表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/24

装備品の事情

 がらんとした会場で、トールオはソファイアに跪く。


「お会いしたかったですよ、聖女様。もう一度、ご挨拶を」


 ソファイアの手甲に、軽く唇をつけようとしたトールオはビクリと顔を上げ、後ろに下がる。


「丁寧なご挨拶、痛み入るぞ王太子殿下。されど……」


 ソファイアは恐れも憂いもなく、トールオに言う。

 いつもの子猿とは違う、神々しいセリフだ。


「我が心も体も、女神の加護がある。よって、(よこしま)なる者は、近付くこと能わず」


 立ち上がったトールオは、何故か嬉しそうだ。


「あははは! バレてましたか。確かに王妃からは、聖女の体に印を刻めと言われてました」


「印か。呪いの刻印だな」


 手甲をささっと祓うソファイアを庇うように、一歩前に出たマキシウスは、王弟ネロスから託された、仕込み杖を構える。


「その王妃は今、何処にいる」


「怖い怖い。兄さん、目が怒ってるよ」


 両手を肩まで上げて、トールオは首を振る。


「俺は、国王を継ぐことなどに興味はない。お前がやれば良い。だが……」


 カチリと、マキシウスは鯉口を切る。


「借りは返す主義だ」


「それは、僕も同じだよ、兄さん」


 マキシウスが持つ杖の先端が光る。

 三角錐の水晶が強い光を放った。


 同時に。


 トールオの左胸が、同じ様に光る。


「ぐはっ!」


 トールオは胸を押さえる。口元には一筋、血が流れている。


「王太子! 貴殿の胸で光る物は何だ! まさか……」


「ぐっ……父上から、いただいた、ラペルピン……」


 トールオの胸元には確かに小さな宝飾が、眩しい光を振りまいている。


「それは、ヴィエーネ様。ヴィエーネ様の輝水晶だ!」


 ソファイアが呟いた瞬間、双方の光は合体し、たくさんの六角形の光の結晶を、部屋中に降らす。


 光の饗宴の最中にいる三人の目には、揺れるように現れる人影が映る。


「母さん!」


 人影は朧気に、ヴィエーネの姿を成す。


『わたくしは、魂を抜かれました。魂無き肉体は、あと七日後には滅びます』


 ヴィエーネは、哀しそうな声で告げる。


『人の命は儚いもの。滅び行くのもまた自然の摂理。

ただ、心残りは、魂の片方が、封じ込められてしまったこと』


「魂を、抜かれた……」


 マキシウスは愕然とする。

 母の死は、病死などではないと、ソファイアから聞いていた。

 聖女は病気や毒では死なないと。


 死ぬとしたら、呪いであるとも。

 呪いはヴィエーネの魂を肉体から抜き出し、その一つを何かに封じたというのか!


『今、これを見ている方は、二つの水晶を手に入れたはずです。

この水晶は呪法をかけた相手に、それと分からぬように用意した物。

お願いがあります。

わたくしの魂の片割を、解放して下さい……さすれば……この国……』


 光は消えた。

 ヴィエーネの言葉は最後は聞こえなくなったが、封じられた魂を解き放つことが急務であることは分かった。


 しかし、なぜトールオが、ヴィエーネの遺言を秘めた石を、持っているのだろう。

 マキシウスの疑問に、トールオが答える。


「父上が……陛下がずっと手放さなかった宝飾だ。きっと、ヴィエーネ様からの贈り物だったのだろう」


 マキシウスの頭に、金属音が響く。


「ちょっと待て。国王陛下がそれをお前に託したということは、陛下もこの事を知っているのか?」


「分からない……。でも王妃が呪法を使えることは、父上が一番分かっているはずだ」


「王太子よ。なぜ、そなたは我々二人をここに呼んだ? フォレスターが呪術を使うことを、我がリスタリオは忌避している。それは貴殿も既知であろうに」


 ソファイアの詰問に、トールオは口元を緩める。


「だから、呼んだのです、聖女様。あなたと兄さんなら、アレを断ち切れる。自分には、出来ないのだから」


 トールオはマキシウスを見つめた。

 昔の、出会った頃のトールオの眼差しに似ていると、マキシウスは思う。


――兄さん、こっちだ!


「まあ、自分の力を、周囲に見せつけたいというのが、一番だったけどね」


 トールオは、ハンカチを出し、軽く口元を拭く。

 そのハンカチには、丁寧な刺繍が施されていた。


 マキシウスがトールオの手元を見た、その時である。


 王宮全体が、ぐらりと揺れた。

国王は今どうしているのでしょう。

ここまでお読みくださいまして、ありがとうございます!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 前回に続いて、(やった事はともかく)トールオがしっかり考えてる奴で良かったのですが、何やら不穏な流れになっているあたりここからどうなるのか……!?
[一言] 続きが気になるううう!!!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