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【コミック3巻6/14発売】前世魔術師団長だった私、「貴女を愛することはない」と言った夫が、かつての部下(WEB版)  作者: 三日月さんかく
第5章

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89:共同研究



 魔術師団の建物は、王城の敷地内の少々奥まった場所にある。

 王城の広大な庭の一部が戦没者の石碑が並ぶ『英霊の広場』として一般開放している関係もあり、国民の目が届く範囲には王家の威信をかけた施設が並んでいる。王国軍の演習場所や、図書館などが良い例だ。

 演習場はたまに一般の観客を入れて訓練を見せたりするし、図書館は学者など許可証を持っている人がやって来る。

 そして魔術師団の建物は、そんな煌びやかな建物の奥に半ば隠れるようにして存在する。


 国家魔術師という希少な存在を守るためという意味合いも、もちろんあるのだろう。

 だが本当のところ、『あいつら、何をしでかすか分かんねーじゃん? あんま国民の目の届かないとこに置いといた方が良くね?』というガイルズ陛下の意思なんじゃないかと、私は疑っている。


 そういうわけで少々遠い魔術師団の建物へ、私とギルはのんびりと向かうことにした。


「オーレリアが魔術師団へ訪れるのは前世ぶりですよね? 懐かしいでしょう」

「いや。結婚前にギルに会おうとして乗り込みに行ったことがあるけど。受付のお姉さんに門前払いされて、魔術師団記念バッチをもらったよ」

「……その節はたいへん申し訳ありませんでした」


 隣でしゅんと肩を落とし始めたギルを見かねて、私は話題を探す。

 もう過ぎ去ったどうでもいいことで、夫が後悔し続けるのは可哀想だ。


 霧の森で記憶喪失になって以来、私は〝ギルのことが無性に知りたい期〟に入っていた。

 私がいなかった頃のギルの話が聞きたくて、質問を考える。


「ギルは今、魔術師団でどんな研究をしているの?」


 魔術師団は本来、魔術によって国民の生活をよりよくすることを目指す研究機関だ。

 有事の際にはその力を国に捧げなければならないという決まりはあったが、先の戦争が起こるまで団員たちはそんな決まりも忘れていたくらい、自由気ままな研究生活を送っていた。

 各地の遺跡で古代魔術式を探したり、それをもとに新しい魔術式を組み立てたり、魔道具に使えそうな希少な材料を見つけたり開発したり。

 王国軍が取り逃がしてしまったモンスター討伐の依頼や、魔術師でなければ対処できない問題で地方へ派遣されるなど、研究以外の仕事もたくさんあったが、人数が多かったので皆で負担にならないように仕事を分けることが出来ていた。


 現在の魔術師団はそういった通常業務のほかに、戦後処理も加わっている。

 少ない人数で各所からの要請に応えながら、魔術研究を進めるのはとてもたいへんだろう。


 ギルは自分の研究内容について思い出したのか、結婚前のやらかしに身悶えることをやめた。


「オーレリアは僕が以前、バーベナが保管していたリザ元魔術師団長の研究資料を引き取ったと話したことを、覚えておられますか?」

「そういえばそんな話をしていたね。解読がめちゃめちゃ難しいって……」


 あの時はたしか、私が『ばーちゃんに聞こうか?』ってギルに聞いて、そのまま私の生まれ変わった理由を告白する流れになったんだよな。

 それでギルが、私の魂が死後の世界に繋がっている仮説を言い始めて、ばーちゃんの資料の話はうやむやのまま終わったんだ。


 ギルは銀縁眼鏡の縁に手を添えて、眼鏡の位置を直す。


「僕はいずれ、リザ元魔術師団長が国境沿いに張った大規模結界魔術を復活させるつもりです。それも、術式を掛けた魔術師が死んだ後も、永続的に機能し続ける結界魔術を編み出したいのです。リドギア王国の国民がもう二度と、戦争によって何も奪われることが無いように」


 もう誰も出兵せずにすみ、出兵を見送るしかできない人が現れずにすむ。

 誰の命も奪われず、手も足も目も耳も戦場で失わず、自分たちの財産も貞操も土地も文化も歴史も言語も脅かされない。

 そんな奇跡みたいなことを、私の夫は成し遂げたいと言う。


 あんなに小さなギルがこんなに大きく立派になって、という師匠としての気持ちも一瞬湧いたが、それ以上に一人の男性としてギルが愛おしい気持ちでいっぱいになる。


 私はガシッとギルの両手を握った。


「すごく、すっっっごくやりがいのある研究だと思う!! 私でよければ、いくらでもサポートするからね!! 資料探しとか魔術式の解読とか、ロストロイ家の仕事ももっと私に振り分けてくれて問題無いし!!」

「ありがとうございます、オーレリア。ですが、今のままで充分ですよ」


 まぁ、今の私は国家魔術師ではないので魔術師団に関する機密事項には触れられないし、領地のことも領主であるギルの承認が無ければ進まないことも多いしな。

 意気込んではみたが、ギルの研究のために私が出来ることは、そんなに多くはないかもしれない。


「それにこの研究は、ペイジさんと共同でやっているのです」

「ペイジさんと? あの方、魔道具が専門なんでしょ?」

「彼には永続的に動く魔道具の方向で研究して頂いているのです。僕がリザ元団長の結界魔術式を再現することが出来ても、後世の魔術師たちが魔術式を発動できなければ意味が無いですから」

「あっ、そういうこと!」

「クラウス大祭司から届いたこの資料も、きっと研究の役に立つでしょう」


 ギルはそう言って、手に持っていた資料を視線で示した。


「じゃあ、ペイジさんに早く資料を届けてあげないとね!」


 ペイジさんからも、共同研究に関する話を聞けたらいいなぁ。

 私の知らないギルの話も聞けたら、なお嬉しい。


 私はギルの腕を取って、わくわくした気持ちで魔術師団へと向かった。


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