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【コミック3巻6/14発売】前世魔術師団長だった私、「貴女を愛することはない」と言った夫が、かつての部下(WEB版)  作者: 三日月さんかく
第4章

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83:vsフェンリル②



〈ほぉ…… なかなかの威力のようだな〉


 燃え尽きていく星々を見上げたフェンリルが、そう呟いた。


〈だがしかし これほどの威力の魔術だ 人間の身でそう何度も使えるものではない インターバルも必要なはずだ 俺が恐れるほどのことではない〉


 フェンリルはそう言うと、すぐさま攻撃態勢に入った。無数の氷柱の弾丸を生み出し、素早くこちらに撃ち込んでくる。


 というわけで私も二発目だ!


 チュッッドーーーッッン!!!!


 今度はフェンリルに向けて爆破魔術を放つ。

 氷柱の弾丸は消失し、そのままフェンリルをも爆破に巻き込もうとした。


 フェンリルは驚いたように紅い目を見開いたが、前脚を動かすと分厚い氷の盾が現れる。そして正面から爆破魔術を回避した。氷の盾にはヒビすら入らなかった。

 さすが神を屠る狼、死者の国の軍勢である。


「すごーい! この規模の爆破を防御するなんて!」

〈お前こそ 二度連続で爆破魔術を放つとはまぁまぁやるではないか だがしかし すぐに撃てなくなるはずだ〉


 フェンリルが立っている場所以外は、被害が甚大だ。

 遠くに見えていた廃城は吹っ飛ばされ、地面は地平線まで爆破でえぐれ、〝黒い匣〟の世界はもはやただの荒野となっている。

 上空に浮いていたボブ先輩が『ちくしょぉぉぉぉ!! 〝黒い匣〟を維持するだけで精一杯で、俺様の美しき世界が復元できねぇぇ!!!!』と泣いていた。


 爆破の衝撃から守ってくれていたギルが、フェンリルの氷の盾を観察していた。


「あの氷の盾は少々厄介ですが、要は盾のない箇所からフェンリルを攻撃すればよろしいかと思います。僕が貴女の足場を作りましょう」

「じゃあ、ギルに任せた!」


 クレーターだらけの地面から、ギルは土魔術を使って円柱を次々に生み出していく。フェンリルまで続く階段だ。

 私は円柱の上を走り、次の円柱に飛び移り、氷の盾の死角へ回り込むことだけを考えて前進する。


 私は手首の腕輪に触れた。

 アドリアン大祭司にはめられた時はふざけんなよって感じだったけれど、いまは超絶有難い魔道具だ。これだけの爆破魔術を行使しても、まだちょっとの魔力しか消費していない。


 私は両手をかざし、連続で爆破魔術を撃ち込んだ。


 チュッッドーーーッッン!!!!

〈小賢しい奴らめ! 俺が氷の盾を一枚しか出せないと思っているのか!?〉


 ちぇっ。すぐに二枚目の氷の盾が現れた。

 次の死角に移るために空中へジャンプすれば、ギルがピッタリのタイミングで円柱を出してくれた。どんどん円柱を飛び移る。


 ドッカァァァァァンッッッ!!!!

〈ハハハ……〉


 ドガガガガァァーーーンッ!!!!

〈……おい待て〉


 ドッゴォォォォーーーッン!!!!

〈どういうことだ……?〉


 バッゴォォォーーーッッン!!!!

〈一体どれだけ撃つ気なんだ!?〉


 ボッガァァァァーーーンッ!!!!

〈この女 底無しの魔力を持っているというのか!?〉


 フェンリルはこちらの魔力切れを狙っていたが、ようやく私の限界がまだほど遠いことに気付いたらしい。唖然とした表情でこちらを見ている。狼ってけっこう表情が豊かなんだね。

