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【コミック3巻6/14発売】前世魔術師団長だった私、「貴女を愛することはない」と言った夫が、かつての部下(WEB版)  作者: 三日月さんかく
第4章

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84:vsフェンリル③

最初はオーレリア視点、途中からギル視点です。



 私はいま、フェンリルの胃の中に居た。

 そこは宇宙空間に似ていた。暗闇の中で青白い光が一定の間隔でチカチカと輝いている。青白い光は魔力のようで、どうやらフェンリルの鼓動と連動して光っているらしい。

 私を消化するためにキラキラ光る粘液が上から落ちてくるが、ギルが結界を張ってくれたおかげで被害はなかった。


「よしっ」


 私は気合を入れて両腕を構える。


「無防備な胃の中で爆破すれば、さすがのフェンリルでも手も足も出ないでしょ! ボブ先輩の〝黒い匣〟への被害も減るはず!」


 というわけで爆破開始だー!!





 オーレリアがフェンリルに飲み込まれてしまった。

 彼女が捕らえられた時点で助けようとしたが、オーレリアが結界を所望した時点で彼女の策が読めた。

 フェンリルの体内がどういう構造をしているのか未知数だが、僕は彼女の賭けに乗ることにした。


 そしてその賭けに、オーレリアは勝ったらしい。


〈うおぉっ!?〉


 フェンリルが突然暴れ出す。己の腹を押さえ、口からゼイゼイと息を吐くと、口の端から黒煙が上った。


〈あの女!! まさか消化されずに 俺の体内で暴れているというのか!?〉


 事態に気付いたフェンリルは、どうにかオーレリアを止めようと頭を悩ませていたが、解決方法は見つからないようだ。

 さすがのフェンリルでも己の臓器の中では氷の盾も氷柱の弾丸も使えず、己の腹を搔っ捌いてオーレリアを取り出すこともできない。お手上げのようだ。


 フェンリルは〈腹が痛い!! 腹が痛いっ!! アウォォォーン!!!!〉と暴れ回っていたが、次第に悪態さえつけなくなってきた。

 口から黒煙をもくもくと吐いたまま、最後には気絶してひっくり返った。

 巨体が倒れる激しい音が辺りに響く。


 オーレリアの判断は正しかった。

 フェンリルに飲み込まれたのが僕だったら、消化されないように結界を張ることは出来るが、フェンリルに苦痛を与えるほどの攻撃は出来なかっただろう。


 それにしても、国を滅ぼしかねない威力の連続攻撃でようやく気絶とは。人の身で勝てる相手ではないな。

 これほどの化物が封印から目覚めて地上へ出てしまったら、確かに人類は滅亡し、世界は終わりに近付いてしまったことだろう。


 そんなことを考えながら、僕はフェンリルの顔に近付く。

 ちょうどオーレリアがフェンリルの口から這いずり出てくるところだった。


「大丈夫ですか、オーレリア!? 怪我はありませんか!?」


 僕の問いかけに、オーレリアはへらっと笑う。


「大丈夫~。ギルの結界のおかげだよ。ありがとう。てか、引っ張ってもらっていい? ぬめぬめして動きづらいんだよねぇ」

「承知いたしました」


 植物魔術で蔦を出し、オーレリアの体にぐるぐる巻きつけて引っ張り上げた。

 そういえばクァントレル領に来る直前に捕らえた山賊たちも、植物魔術で捕らえたことを思い出す。あれは薔薇の蔓だったが。ちなみに今回は葡萄の蔦なのでトゲはない。


 魚のようにポーンと釣れたオーレリアは、僕が着地の衝撃を和らげるクッション魔術を使う前に空中で体勢を立て直し、地面に上手いこと着地した。さすがは僕の妻である。


 オーレリアは上空に向けて手を振り、「ボブ先輩ー! とりあえずフェンリルを気絶させましたー! 〝黒い匣〟を維持してくださってありがとうございます!」と叫んだ。

 そしてすぐに「そんなに泣かないでくださいよぉ」と眉を下げる。

 どうやらカラドリア先輩もかなり健闘してくださったらしい。僕にはまったく見えないが。


「さて、あとはペイジさんたちが魔道具を完成させるまで、フェンリルが目を覚めないといいんだけど」

「オーレリアの爆破を連続で体内に浴びても、見た目はまったく損傷していませんからね。どれだけ頑丈なんでしょうね、この化物は……」


 念のためフェンリルの体を薔薇の蔓で拘束しようとしたが、蔓の方が千切れてしまった。氷漬けも試してみたが、白銀の毛皮に弾かれてしまう。

 そのほかの属性の魔術も試してみたが、フェンリルに影響を与えることは出来なかった。

 この結果にはオーレリアも、アッシュグレーの瞳を目をまるくしている。


「うわぁ~……。アドリアン大祭司がこの魔道具をはめたときは腹が立ったけど、案外、アドリアン大祭司に感謝しなくちゃいけないのかもねぇ……」

「結果として役に立っただけで、あの老害に感謝する必要はまったくないと思います」


 そんな話をしていると、扉の方から馬の足音が聞こえてくる。

 どうやらペイジさんたちの魔道具制作も終わったらしい。





「は? 魔道具がまだ完成していない? どういうことですか、ペイジさん」


 彼(彼女と呼ぶべきなのか、僕は未だによく分かっていない)の説明に、僕は眉をひそめた。

 てっきり『銀の鎖』を超える魔道具が完成したから、岩場の扉までやって来てくれたのだと思ったが。違ったようだ。


「なにか小屋の方で問題が起きて移動してきたのですか?」


 ペイジさんの後ろにはいつものようにメル・ポイントル団員が控え、その背後には魔道具師見習いの子供たちも居た。


「こちらもまだ危険な状態です。フェンリルを気絶させましたが、いつ目を覚ますか分からないのですよ」

「もぉっ、ギル団長ったら、そんなに怖い顔しないでよぉ~。ちゃんとこっちに来た理由があるんだから! この魔道具の動力源となる最後の材料がね、小屋には無いのよぉ。だから取りに来たってわけ」

