこの赤ん坊に移植したなどという類のことはないだろう。
それに今思えば絶対即死する状況だった。
そういえば死に際?に来世のこととか考えてったけな
転生しているという事実にはあまり驚かなかった。とはいえ、俺自身は事故に遭った直後だったので驚けないのも無理はない。
そこで、悪い記憶は忘れようとする本能でも働いたのか前世のことをすっかり忘れて、さまざまなことに興味が湧いた。
今って何年ごろなんだろう?
俺って今何歳くらいなんだろう?
ここってなんて国なんだろう?
先程の疲れを忘れ、再び起き上がり部屋を見渡す。
別に何も分からなかったけれど再び外の風景に目を取られる。
こんな俺がなぜか希望を感じてしまうほどだ。
日本では見たことのない美しい自然豊かな風景に溜息をもらすほど感動する。
もちろん、日本にも絶景はたくさんある。
しかし、この景色はそれとはまた何か違うものを感じさせられた。
しばらくして、再び疲れてベッドに寝転んだ。体は幼児なので体力は少なくなっているのだろう。
やはり、興奮していたのだろうか。冷静になった今、先程のといっても俺の中ではついさっき、数十秒前に起こった出来事を振り返る。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
小さい頃から俺は運動が得意だった。四歳になった頃には親の手を焼くほど足が早くあちこちに走り回っていたらしい。でも、両親は俺が興味を持ったものには積極的に習い事の体験に行かせてくれてたし、家庭環境には恵まれている方だった。
スポーツ系の習い事は何個も通っていて、特にサッカークラブには何年も通っていたこともあり、小学校の運動会では六年間ずっとリレーメンバーだった。
その頃はまだ勉強もそこそこ出来ていて平均点は毎回余裕で超えていた。
小学生の頃はもう少し社交的だったらクラスの人気者になれるような生活だった。
でも、中学生に上がった頃からは周りとの勉強量の差が如実に現れ始め遅れを取り始めた。
いや、小学生の頃勉強できていたのはヒデのおかげだったな。ヒデは名前の通り優秀で、ん?あっ、そんなこと言ったら俺も…か
ヒデは中学受験をしていて塾にも通っていたから学年では一番成績がよかった。
いや、塾に通っていたからとかじゃない毎日隙あらば勉強していた努力の賜物なのだけれど。
ヒデは人に勉強を教えるのが本当に上手かった。やはり、本当に勉強ができる人は人に教えるのも上手いのだろうか。
ヒデは中学受験に成功し日本最高峰の国立中学に進学した。公立中学に進んだ俺とは違ってヒデは遠いところに毎日通っているので、俺と会う機会は一気に減った。ヒデは放課後にも中一から通い始めた塾に篭りっきりだったそうだ。
そして、ヒデは浪人することなく一発で国立の大学の医学部に合格していた。二十六にもなった頃にはすでに一部では有名な医者になっていたらしい。
一方、その二年前に俺の父が病気になった。家庭が経済的に苦しくなり俺は働き始めた。少しでも生活の足しにと思ってバイトを始めたがそれがまさかの闇バイト。典型的な詐欺や強盗などではなかったけれど少し特殊な例だったらしい。
懲役とかは何にもなかったけれど、前科はしっかりつき、二年間働いていた仕事はクビ、新しい仕事もやっと見つけたけれどおそらくあれはブラック、罰金も課せられていたので結果的には両親に迷惑をかけてしまっただけだった。
終始、両親には迷惑だけをかけて、親孝行は何ひとつできなかった。
挙げ句の果てにはトラックに轢かれて死亡。
こんな引き返しようのない人生ってあっていいものなのだろうか。
いや、引き返せなくてもやり直そうと思えば、どこからでもやり直せた、実際には途中から始めることになってしまうかもしれない。
でも、少し運が悪いことが続いただけで自棄になって俺自身でその可能性を潰した。
途中でもう諦めてしまったのだ。
唯一よかった思い出というか、俺のほとんどの思い出には隣にヒデがいた。
やはり、良い友達がいると良い影響を受けるものなのだろうか。
その頃の俺なら、何か失敗を犯しても一からでもマイナスからでもやり直そうと努力しただろう。
その心構えがあるかないかだけで結果が大きく違っていたようだ。
俺はやっぱりあいつに憧れてたんだ
やはり、そういう結論に至る。
だからずっと側に居たがったんだ。
初めから、輝いていたあいつに俺は憧れてたんだ。
授業中誰もわからない問題に一人だけ手を上げて答えていたあいつに
宿題で問題が解けず行き詰まっている人に手を差し伸べていた君に
失敗を犯した俺に一つも文句を言わず一緒にやり直そうとしいてくれたヒデを
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
また、あいつに会えるかな?
先程の出来事というか俺の人生を振り返ってしまったが、走馬灯が今頃になって見え始めたのだろうか。
明らかに前半のは走馬灯だった。
だとしたら俺の脳のどこかしらの部位がめちゃくちゃ鈍感だということになる。
いやこの赤ん坊の脳か、どちらにせよ俺、ということでいいんだよな。
仮にここがヨーロッパの知らない国でもどこでも百年とか経っていなければおそらく会えるだろう。
あいつに会えたら今度こそは…
途中で人生を捨てた俺にもう一度のチャンスがあって良いのだろうか
生きる意味を見失った俺にこんなチャンスがあって良いのだろうか
あのまま死んで地獄に落ちていたのならこのように親友の存在の大切さを理解することはなかっただろう。
せっかく生まれてきたのにその命を投げ出すということがとても重い罪だということに気づくこともなかっただろう。
この命は決して無駄にしないと、そう誓った。
しばらくして突然、音一つなかった部屋の扉が開く。
目を向けた先には綺麗な茶髪をした女性が別の子供を抱えながら部屋に入ってきた。どうやら彼女は今の俺の母親らしい。一目見てそう理解した。
今、俺は青いパジャマのような服を着ている。今、母が抱えている子供はピンク色のお揃いの服を着ている。
一瞬で理解した。
彼女は俺の妹のようだ
趣味で小説を書き始めました。まだ、初心者なので表現や文章が未熟ですが是非この作品を楽しんで読んでいただければ幸いです。 ミスがあれば是非教えてください。 一話ごとの分量もバラバラですが、これからよろしくお願いします。
小説を書くの面白いですね。一年くらいはこれを書き続けられたらいいな