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【コミック3巻6/14発売】前世魔術師団長だった私、「貴女を愛することはない」と言った夫が、かつての部下(WEB版)  作者: 三日月さんかく
第4章

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80:取り戻した記憶



 蓋をされていた私の記憶が呼び覚まされ、溢れ出す。オーレリアとして生きた十六年分とバーベナの二十五年分の記憶が、時系列なんてお構いなしに脳裏に現れては流れていく。

 楽しかったこと、面白かったこと、おばあちゃんになるまで覚えていたい幸せな記憶から、つらかったこと、苦しかったこと、永遠に封印していたい絶望的な記憶まで。


 全部が嵐のように頭の中を駆け巡り、私の感情の振れ幅を大きく揺さぶった。

 そして私の記憶が全部、私のもとに帰って来た。


「オーレリア、だいじょうぶですか? 思い出してしまいましたか……?」


 ぱちり、ぱちりと瞬きを繰り返していると、横から声を掛けられた。ギルだ。

 ギルは銀縁眼鏡の奥から、不安そうにこちらを見つめていた。私の些細な変化さえ見逃さない、というように。


 ギルは本当にいつも私のことを心配してくれているんだな。

 たくさんのものから私を守ろうとしてくれているんだな。

 そう思ったら胸の中が温かな気持ちでいっぱいになって、自然と笑みがこぼれてしまった。


「うん。全部思い出したよ」


 ギルと結婚したことも、オーレリアとして生まれてからのことも、バーベナの怒涛の人生のことも、全部。


「思い出せて、本当に良かった」


 本当に心から、そう言葉にすることが出来た。


 思い出したくもない記憶は山のようにあるけれど、そのためだけにギルや大切な人のことを忘れるのは勿体無さすぎる。

 戦時中は最悪なことばっかりだったし、仲間たちが次々に殉職していった時の記憶は忘却したままでいたかった。

 戦争なんて起きてほしくない。平和を手に入れるために、戦い以外の道があるべきだ。

 でも、リドギア王国を守るために戦ったことは、私の誇りだ。

 バーベナは自分の守りたいものを守るために、信じたい正義のために、戦場に立ち続けたのだから。


「ギル、心配してくれてありがとう。確かに戦時中のことは思い出したくないことばっかりだけど、私は私の正義を信じて戦ったんだよ。だから、もういいんだ」

「……オーレリア」

「それに現世では、つらい時はギルが一緒に泣いてくれるんでしょう?」

「もちろんです。もう絶対に、貴女独りでは泣かせません」

「それで十分過ぎるよ」


 ギルの言葉は心強くて、私のお守りになる。

 きっと現世の私はバーベナと違って、どうしようもない程つらい時に負の感情だけに囚われて、周囲の人の思いやりすら蔑ろにする道は、選ばないだろう。きっと助けを求めて手を伸ばせるだろう。

 そう思えるだけで嬉しかった。


 私がギルに対する感謝の気持ちでいっぱいになっていると、突然近くで叫び声が上がった。


「キャァァァァァ!!!! アタシったらなんて格好をしているのかしらっ!? 信じらんないぃぃぃ!!!!」


 適当に一本に結んだ水色の髪を振り乱し、とても野太い声で叫んでいるのは――魔術師団副団長のペイジさんだった。


 彼も記憶を取り戻したようだが、なんだか口調がいままでと全然違うような……?


「メルぅぅぅ!!!! こんな格好じゃ人前に出らんないわ!!!! 助けてちょうだいっ!!!!」

「はい、ペイジ様。メルが完璧に仕上げて差し上げます」

「さすがはメルね!!!! 頼りにしているわ!!!!」

「お褒めいただき恐縮ですわ、ペイジ様」


 メルさんもなんだか様子がおかしい。

 もっとおっとり柔らかな印象の少女で、ペイジさんに対してもごく普通な感じだったのに。いまではペイジさんに対して様付けで会話をし、とても敬っていた。

 ペイジさんとメルさんは師弟のはずだが、師弟ってこういう感じのものだったっけ……?


「ささっ、ペイジ様、奥のお部屋へどうぞ」

「ねぇメルぅ、アタシの肌、荒れてなぁい? 髪の手入れも全然しなかったわ。なによ、このダサダサ一本結びは……。本当にショックよぉぉぉ……」

「ペイジ様はどんな時でもお美しいですわ。ご不安なら、メルがスペシャルケアをいたしますから」

「ほんと? お願いよ~」


 ペイジさんとメルさんはそう言って、奥の部屋へと消えて行った。

 ちなみにリーナとウィルは「全部思い出したわ! あたしたち、森の異変を調べに来たのよね。ジョシュアお父さんのために」「そうだった! ジョシュアお父さん、きっとおれたちのことをすごく心配してるよな。早く帰らないと」と話し合っている。この子たちは記憶喪失時とあまり性格がかわらないみたいだ。


 私はギルに視線を向けた。


「ペイジさんとメルさんって、記憶喪失の時と性格が全然違うの?」

「ええ。ものすごく違いますね」

『いまの魔術師団も変人ばっかりなのかよ?』

「あ。ボブ先輩!」


 五人分の記憶喪失を治してくれたボブ先輩が、半透明の守護霊姿で中空に浮いていた。両腕を頭の後ろで組み、ベッドの上でゴロゴロしているような体勢である。


「ボブ先輩、記憶喪失を治してくださってありがとうございます! さすがでした!」

『だっろ~? 俺様ってば大天才だからな』

「ボブ先輩も守護霊検定合格したんですね。おめでとうございます! 今日はばーちゃんとか、おひぃ先輩の姿は見えませんけど。ほかの人はどうしてるんですか?」


 私のピンチに駆けつけてくれたのだろうが、ボブ先輩ひとりなのかな?

 ジェンキンズはなぜか怨霊になってしまい、守護霊資格を剥奪されたから、二か月くらい再試験を受けれないはずだし。


 ボブ先輩は天井近くでくるりと回転し、今度は頬杖をついて寝転がる体勢になる。


『リザ団長とおひぃさんは、ヴァルハラの狩猟大会に出るから忙しいんだと。優勝賞品がヴァルハラ限定最高級美白化粧品セットだから、絶対にゲットしたいんだとよ。だから俺様ひとりでお前を助けに行って来いってさ。つれねぇよなぁ。グランさんたちは検定試験の勉強中』

「え? ヴァルハラって日焼けするんですか?」

『知らねぇ』


 ていうか、ばーちゃんとおひぃ先輩、記憶喪失の私より美白化粧品セットを優先しやがったのか。可愛い孫娘と後輩に対してひどくない?


 ボブ先輩の声が聞こえないギルは、不思議そうな表情で横から私を見ていた。


『だから今回は俺様ひとりだけでお前のピンチを解決してやらなくちゃいけねぇ。お前とギルと、あの魔術師団員二人もガンガン働かせるから歯を食いしばれよ』

「あのぉ、ボブ先輩。いま私の爆破魔術は使用禁止中でして……。国を消滅させるレベルで危険なんですけど……」


 私が参加するのは危険じゃないかと思い、恐る恐るボブ先輩に意見する。


『問題ないぜ。というか、むしろ国を滅ぼすくらいの火力がなけりゃ、土俵の上にも立てねーな。なにせ今回お前が戦う相手は〝神を屠る狼〟――フェンリルだ。やつを封印するぞ』


 ニヤリと笑ったボブ先輩の口元から、八重歯が白く輝いていた。


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