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【コミック3巻6/14発売】前世魔術師団長だった私、「貴女を愛することはない」と言った夫が、かつての部下(WEB版)  作者: 三日月さんかく
第4章

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85:宴会



 岩場の扉が無事に封印された。

 先ほどまでフェンリルが引き起こしていた地響きが止み、落石も止まる。

 帰り道がまためちゃくちゃになってしまったが、ほかのメンバー全員軽傷で済んだようだ。


「最後に目潰しで時間が稼げて良かったね、ギル!」


 腕輪を外したせいで普段の威力の爆破しか出せなかったから、フェンリルが目を覚ましたときは本当に焦った。

 だけれど、ギルがラジヴィウ遺跡で竜王のアンデッドと戦った時に使用した光魔術の矢が、今回も良い働きをしてくれた。

 あの時は竜王を瞬殺できたのに、フェンリルに対しては目潰しにしかならなかったけれど……。

 まぁ、無事に封印できて本当に良かった。


「オーレリアの援護のおかげです。助かりました」

「それなら皆の頑張りのおかげだよ。ペイジさんもメルさんもリーナちゃんもウィル君も、全員頑張ったもの」

『俺様にも最大級の感謝を捧げて、崇め奉って平伏しやがれ、オーレリア!』

「あ、もちろんです、ボブ先輩! ボブ先輩の闇魔術も最強でした!」


 闇魔術に強いボブ先輩が〝黒い匣〟を展開してくれなかったら、私も思いっきり爆破出来なかったからな。いざという時は本当に頼りになる先輩だ。

 だけれど平伏すのは面倒くさいので、宙に浮いているボブ先輩に向かってお辞儀で済ませる。

 ボブ先輩は『まぁ落石で地面ぼっこぼこだから免除してやるか』と言った。


『じゃあ、お前の危険も去ったし、俺様もまぁまぁ疲れたし、そろそろヴァルハラに帰るわ。たまに地上で遊びたいから、ちょくちょく危険な目に遭えよ、オーレリア。じゃーなー!』

「え? 別れ際のセリフとしてどうなんです、それ?」


 ボブ先輩は後輩に優しい言葉をまったくかけずに、ヴァルハラへと消えて行った。

 もしかしたらボブ先輩は言葉以上に疲れていたのかもしれない。お疲れさまでした。


「カラドリア先輩がどうかされたのですか?」


 横に居るギルが不思議そうにこちらを見ていたので、ヴァルハラに帰ったことを伝える。


「それでは僕たちも帰りましょうか。王都にある僕たちの愛の巣に」

「あっ、そうだ。ジョージやミミリーたちにお土産買って帰らなきゃね」


 ペイジさんたちの方を見ると、彼らも今後のことを話していた。


「まずはリーナとウィルを、家まで送り届けなくっちゃいけないわねぇ」

「みんなのこと、ジョシュアお父さんに紹介するわよ!」

「けれどその前に、おれとリーナは説教されちゃうだろうな……」

「それは仕方がないことですよ、ウィル。ご家族にたくさん心配をかけたのですから」


 この場には馬が四頭いた。

 私とギルが乗って来た二頭と、ペイジさんとメルさんがそれぞれ子供たちを乗せてやって来た二頭だ。先ほどの地響きや落石でも逃げずに留まってくれたので、旧クァントレル領の街中へ早く帰れるだろう。


 落石でまたぼこぼこになった道を、ギルが土魔術で均していくあいだ、私はもう一度岩場の扉を眺めた。


 完全に封じられた巨大な扉の前には、『グレイプニール』の金属製の綱(ワイヤロープ)部分が幾重にも掛けられている。大粒の虹神秘石が輝いている部分は、穴の無い錠前のようだった。

