異世界転生したようですが、神殺しの剣でした。処分予定だそうです。
異世界転生しましたーーー!!!
はい、ドーン!
テンション高めに実況しているのは、出来たてホヤホヤの神殺しの剣です。
・・・・・・・・・・・・意味わかりませんね。
私もわかりません。
神殺しの剣として作られた私は、どこぞのガチャSSR演出のようにピカー、と光ってます。ハイ。
前世の記憶はありませんが、ガチャ演出やら現代用語はわかるようです。
人間に転生していたら知識無双、NAISEIのワンチャンあったかもしれませんが、神殺しとはいえ、剣です。
ただの剣です。
意味ないがな。
はい、ドーン!
ピカピカ光っております。
「神殺しの剣か・・・・・・。・・・母上に怒られるな・・・」
ファンタジー小説でよくある鍛冶場で項垂れる創造主。
「どうしよう・・・。どう、処分しよう・・・」
誕生してすぐ処分?! 死ねと?!!
異世界転生したら剣だし、即処分はあり得ないでしょうが!
なんとか、処分されないようにしないと。
処分・・・ってか、ただの剣だし。
話せない、動けない剣にどうしろと?!!
悪役令嬢みたいにメタ知識で破滅フラグの折り方ないし。
「ああ、どうしよう?!」
創造主よ、そう言いたいのは処分回避できない私だ。
「母上に嫌われているのはわかっている。だけど、母上を殺す気なんてないのに、神殺しの剣なんか作ったって知られたら、絶対に殺す気だって怒られる・・・! どうしよう?!」
あ~。神様あるあるキターーー!!!!
母神に嫌われている鍛冶の神って、どこのギリシア・ローマ神話だよ!
創造主はあーとか、うーとか唸りながら足を引き摺りながら部屋の中を歩き回っている。――ギリシア・ローマ神話転生だな、こりゃ。
「わたしの作ったものはそう簡単に壊れたりしない。破壊なんて不可能だ。生き物であれば死ぬことはあっても、剣だぞ。止まる心臓がないんだぞ。心臓なくても、植物は生きてるし、生きてない剣をどうやって殺せって言うんだ」
創造主はパニクッってる。
それから数日、壊れないもので死なないものをどう処分するか、創造主は悩み続けた。
◇◇◇
「ヤッホー! バルカン。面白そうな匂いがして、遊びにきたよー!」
と羽の付いた男の子がやって来た。ギリシア・ローマ神話の世界なんだから、この子も神か神の眷属なんだろう。
ていうか、面白そうじゃなくて、厄介事の匂いじゃね?
「ああ、キューピッド! なんで、こんな時に来たんだ?!」
「僕と君の仲じゃないか。君の槌の音がしないから、気になって来てやったんだよ。今度は何を作って落ち込んでるの? 奥さんの浮気暴露ベッドパート2? 寝ている間に身長伸ばすベッドパート2?」
愛と美の女神ヴィーナスの息子キターーー!!!
そして、地味にパート2が付くベッドばかり言ってくる。バルカンの作品、ベッドだけかよ!
「なんで、ベッドオンリーなんだよ?!」
だよねー。
「愛と美の女神とその夫にベッドが関係なかったら、どの神にあるんだよ」
頬膨らませて言うけど、バルカンは鍛冶の神だから!
ベッドの神じゃないから!!
眠りの神、無視すんな!
