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国家の事情&エピローグ

 マキシウスは王妃に対し、正眼に構える。


「母の魂は解き放たれた。あとは王妃。貴様の懺悔のみ」


 王妃は髪を振り乱し、息を荒げる。


「まだ……まだよ。わたくしは何度でも蘇る」


 王妃が何事か唱えると、床や壁から黒煙の様に手が生えてくる。

 それらの手を取り王妃は嗤う。


「残念だけど、ここは退却するわ。またね、聖女様」


 王妃は闇の中へ姿を隠そうとする。

 だが……。


 電光が走り、王妃を支えた黒い手は全て消え失せた。


 聖女ソファイアも薄く笑う。


「残念だったね、王妃。もうあんたの呪法は全て無効だ」


「なっ! そんなこと……」


「王宮全体を、聖なる祈りで固めたからね」


 ラントルが頷く。

 部下たちの六方向からの聖なる祈念は、上手く発動したようだ。


「くっ! かくなる上は!」


 王妃は細身の刃をソファイアに投げつけた。


 マキシウスはその刃を剣で弾くと、足を踏み出し袈裟懸けに王妃を斬った。

 王妃はバランスを崩し、斜めに倒れる。


「心臓だ! 兄さん! 王妃の心臓を突け!」


 トールオに指示された通り、マキシウスは王妃の左胸を刺した。

 口から血を吹いた王妃は、それでも国王に向かって手を伸ばす。


「こんなに……求めても……あなたは……わたくしを……選ば……ない」


 王妃の絶命と同時に、彼女の左胸から黒い塊がゴボリと落ち、シュウシュウと音を立てて消えた。

 ゆっくりと立ち上がり、国王は王妃の瞼を閉じさせると、二人の息子を呼ぶ。


「マキシウス。トールオ。聞きなさい」


 息子二人は国王の前で、臣下の礼を執る。


「王妃の始末、かたじけない」


「「はっ」」


「しかしながら、ここまで、王妃の暴走を許してしまったのは、私の罪であり国の罪だ」


「国の罪……フォレスター国の罪ですか?」


「正確に言えば、王族とその周辺の罪なのだよ、マキシウス。我が国は、諸国との友好関係を結ぶことが叶わない時に、丁寧に互いの信頼を築くことを放棄して来た。

 

そして、他国の重鎮や反発する貴族らを、密かに葬ってきたのだ。

力なき者たちには武力で。

相応の武力を持つ国や一系には、呪法を使って。

それを喜々として請け負っていたのが、王妃の生家だ。


王妃の一族を甘んじて受け入れていたのが、王家だった」


 国王は掌の中の光の玉を、撫でる。


「元々ヴィエーネの一族を呼び寄せたのは、研磨技術を武器作りに生かすためだった。

たまたまだった。ヴィエーネには、リスタリオに現存する聖女の御力が流れていたのは。

ヴィエーネはお前を産んだ後も、朝な夕なに国と國民のことを祈っておった。


その祈念があったから、ギリギリ守られていたのだろう。国も。わたしも」


 ソファイアがフォレスター流の正式な礼を執り、国王に訊ねた。


「国王陛下にお尋ねしたい」

「如何様にも」

「聖女の祈りをも無効化するような呪法は王妃殿下お一人の技であったのでしょうか」


 国王は軽く頭を横に振る。


「王妃が中心的な存在であったのは間違いない。ただ、王妃に種々の呪法を授け、生きた人間から魂を抜き取るなどという邪法は、異国の者の技であろうな……」


 国王は小さく咳き込んだ。

 そして掌の光の玉に向かって、微笑む。


「そろそろ時間だ。マキシウス。トールオ」


「「はい」」


「全ての責は国王アルゼオンと王妃マルティアにあったと、周知せよ。ふがいない父親で、済まなかった」


「「父上!」」


 国王は、掌の光の玉に向かって、微笑む。


「一緒に行こう。ヴィエーネ……」


 光の玉の中には、在りし日のアルゼオンとヴィエーネが寄り添う姿が映し出されていた。



 翌日、フォレスター国王太子の名により、国王と王妃の病死が発表された。






◇◇



 国王の遺言通り、トールオはマキシウスの追放を含め、国内の諸々の問題は、国王と王妃の浅慮であったと周知した。

 結果、マキシウスの名誉は回復し、王族の籍も戻った。

 本来、王太子であったマキシウスが、フォレスター国の王位を継承するのだろうと王都では噂されたのだ。


「どうしてもリスタリオに帰るのか?」

「ああ」


 王宮の修復工事が行われているため、別館に滞在するマキシウスとソファイアの元にトールオが訪ねて来た。トールオは、マキシウスが新国王になるべきだと進言した。


「俺はリスタリオの国王女の婚約者だぞ」

「だったら、王女もこちらへ呼べば良い」

「バカ。リスタリオの王位継承者なんだよ、ソファイアは。子猿みたいな成りだけど」


「子猿は余計だ!」

 

 ソファイアの肘鉄がマキシウスの脇腹に入る。


「ところで王太子殿下」


 ソファイアの呼びかけに、トールオは顔を赤くする。


「殿下呼び止めてください」


「じゃあトールオ」


 いきなりの呼び捨てに、マキシウスは飲んでいた茶を吹きそうになる。


「なんであんただけ、王妃の呪法があまり効いてなかったの?」


 トールオは考えながら言う。


「多分……。幼い頃、ヴィエーネ様と一緒に過ごす時間があったからだと思います」


 傷ついた小鳥を癒すヴィエーネの聖なる御力が、当時のトールオの心に深く刻まれていたからだと、トールオは思っている。

 あの時の小鳥をトールオはひそかに飼っていた。

 もっともロゼリアが王妃に攫われた時、あの小鳥が救出に、ひと役買っていたことはトールオも知らない。


「でも、王妃に逆らうこととか、出来なかったんだね」

「ええ。契約の呪法をかけられていたので」


 ラントルが部屋に来て、マキシウスに耳打ちする。


「帰る準備が整ったようだ」

「でも、兄さん……」


 マキシウスはトールオの頭をわしゃわしゃ触る。


「お前が王太子だ。ロゼリア嬢と一緒に、国政に当たれ」


 残念そうな表情のトールオに、マキシウスは笑いかける。


「フォレスターがヘンな動きをしたら、成敗に来るからな」


 マキシウスの笑顔は、遥か昔の想い出と変わらないものだった。



 別館を出ると、ロゼリアが佇んでいた。

 ロゼリアはマキシウスを見ると、何か言いたそうである。


 マキシウスは気付かぬフリをして、軽く手を挙げた。

 転移門までは、ラントルが馬車で送った。


 馬車の中で、互いの手をしっかりと握り合っているマキシウスとソファイアの姿を、ラントルは見ないようにして馬を進めた。



 そして月日は流れる。


 リスタリオに戻ったソファイアとその婚約者は、ソファイアが成人年齢に達すると結婚式を挙げた。式典には同盟国の新国王と王妃が参列し、互いの友好関係を近隣諸国にも認めさせたという。


 夫婦になったとはいえ、マキシウスがソファイアを子猿扱いしているというのは、単なる噂である。



 了

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― 新着の感想 ―
[一言] 兄弟が仲直り出来てよかったです。 お妃様、一番になりたかったのでしょうね。そう言う意味では、ロゼリアも同じなのでしょうけど、変に力がなかったところで救われたのだろうなと思います。 小鳥思いの…
[一言] 完結おめでとうございます! お手本のような素晴らしいラストでしたね! 名作をありがとうございました!
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