 金属製の綱(ワイヤロープ)の中を魔力が上手く循環していて、まったく隙がない。


 いまの魔術師団にも、良い人材がいてよかった。


「……またね、フェンリル。次に会うときは、ヴァルハラの軍勢の一人として戦わせてもらうからね」


 世界の終わりが何千年、何万年後かは知らないが。

 ヴァルハラにも、私の爆破魔術を強化できる武器があればいいなぁ。着脱可能なやつで。


「オーレリア、道の修復が完了いたしました。さぁ帰りましょう」

「はーい」


 こうして私たちは無事に『霧の森』の異常事態を解決したのである。





「心ばかりの品ですが、旧クァントレル領の地酒と名物料理をご用意させていただきました。魔術師団の皆様、この度は行方不明者を無事に救出していただき、本当にありがとうございました! では、乾杯!」

「「「かんぱーい!!!!」」」


 役人たちが用意してくれた宴会の席にて、私はこの地の赤ワインがたっぷり入ったグラスを掲げ、くぴくぴと飲み干した。干しブドウみたいに濃い味がして美味しーい!!

 リーナとウィルは果汁水で乾杯し、養い親であるジョシュアさんと一緒に料理を食べ始めている。


 私たちは霧の森から無事に脱出した。

 その足で旧クァントレル領の新庁舎に向かうと、役人たちや魔道具師のジョシュアさんも待っていた。


 ジョシュアさんはリーナとウィルを見た途端、こちらに駆け寄って来て二人を抱きとめた。二人は大好きな養父の腕の中でわんわんと泣きじゃくった。


「魔術師団の皆さま、うちの弟子たちを森から無事に連れ帰ってくださり、本当にありがとうございました!!」


 ジョシュアさんがはようやく泣き止んだリーナとウィルの頭を掴み、三人一斉にお辞儀をする。

 リーナとウィルは不満げな声で「痛いわよ、ジョシュアお父さん!」「おれたち自分でお辞儀できるって!」と言ったが、すぐにジョシュアさんから「どんだけ心配をかけたと思ってるんだ! 大人しくしてろ!」と再度、頭部に圧力を掛けられていた。

 ただ、そう言ったジョシュアさんの声が涙声だったため、二人ともすぐに大人しくなった。


「心配かけてごめんなさい、ジョシュアお父さん。あたしたち、本当にちょっと森の様子を見に行くだけのつもりだったのよ」

「まさか迷子になって記憶まで無くすとは思わなかったんだ。ごめんなさい」

「……オレも悪かった。森に憧れるあまり、お前たちに余計なことを話し過ぎたんだ」

「そんなことないわよ、ジョシュアお父さん!」

「ジョシュアお父さんはべつに悪くないさ! それよりほら、見てよ! これが本物の『銀の鎖』だよ!」

「おお……っ、これが、クァントレル領でいちばん優秀な魔道具師に依頼されていた『銀の鎖』か……!」


 役目の終わった『銀の鎖』は岩場から回収しておいた。

 フェンリル相手には二十年ほどしか効果の無い鎖だが、この封印の魔道具の作り方をきちんと解明して複製できれば、かなり役立つものが作れると思う。

 衛兵に持たせて、グレてるバンデッドみたいな奴らを捕まえたりとか。


「それで実際、森ではどのようなことが起きていたのでしょうか、ロストロイ魔術師団長様?」


 役人がこちらに進み出て、事の詳細を尋ねたが、ギルは首を横に振った。


「まずは王都に戻り、ガイルズ国王陛下にご報告してから概要をお伝えします。僕が今言えることは、『霧の森』の状態は落ち着いたということだけです」

「そうですか……。承知いたしました、団長様」


 森の奥に死者の国の怪物を封印したなど、トップシークレットである。洩らせるはずがない。

 ガイルズ陛下に伝えたあとも、きっと民には公表されないと思う。怖がらせるだけだから。

 ギルはそれが分かっていたので、さらりとかわしたのだ。

 ちなみに子供たちにはすでに箝口令を出している。

 もっとも話したところで、信じてくれる人は少ないと思うが。


 王都に戻ったら、フェンリルを封印した森をどう管理していくかという問題で、ギルは当分忙しいだろうなぁ……。

 なかなか新婚休暇らしいことが味わえないギルに、同情する。


 そんなわけで今は場所を移して、全員の無事を祝って宴会である。

 ギルが「僕の妻はよく飲みますので」と先に伝えてくれたおかげで、私の側にはお酒の瓶がたくさん積まれたワゴンが用意され、グラスを飲み干すたびに役人がつぎつぎにお酒を注いでくれている。VIP待遇で最高だ。