 フェンリルの方が先に魔力を消耗してきたようだ。氷の盾は五枚目あたりから精度が落ち、七枚目からは薄くヒビも入るようになってきた。

 私の魔力はまだまだ持つので、いずれこの盾を破壊できるだろう。


 フェンリルもそのことを予感したらしく、慌てて氷柱の弾丸を撃ち込み始めた。

 もちろん爆破で応戦する。


「オーレリア!」


 地上からギルが叫んだ。


「この調子なら、ペイジさんたちが魔道具制作を終えるまで、貴女の魔力でフェンリルの力と拮抗し続けることが出来ると思います! ただ……」

「ただ?」


 ギルは残念そうな表情で周囲の様子を指し示した。

 もはや〝黒い匣〟に建造物らしいものは一つも存在せず、真っ黒い壁や天井が剥き出しになっている。

 そして、さっきまでは愚痴を吐いていたボブ先輩が、もはや虚ろな表情で杖を構えていた。


「僕にはカラドリア先輩のお姿が見えないので、状況がハッキリとは分かりませんが。おそらくカラドリア先輩の限界が先に来てしまうと思われます」

「いや、ボブ先輩、すでに限界っぽいよ?」


 これでは持久戦というわけにもいかないようだ。〝黒い匣〟が壊れてしまったら、私はもう爆破魔術を使うことが出来ないのだから。


〈くそっ! くそっ!! 氷が駄目なら闇だ!!!!〉


 フェンリルの方も、べつの攻撃に移るらしい。

 いろんな属性が操れてうらやましいものだ。そういえばフェンリルの魔力によって記憶喪失させられたもんなぁ。


 フェンリルの影から、黒い紐状のものが現れる。

 ギルがとっさに光魔術を放ったが、フェンリルの闇の力には勝てずに消失した。

 黒い紐はまっすぐに私の方へと飛んできて、私の足首にきつく巻きついた。そのままフェンリルの方へと釣り上げられる。


〈死者の国に属した魂のくせに俺に歯向かいよって 小憎たらしい 貴様は俺が喰らって俺の養分にしてやろう〉


 フェンリルが大きな口をパッカリと開けた。ギザギザの鋭い牙が上下に並び、その喉奥には巨大な闇が広がっていた。


「よくも僕の妻を……っ!!!!」

「待って、ギル!!」


 ギルは私を奪還しようと、杖を挙げているところだった。

 私はとっさにギルにべつの指示を出した。


「私に結界を掛けておいて!!」

「なるほど、分かりました!!」


 足首を釣っていた黒い紐が外され、そのまま真っ逆さまに落ちていく。

 そして私はフェンリルにパクンと一飲みにされた。





「ペイジさーん! こっちの材料から魔力物質を抽出しておいたわよ!」

「こっちの素材の処理も終わったよ」


 リーナとウィルの声に、作業中だったペイジが頷く。


「二人ともありがと~。魔道具師見習いとはいえ、この歳でここまで出来るなんて本当に凄いわよ。完璧だわ~」

「ふふん、あたしたちだってこれくらいは出来るわよ!」

「なにせ俺たちの養い親はジョシュアお父さんだもんなっ」

「いい人に出逢えて良かったわねぇ、アンタたち。この調子で頑張って魔道具師になれば、将来食いっぱぐれることはないわよ」

「ほんと!?」

「魔術師団の副団長に褒められるなんて、すっげーうれしいな!」


 リビングのテーブルは、いまは食事用ではなく魔法道具作業用に使われていた。

 あちらこちらに魔道具制作の道具や素材が散乱し、素材の計測や分離作業などの下処理をリーナとウィル、メルが分担して行っていた。

 そして暖炉の前では女装姿のペイジが陣取り、大鍋を混ぜていた。次々に運ばれてくる材料を順番に入れ、魔術式を込めながら攪拌していく。

 使い捨ての魔道具ならば既製品に魔術式を一時付与するだけで十分だが、耐久性も必要とする魔道具を作るには、どうしても材料の段階から魔術式を込めなくてはいけない。これが魔道具作りで一番根気のいる作業だった。

 まぁ、どこかの天才魔術師団長は一時付与でも十分耐久性のある魔道具を作れてしまうが。


「ペイジ様、オリハルコンの準備が完了しましたよ」


 ピンク色のメイド服に黒いローブ、そして魔道具作りのグローブという珍妙な姿のメルが、てきぱきとした動作で次の材料を運んで来る。


「ありがとう、メル。あと五分後に入れるわ」


 傍に置かれた砂時計を確認しながら、ペイジは答えた。


「ペイジ様」


 メルはそっとペイジの耳元に顔を寄せ、作業台に戻った子供たちに聞かれないように声を潜めて話す。


「本当に『銀の鎖』を超える魔道具を完成させることが出来ますか……?」

「あらメルったら。アタシのことを信じられないってわけぇ?」

「いいえ、メルはもちろんペイジ様のことは世界で一番信じております! ……けれど、オーレリアさんが解析した魔術式は本当に正しいのでしょうか? そして半永久的に作動し続ける魔道具など、大陸でもほとんど存在しません。近隣諸国では、トルスマン皇国の豊穣の宝玉クリュスタルムとその台座のアウリュムくらいですよ?」

「オーレリアちゃんが解析してくれた魔術式に矛盾は一つもなかったわ。あの娘、見た目や言動よりずっと頭が良いみたい。そして半永久的に作動する魔道具作りは、アタシの生涯の夢よ。その最初の一つ目を、今日こそ作って見せるわ!」

「では、魔道具の動力源はどうするのです? 動力源に相応しい材料が見つからないことが長年の問題で、メルとペイジ様はリドギア王国中を探し回っていますのに」

「うふふ。すでにアテはあるのよ~」


 ペイジはそう言うと、アイシャドーでギラギラ輝いている瞼でぱちんとウィンクした。


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