「わたしは鍛冶の神だよ!! ベッド製造神じゃないから!!」
だよねー。
「ベッド製造神って、平和的で良い響きだよね。鍛冶の神より需要多そうじゃない」
「鍋の需要だってあるぞ」
確かに、煮炊きに使う調理器具は必要。
「鍋は一家に一台。ベッドは一人一台以上、必要だよね。ほら、ベッドのほうが需要ある」
「・・・包丁だって需要ある」
調理器具は必須。
「鍋と包丁で一家に二台。子ども一人いれば、親子三人にベッド三台必要だよね。やっぱ、ベッドのほうが需要あるよ。宿にも客のベッドいるから、ベッドの需要は無限大だね☆」
何がなんでもベッドの神にしたいらしい。キューピッドだけある。
「・・・・・・・・・」
創造主も呆れた顔して無言だ。
わかる。わかるよ。その気持ち。
「で、何、物騒なもの作ってんの? 神殺しの包丁?」
「包丁じゃない! 剣だ!」
「剣でも包丁でもどっちでもいいんだけどさ。神殺しって、誰、殺したいの? 奥さんの浮気相手?」
「なんで、そうなる?! わたしが使う前提か!」
「え?! 使わないの?!」
「使うか!」
「じゃあ、浮気者の旦那のいる奥さんの依頼?」
「だから、なんで、使う前提なんだ?!」
「使う前提じゃなかったら、なんで作ったんだよ。そんな物騒なもん」
「これは・・・――なんで、作っちゃったんだろうな?」
「作っておいてわからないの? なんで、作っちゃったんだよ?!」
「さあ。・・・・・・――こいつが作ってくれ、と言ったからじゃないか?」
創造主に濡れ衣着せられたーーー!!!
濡れ衣だよ!!
私は作られるまで意識なかったよ!
「面白そうだから、コレもらっておくよ」
「面白そうだって、持って行くな!」
「僕、剣使えないし、凶器にならないから、ちょうど良くない?」
「使えないからって、持って行っちゃダメだろ」
「他の神に見つかったら危険だよね。それなら僕が持っているほうが安全じゃない?」
「はあ?!!」
お前が言うな顔の創造主。
わかる。
わかるよ。その気持ち。
キューピッドのこと知らなくても、今の会話だけで充分、ヤバい奴だってわかる。
「僕が使うのは弓矢だし、百発百中。最強だし。誰にも忖度しない」
「忖度どころか、喧嘩売りまくってるだろうが!!」
「いいじゃない。だって、僕、最古の神の一人だよ? 仕事しなきゃいけないこと多いの」
キューピッドって、ヴィーナスの息子じゃなかったっけ?
???
「喧嘩売ることが仕事か?!」
「そうだよ。世に変化を与えることが僕の仕事。愛はすべての現象の始まり。――フフフ。愛の前には不変なんてものは許されないんだよ。常に変化し続ける運命を維持するしかないんだ。浮気症だって、必要な変化の為のものなんだよ」
「プシュケのこともか?」
「うん。運命の悪戯が無ければ、プシュケは僕のものにならなかった。運命の悪戯があっても、すぐにはうまくいかない。うまくいくようになっても、それを維持しなければ、一緒に居られない。――神殺しの剣ができたようにね」
「・・・」
「この剣は貰って行くよ。こんな危なっかしいもの、放置できないからね。誤って僕が死んだら、プシュケが悲しむからね」
「それが理由か?!」
「だって、君には神殺しの剣の処分方法がわからないだろ? ヒントはピグマリオンだよ」
「ピグマリオン? そうか、それがあったか!」
「そうだよ。無機物を人間にする。そうすれば、君の作品でも殺せるでしょ。剣じゃなきゃ、耐久性も下がるし、神を殺すのも大変だし、人間なら寿命もあるしね」
あ。人間になれるっぽい。
やった。
これで知識無双できる。
「人間になっても、君じゃ面倒見られないから、僕が預かっておくよ。だって、僕は愛の神。どこにでも居て、どこにでも居ない存在。僕の眷属もどこにでもいる存在だからね」
どうやら、キューピッドとその眷属の監視付きで人間ライフをおくることになったらしい。
ビバ! 人間ライフ(吐血)!!
プシュケ・・・キューピッドの妻。元人間でヴィーナスが嫉妬するくらい美人。
ピグマリオン・・・彫刻家。自作の彫刻に惚れて神に人間にしてもらって妻にする。息子は母親似なのか超美形で、実の娘に恋焦がれられる不憫な人。
ギリシア・ローマ神話・・・古代ギリシアのトロイ国が戦争で負けて、生き残った人々が移り住んだ新天地がローマなので、ひとまとめにされる。例)アフロディーテ(ギリシア)→ヴィーナス(ローマ)