「取りに来た?」

「そうよぉ」


 ペイジさんはクスクスと笑いながら、僕の隣に立っているオーレリアを指差した。


「およ? 私?」

「オーレリアちゃんの、その腕輪が必要なのよ」





 オーレリアの腕からずっと外れなかった腕輪を、ペイジさんは十分とかからずに外すことに成功した。

 そして動力源以外が完成していた金属製の綱(ワイヤロープ)に、腕輪を接続していく。ポイントル団員と子供たちがその作業の補助を行い、ペイジさんは魔術式をどんどん組み込んでいった。


「魔道具作りってあんまり見たことなかったけど、面白いね」


 彼らの様子をオーレリアが面白そうに見ている。


「貴女が居た頃の魔術師団には、魔道具を専門で研究していらっしゃる方は居ませんでしたね」

「バーベナが小さい頃には居たんだけれど、研究室には入れてもらえなかったんだよね。まだ爆破魔術がコントロールできなくて」

「小さな貴女が爆破しまくっているところを、僕もぜひ見たかったですね。きっととてもわんぱくで愛らしい凶器でしたでしょう」

「えへへ」


 そんな話をしている途中で、ズドンッと激しい音が背後の岩場から聞こえてきた。地響きがつづき、周囲の岩壁から落石が降って来る。


「ギル!!」

「もう目覚めてしまったようですね」


 すぐさま振り返れば、巨大な扉の隙間からフェンリルの顔が覗いていた。

 この光景にはペイジさんたちも手を止め、子供たちが悲鳴を上げた。


〈女っ!! よくも俺の腹の中で暴れたな!? もうお前に岩場の封印を解かせようなどとは思わない!! ただ甚振って殺してやるっ!!!!〉

「起きるのが早いよー! もうちょっと寝ててよ!!」


 オーレリアが扉の隙間に向けて爆破魔術を放つ。

 だがすでに腕輪を外していたため、まったく効果がなかった。


〈なんだこの小さな火花は? 先ほどまでの威力はどうした? もしや ようやく魔力切れか? ハハハハハッ!!〉

「うるさいなぁ、もー!」


 フェンリルは〈まるで児戯だな!!〉と嘲笑う。

 オーレリアは隠しポケットから杖を取り出し、連続で爆破魔術を放ち続ける。先程よりも爆破の威力が上がった。少しでもペイジさんたちの制作時間を稼ぐつもりのようだ。

 ペイジさんたちが「オーレリアちゃんが頑張っているうちに、早く完成させなくっちゃ!」と再び手を動かし始めた。


「……オーレリア、フェンリルの目を狙ってください。暫くの間で結構です」

「うんっ! 分かった!」


 気を失わせることは出来ずとも、視界さえ奪えれば。

 僕は杖を構え、魔術式を構築する。


 オーレリアはフェンリルの紅い瞳を狙い、爆破を繰り返す。爆破の影響で彼女が構える杖に亀裂が入り、もう長くは保たなそうだ。

 だが黒煙がどんどん広がり、フェンリルの視界が覆われていく。


〈くそっ 小癪な! なにも見えんぞ!?〉


 奴の視界が回復する前に光属性の魔術式を展開する。

 そして黒煙が薄れてきた瞬間を狙って、僕はフェンリルの瞳を目掛けて大量の光の矢を放った。


〈うわっ!! 痛ぇっ!!!! ちくしょう!!!! 目に何か大量のゴミが入ったぞ!? アオォーーンッ!!!!〉


 フェンリルにとって人間の攻撃など子供騙しのようなものだろう。だが目潰しとして使うならば、フェンリルをひるませるくらいは出来るだろう。


 案の定フェンリルは涙を流して目元を擦り、扉から離れていく。これで一時しのぎはできた。


「やったわ!! 魔道具の完成よ!! 名付けて『グレイプニール』よ!!」


 ペイジさんの声とともに、子供たちの歓声が聞こえてくる。「さすがはメルのペイジ様ですわ!」とポイントル団員が拍手を繰り返していた。


「ギル団長ー!! 受け取ってぇぇぇ!!」


 彼はそう言って『グレイプニール』をこちらに向かって投げつけた。見た目は派手な女性だが、その腕力は完全に男性のものだった。

 僕は浮遊魔術で『グレイプニール』を受け取ると、扉にかけられた『銀の鎖』と交換を始める。

 いつフェンリルが目潰しから回復するか分からない今、一刻の猶予もない。


「頑張って、ギルー! ボブ先輩もなんかごちゃごちゃ言って応援してるからねー!」

「急いでちょうだい、ギル団長~! そうよ、そこを繋いで、虹神秘石を発動させてちょうだーい!」

「ペイジ様の傑作魔道具で封印を失敗させたら、メルとペイジ様は辞表を叩きつけますのでお覚悟を、ロストロイ団長様!」

「がんばって! ギルおじさん!」

「ギルおじさん、あとちょっとだぜ!」


 扉の隙間から、再びフェンリルの姿が見えた。どうやら目潰しから回復してしまったらしい。


〈新たな封印を仕掛ける気だな!? やめろっ!!!!〉


 フェンリルが凍てつくブレスを吐こうと、口をすぼめる。

 ――だが。


「残念だな、神を屠る狼フェンリル。封印完了だ」


 虹神秘石が煌々と輝き、『グレイプニール』が発動する。

 金属製の綱(ワイヤロープ)部分がギチギチと音を立てて動き、巨大な扉は完全に封じられた。


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