「森の中じゃ水筒に詰められる分だけのお酒しか飲めなかったから、本当に美味しい~。しみわたる~」

「いくら空間魔術バッグでも、無限にお酒を入れるわけにはいきませんから、仕方がありません。今夜は森の中で飲めなかった分堪能してください、オーレリア」

「うん!」


 私の飲みっぷりに、役人がニコニコと微笑みながら地酒の歴史を語ってくれる。


「お酒は軍需物資の一つだったため、ワイナリーをトルスマン皇国兵に奪われまいと攻防戦を繰り返したのですが、魔術兵団によって……」

「そんな、まさか……」

「旧クァントレル領のお酒を憎きトルスマン皇国に流され、我々は絶望しました。しかし助けはついにやって来たのです。そう、貴女のお父様、チルトン少将様が……!」

「さすがです、お父様ー!!」


「地酒の歴史といえば確かにそうなんだけれども。もっと酒造工程の話とか、材料の話とか他にないわけぇ……?」


 私と役人が盛り上がっていると、ペイジさんとメルさんがやって来た。

 宴会前に一度宿屋に戻ってお風呂に入ったので、ペイジさんは森で見たより一層華やかな様子だ。メルさんは相変わらず可愛らしいピンクメイドである。


「さっきからオーレリアちゃんがお酒を飲んでいるところを見ていたけれど、おつまみもほとんど食べずにお酒を飲んでばっかりじゃない。お肌に悪いわよ?」

「でも、おつまみをたくさん食べちゃうとお酒が入らなくなるので、勿体無いじゃないですか」

「飲み放題で元を取るみたいな言い方するわねぇ……」

「胃には限りがあるんで」

「まぁ、オーレリアちゃんの好きにすればいいことなんだけれど。健康には気を付けてちょうだいね。若くて元気いっぱいなのは今の内だけなんだから」


 ペイジさんはそう言うと、お酒の積まれたワゴンから酒瓶を一本手に取り、私のグラスに注いでくれた。


「アタシたちを助けに来てくれて本当にありがとうね、オーレリアちゃん。貴女がトルスマン皇国の腕輪をはめられた上に、攻撃魔術特化型じゃなければ、霧の森から帰ってくることも出来なかったわ」

「ええぇっ!? そんな改まってお礼なんか言わなくてもいいのに。私だって腕輪の件でペイジさんに助けてもらったし……」

「メルからもお礼を申し上げます、オーレリアさん。あのままペイジ様との絆も思い出せずに森の中で朽ちてしまう可能性もありました。助けに来てくださって本当にありがとうございました」

「メルさんまで!?」


 深々と頭を下げる二人に困惑していると、横で傍観していたギルが銀縁眼鏡の奥の瞳を柔らかく細めて私に微笑みかけた。


「二人からの感謝の心です。そのまま貰っておけばいいのですよ、オーレリア」

「だけど、う~ん……」


 私も酒瓶に手を伸ばし、ペイジさんとメルさんのグラスにお酒を注いだ。


「じゃあ私からも。腕輪を外してくれて、『グレイプニール』を作ってくれてありがとう、ペイジさん、メルさん!」


 二人からの感謝の気持ちは大切に受け取って、私からも同じだけ感謝の気持ちを伝えよう。

 そうやって人の優しい心が世界を循環していくことは、いずれ平和へ辿り着く道のひとつだと思うから。


「あ、ありがとう、オーレリアちゃん……」

「メル、がんばります……!!」


 ……まさか師弟揃ってお酒に弱いとは思わず。

 ペイジさんとメルさんは私からの感謝の気持ちだと思い込んでアルコールを摂取し、一口でひっくり返ってしまった。


 その後は二人の介抱に忙しく、宿に戻れたのは深夜を過ぎていた。

 翌日、街でお土産を買ってから、リーナとウィルとジョシュアさんに見送られて、四人で王都へと帰った。


あと1話で3章終了です。

4章は現魔術師団を攻略したいと思います。

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