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【コミック3巻6/14発売】前世魔術師団長だった私、「貴女を愛することはない」と言った夫が、かつての部下(WEB版)  作者: 三日月さんかく
第5章

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94:小型ゴーレム



 仮眠室のベッドの奥に階段を見つけたので、そこから上の階へと向かう。

 すでに魔術師団員とゴーレムの間に戦闘が始まっているらしく、近付くたびに激しい音が響いてくる。ガラスが割れる音、何かが倒れる音、団員たちの悲鳴など。


 上の階の廊下に到着すると、辺りは水浸しで、書類が散乱し、ゴーレムを捕縛しようとして失敗した蔦魔術や土魔術の残骸などが散らばっていた。

 そしてゴーレムによってロープで拘束されてしまった団員たちの姿が、あちらこちらにあった。


「うわぁ~……、すごい惨状だね」

「団員たちがこんなにも簡単に捕縛されるとは、一体どんなゴーレムが出現したんでしょうか? 少なくとも、現在魔術師団が保管しているゴーレムとは別ものでしょうね」


 辺りを見回したが、ゴーレムの姿は見えない。

 とりあえずギルと手分けをして、団員たちの拘束を解いていくことにした。


「助けてくださいっス~! ロストロイ団長~!」

「何だったんだ、あのゴーレムは? 小さい上に素早くて、おまけに頑丈ときている!」

「私の植物魔術も効かなかったわ……」

「俺の風魔術も駄目だった。やっぱり中心の核をぶっ壊さなきゃいけないみたいだな」


 団員たちの話から、件のゴーレムはどうやら小型でスピードがあり、耐久性も抜群だということは分かった。


 うーむ。そのタイプのゴーレム作りを得意としていた魔術師が、かつての上層部にいたのだが……。


 私が両腕を組んで考え込んでいると、最後の一人の拘束を解いたギルが戻ってくる。


「どうされたのですか、オーレリア? そんなに悩まれて」


 ギルはそう言いながら、私の眉間に出来たシワをちょいちょいと突いた。


「じつは、そのタイプのゴーレム作りが得意だった魔術師がいたことは、確かなんだけれど……」

「どなたかお聞きしても?」

「現在ヴァルハラにいる、おじいちゃん先輩だよ」


 土魔術と魔道具作りを得意とし、ゴーレム研究に明け暮れていた魔術師である。

 若い頃は他の仕事をしていたらしいが、五十代で一念発起して入団試験を受けて国家魔術師になり、最終的に上層部までのし上がった。戦争で殉職した時には六十代後半だった。

 彼の本名はオルステッド・ジーモン・イーグル・チアン。

 名前の頭文字を略して『おじいちゃん』先輩である。


「ただ、おじいちゃん先輩の制作したゴーレムは大多数が戦争に投入されたし、残ってるゴーレムも、団長室の収納棚にしまわれている伝言用のものだけのはずなんだ。他にも残ってるって話は聞いたことがなかったんだけれど……」

「収納棚の中のゴーレムは、確かに先ほど確認しましたね」

「おじいちゃん先輩本人に直接聞くことが出来たらいいんだけれど。守護霊試験に全部落ちてるって、ばーちゃんが言っていた気がするんだよねー」


 そもそもどんな試験なんだろうな、守護霊試験って。


「ギルの代には、ゴーレム作りが好きな人っている?」

「魔道具作りはペイジさんなのですが、ゴーレム限定ですと思いつかないですね。現在魔術師団が所有しているゴーレムは大型で、主に戦後の瓦礫処理や運搬に使われていますし」


 二人で悩んでいると、廊下の奥にいたブラッドリー君が叫んだ。


「またゴーレムが現れたっスよぉぉぉ!!」


 小型ゴーレムの出現場所に近い団員たちが、一斉に魔術を放っていく。

 だが、よほどすばしっこいらしく、右往左往させられていた。

 気付けばまた一人、また一人と、武装解除させられていく。


「仕方がない。ここは私が爆破を……」

「おやめください、オーレリア。屋外ならまだしも、魔術師団の建物内には重要な魔術研究の論文や資料が保管されているのですから」

「だよね~」


 魔道具の腕輪が外れたので、小規模な爆破魔術も使えるようになったが、やはり魔術師団の建物内では展開するのは厳しいか。前世でもうっかり重要書類を燃やして大変だったし。


 というわけでギルが、ゴーレムの方へと向かう。

 団員たちが「おお、ロストロイ団長が動くぞ!」「俺の仇を討ってくださいっス~!」「ゴーレムの捕縛をお願いします、団長!」と声援を上げ、尊敬の眼差しでギルを見つめた。

 ギルが部下たちから慕われている様子を見ていると、私まで自分のことのように誇らしくなってくる。


 周囲にいた団員たちを倒した小型ゴーレムが、ギルの前に姿を現した。

 幼児くらいの大きさのゴーレムは、胸元に赤い核を光らせて、床をジャンプする。ゴーレムは空中でくるりと一回転したかと思えば、天井を蹴り、落下速度を増してギルの顔面へと殴りかかろうとした。


「魔術式を展開」


 ギルが右手を動かし、一瞬で氷で出来た盾を発動する。

 ゴーレムは軌道を変えられず、勢いそのままに氷の盾にぶつかった。氷の盾は頑丈でヒビ一つ入らず、逆にそのままゴーレムの腕を凍らせていく。


「そのまま凍りつけ、ゴーレムよ」


 銀縁眼鏡のツルに手を添えてギルが言い放つと、ゴーレムの腕が凍りつくスピードが速くなる。

 周囲の団員たちが「すげーっス、ロストロイ団長!」「さすがは団長だ! このままゴーレムを捕縛するぞ!」と盛り上がった。


 しかし小型ゴーレムは胸元の赤い核をピカッと光らせると、自分の腕に炎を灯して氷を溶かしてしまった。

 ……どうやらこのゴーレム、色んな機能が仕込まれているらしい。


 さすがのギルも驚いて、眼鏡の奥の瞳をまるくしている。


「誰がゴーレムにこんな高度な魔術式を仕込んだんですか!?」

「もうこれ、完全におじいちゃん先輩の仕業だよ……」


 戦時中にほんの数体だが、火や雷の大規模魔術を敵陣に撃ち込めるゴーレムを制作していた。

 だが、魔術を一発放った後に動作不良を起こし、トルスマン皇国の兵士にボコボコにされていたが。

 魔術を扱えるゴーレムはまだまだオーバーテクノロジーなのである。


「たぶんこのゴーレムも、魔術の威力や発動回数は少ないと思う。もう一回凍らせちゃえば、逃げられなくなるんじゃないかな」

「ならば話は簡単ですね」


 ギルがもう一度魔術式を展開しようとすると。

 小型ゴーレムは床を蹴り、廊下の奥へと脱兎のごとく逃げ出した。

 しかもタイミング悪く、また建物内のシャッフルが始まる。


「このままじゃ、ゴーレムを見失っちゃうっス!! 追いかけましょうよ、団長!!」

「そうだな、ブラッドリー。このまま放置するわけにはいかないな」


 ギルは頭が痛そうに眉間にしわを寄せたが、すぐに顔を上げ、ゴーレム捜索の指示を出し始めた。


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