表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/24

王宮の事情

 王太子であったマキシウスを鉱山に追放して、早半年。

 国内の主な収穫期は終わり、社交シーズンが到来した。


 第二王子のトールオは、立太子の儀を控えて宰相と打ち合わせをしている。


「近隣諸国も招きたい」


 マキシウスの時は、神殿内で高位貴族のみ出席という、比較的地味な儀式だった。

 トールオは、王宮の広間で大掛かりなパーティを開きたい。

 マキシウスとの格の違いを見せつけたいのだ。


「諸国全域を招待するとなると、費用も跳ね上がりますが……」


 宰相は眉を寄せながら、トールオに告げる。

 本年は領地からの収益が、思いのほか上がってこない。

 かねがね、質実剛健を体現する第一王子と異なり、派手好きな第二王子の浪費癖に、宰相は頭を悩ませている。


「私としては、鉱山の向こうにある、なんといったか、蛮族の国……」

「リスタリオ、でございますか?」

「そうそう、そこは是非招待したい。そして帰国時に鉱山に立ち寄って、元王太子に接見して貰いたいのだ」


 宰相は心中ため息をつく。

 幼少時より、トールオはマキシウスに激しい対抗意識を抱いている。

 年齢差は一歳。妃同士は仲が良いとは言えない。


 だが、贔屓目なしに、全ての資質はマキシウスの方が上だった。

 長子継承が基本のフォレスター国において、次代国王はマキシウスと、早くから内定していたのだが……。


「リスタリオ国とは、直接の国交を結んではおりません。もし招待状を送るのであれば、一度陛下にお伺いを立てて下さい」


「……相分かった。ところで宰相、そなたのご息女は幾つになられたかな」

「は。十三になります」

「我が側妃に丁度良い年ごろであるな」


 下卑た笑い声を上げながら退出する第二王子に、宰相は無言で頭を下げた。



「何? リスタリオ国を招待するだと?」


 国王はトールオの提案に、声を荒げた。

 

「え、何か、問題でも?」

「大ありだ! 馬鹿モン!」


 机上の書類を撒き散らし、血相を変える国王の執務室から、トールオは這う這うの体で逃げ出した。理由くらい教えてくれても良いじゃないかと思いながら。

 誰か、知っている人はいないのか?

 宰相は、多分知っているだろうが、話してはくれまい。


 さすれば……。


 気は進まないが、王弟であるネロス公爵にでも聞いてみよう。


 

「何だって? リスタリオを招待? そんなことを陛下に進言したのか、君は」


 数日後、ネロス公爵邸を訪れたトールオに、公爵は冷ややかな視線を向けた。

 元々、ネロス公爵は近衛騎士団団長に就いており、マキシウスの剣術の指南役でもあった。


 当然マキシウスを可愛がっており、剣術も苦手なトールオには近寄りがたい相手である。


「おいおい、しっかりしてくれよ殿下。国同士の関係や、わが国の王族の歴史ぐらい、子どもの頃から教えられているだろう?」


 あからさまに見下されたが、それでもトールオは理由を知りたいと食い下がった。


「へえ、珍しく根性みせるね、トールオ殿下。……しょうがないな。これから国を背負う立場になるのだから、このくらい知っておいてもいいだろう」



 ネロスは、大きく息を吐き語り始めた。




◇◇王弟の一人語り◇◇

 

 

 まずは基礎的な質問からだ。


 元王太子だったマキシウスの御母堂は誰だ?

 そう、正解。オクトラ伯爵家のヴィエーネ様。

 側妃? 君も気付いているだろう。本来は彼女が第一妃、すなわち正妃の予定だった。


 何故って?

 陛下が惚れこんで、いや、それだけじゃないな。

 この国を想って正妃に迎える予定だった。


 ところで、オクトラ伯爵については、何か聞いているか? 

 ああ、何も知らないんだな。

 オクトラ家は、元々は他国出身だ。

 何代か前の当主がフォレスター国へと移り住んで、功績が認められて爵位を得た。


 貴族名鑑には、そう書いてあっただろう?


 そう、その「まさか」だよ。

 オクトラ家のルーツは、リスタリオ国にあるんだ。

 しかも、リスタリオの祭祀を司る、名門だ。


 リスタリオの祭祀に、必ず必要な物がある。

 それは水晶だ。

 オクトラ家は、掘り出した水晶を正確に成形する技術を持っていた。


 その技術を我が国が欲して、オクトラ家を招聘したというのが真相だ。


 そのオクトラ家の令嬢を兄上が見染めた頃、リスタリオ国でも少々問題が生じた。

 祭祀には、道具を揃える他に必要なことがある。

 何だか分かるか?


 まあ、分からんだろうな。

 祭祀を行う者だ。我が国では司祭がそれに当たる。

 リスタリオは、聖女と言って、特有の能力を持つ女性が行っていた。


 その聖女の能力を持つ者が、リスタリオ国内では見つからなくなった。

 理由は不明だが。


 そして、リスタリオの諜報部が調べた結果、オクトラ伯爵家のヴィエーネ様こそが、聖女の能力を持つ人だと判明した。



 リスタリオからヴィエーネ様を求めて使者が来た時には、既に兄上は仮初婚を済ませていた。

 勿論、ヴィエーネ様を手放すなんてとんでもない。


 戦が起こりそうなほど、わが国とリスタリオ国には緊張が走った。


 どうした? 顔色が悪いぞ、トールオ。

 結論として、戦争にはならなかったよ。

 ヴィエーネ様が正妃を返上し、生まれたばかりのマキシウスを連れて、リスタリオにしばらく滞在したのだ。聖女としてのお勤めも、次の聖女候補が見つかるまでの数年間、ヴィエーネ様がこなしていた。


 まあそれでも、火種は残ってしまったが……。


 これで分かったか?

 リスタリオ国に残った火種は、ヴィエーネ様が儚くなられたことにある。


 火種を付けたのは、現正妃、すなわち君の母親だ。

 これ以上の話となると……。


 あれ、もういいのか?

 それでも君がリスタリオ国に招待状を送ると言うなら、私は止めんよ。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