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【コミック4巻12/13発売】前世魔術師団長だった私、「貴女を愛することはない」と言った夫が、かつての部下(WEB版)  作者: 三日月さんかく
第5章

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95:継承者の資料室



 小型ゴーレムはすぐに見つかった。

 だが、シャッフルする建物内を自由自在に動き回り、なかなか捕獲もしくは破壊することが出来ない。ゴーレムはまるでシャッフルされる部屋の法則性を知っているかのようだった。


 そうして何度もゴーレムを見失いながら、シャッフルされ続ける魔術師団の建物内を探索していくと――。


「……何だろう、あの扉?」


 重厚そうな両開きの扉が、廊下の外れに出現していた。

 私が団員だった頃には、こんな扉が付いた部屋など見たことが無いが。ギルの代では増築や改築を行ったのだろうか?


 首を傾げている私とは対照的に、ギルは険しい表情で両開きの扉を見つめている。


「ギル、これって何の部屋なの?」

「……それを今、僕が貴女に尋ねようと思っていたところです。僕は魔術師団に在籍してから、こんな扉は一度も見たことがないのですが」

「うっそぉっ!? ギルも知らない謎の部屋!?」


 何だ、それは!?

 びっくりして、私とギルが顔を見合わせている間に、小型ゴーレムが出現した。

 小型ゴーレムは素早い動きで扉の前に移動し、錠穴に鍵を差す。


「え!? なんで、あのゴーレムが謎の部屋の鍵を持ってるの!?」

「そもそもあのゴーレムが今まで魔術師団の建物のどこに潜んでいたのか不思議だったのですが。もしや、あの部屋が住処なのでは……」

「ゴーレムのおうちってこと!? すごく豪華そうだね!?」


 言われてみれば確かに、ゴーレムは我が家に帰るという様子で扉の中に入っていった。

 扉の隙間から、一瞬だけ室内の様子が見えた。天井まで届くほど高い本棚が迷路のように設置され、分厚い本や古い書類の束で溢れている。背表紙の文字を見るに、本はすべて魔術書のようだ。

 もしや、その魔術書って……?


 室内の様子に呆気にとられている内に扉が閉まり、ガチャンッと施錠される音が続いた。

 私は慌てて扉の前に近付き、取っ手を握ってみるが、やはり鍵が掛けられていて動かない。まんまと住処に逃げ込まれてしまった。


「あ~あ。これじゃあ扉を爆破しなくちゃ無理かも」

「いいえ、オーレリア。爆破魔術でも無理でしょう。結界が張られています」

「防犯対策完璧じゃん……」

「ここを見てください、オーレリア」


 ギルが指差したところに、金色のプレートがあった。


『継承者の資料室(鍵を継承する魔術師団長のみが、扉を開けることが出来ます)』


 私はプレートの文字を読んでから、一度目を瞑った。


「……ギル、一つ言っていいかな?」

「一つでも二つでも三つでも、オーレリアのお好きなように」

「このプレートの文字、ばーちゃんの字だ……。そしてバーベナは鍵を継承しなかった……。鍵の継承者はグラン元団長で止まってる……。あと、一瞬見えた室内の様子から察するに、殉職した魔術師団員の研究資料は十中八九、ここに収納されている……。ゴーレムの手によって……!」


 つまりこの部屋は、うちのばーちゃんが作った、持ち主がいなくなった資料や論文を保管するための資料室なのだ。

 おじいちゃん先輩が制作した小型ゴーレムが資料を回収し、管理をしているのだろう。

 代々の魔術師団長がこの資料室の鍵を継承することになっていて、でもグラン元団長はバーベナに鍵を継承出来ずに亡くなってしまった。この資料室の継承が途絶えてしまったのである。

 それゆえ、ギルたちの代で先人たちの研究のほとんどが失われてしまったのだ。

『殉職者たちの研究資料消失事件』の真相はそんなところなのだろう。


 普段は建物内のどこかにこの資料室は封印されていて、今回の騒動で部屋がシャッフルされた拍子に表に出てきた。

 そしてゴーレムがうっかり出現してしまった、というのが事の顛末なのだ。


 この資料室を手に入れることが出来れば、ギルとペイジさんの共同研究にも役立つのではないか?

 魔術師団の忙しさだって、先人たちの知恵が加われば、かなり解消されるのではなかろうか?


 私たちの目の前に突然、起死回生の手段が転がり込んできたのである。


「これはもう絶対に資料室を手に入れるべきだよ、ギル。ギルが継承者にならなくちゃ!」

「そうですね、オーレリア。ぜひともこの資料室の中身を手に入れたいです」

「どうすればギルを継承者に出来るかな? グラン元団長を呼び出せれば、鍵を継承出来るかなぁ? それともゴーレムが鍵を持ってたから、おじいちゃん先輩に頼んでゴーレムから鍵を貰う? どっちにしろ、グラン元団長とおじいちゃん先輩はまだ守護霊試験に合格してないんだよねぇ。これは資料室の発案者と思われる、ばーちゃんをどうにか呼び出すべき? どう思う、ギル?」

「あまり安易に英霊たちを頼って地上に呼び寄せるべきではないと、僕は思います。あの方々は、オーレリア相手だから協力してくださるのでしょうし」


 ギルはそう言って、銀縁眼鏡の縁をクイッと指で押し上げた。


「要はあのゴーレムを捕獲し、僕が鍵を継承すれば良いのです。さぁ、この扉の結界を解除して中へ――……」


「みんなぁぁぁ!! 聞いてちょうだーい!! 起動スイッチが直ったわよ~!! さすがは天才のアタシ~♡ 次のシャッフルで建物内の部屋の配置が戻るからねぇ~!! えいっ、ポチッとね!!」


「まさかこのタイミングですか、ペイジさんんんんっ!!!?」


 建物内に響き渡ったペイジさんの声に、ギルが物凄い表情をしたが、無情にも揺れが始まってしまった。


 グラグラと建物が揺れ、目の前にあった『継承者の資料室』の扉が姿を消す。

 そして元々あった壁が現れ、資料室はまた建物内のどこかで眠りについてしまった。


「…………」

「ギル、どんまい」


 壁に寄りかかって項垂れる夫の肩をポンと叩く。


 今回はタイミングがちょっと悪かっただけで、資料室はきっとまた見つかるよ。


 さて、これからどうやってギル魔術師団長に資料室を継承させるか、私は考えることにした。


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