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【コミック3巻6/14発売】前世魔術師団長だった私、「貴女を愛することはない」と言った夫が、かつての部下(WEB版)  作者: 三日月さんかく
第4章

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78:銀の鎖を超える魔道具



 翌朝。今日の私はギルさんの起床に合わせて起きることができた。

 寝起きのギルさんを見てちょっとドキッとしたけれど、その気持ちに浸る前にギルさんが、「おはようございます、オーレリア。森に変化がないか、すぐ確認に行きましょう」と言った。気持ちがスッと切り替わる。


 身支度をして小屋の外に出ると、昨日より明らかに霧の量が増えている。

 もう朝日が昇った時刻だと思うのだが、まるで夕暮れのように暗かった。


「日中でも明かりが必要なくらいの霧だね」

「やはり昨日の岩壁の崩落で、扉の封印がさらにゆるんだのでしょう。このままでは旧クァントレル領にまで霧が到達してしまうかもしれません」

「そうなると、森の外でも記憶喪失のひとがたくさん出てきちゃうね」

「街は大混乱に陥るでしょうね。封印が解けてあの生き物が外に出てきたら、もはやどうなるのか分かりません。早く手を打たなければ」


 小屋の中に戻ると、メルさんが朝食の準備を終わらせていた。リーナもウィルもペイジさんもテーブルに着いている。

 リーナとウィルは私たちが昨夜のうちに帰ってきたことを知らなかったので、驚いた様子だった。


「二人とも、もう帰ってきたの!?」

「森の奥はどうだった!?」


 ギルさんは二人の言葉に頷きながら、全員の顔を見た。


「朝食の後で詳しく話します。僕たちが森の奥で目にした状況を」





 ギルさんは宣言通り朝食が終わり、テーブルの上を片付けてから、森の奥で見た光景と扉に封印されている生き物の説明をした。

 彼の説明はとても分かりやすかった。私も一緒に探索について行った身だが、ここまで上手に自分の見たものを他人に説明できないだろう。


「つまり俺が記憶を取り戻して、その『銀の鎖』っていうのを作ればいいと、団長は考えてるわけだな?」

「ですが、その記憶を取り戻すというのが一筋縄ではいかないことも分かっています。必要な材料もまだ分かっていませんし」

「『銀の鎖』っていうんだから純銀かもよ、ギルさん」

「ほかの金属が混ざっている可能性もあるとわたしは思うわ、オーレリアさん」

「この森の中で銀なんて集められるかしら?」

「この霧じゃ、小屋の周辺を探すのさえたいへんだろ」


 私やメルさん、リーナにウィルが会話に加わる。

 ペイジさんは私たちを見回し、やれやれというように肩をすくめた。


「仮に記憶を取り戻せたとして、本当に『銀の鎖』を制作すれば解決できると思っているのか、みんな」

「どういう意味ですか、ペイジさん?」


 ペイジさんはテーブルに身を乗り出し、ギルさんにずいっと顔を近付けた。

 雑にまとめたペイジさんの水色の長髪が、彼の背中で大きく跳ねる。


「二十年ごとに『銀の鎖』を交換し続けるなんて、人間には無理だ。今回は戦争でその継承が途切れたらしいが、今回交換したところでまた継承できないかもしれない」

「えー、森の外に出られたら、あたしとウィルが伝えるわよ」

「リーナとウィルが自分たちの子供に伝えたとして、それを絶対に次の世代に継承できる保証なんかないだろ?」

「おれ、がんばって教えるよ!」

「頑張ったってどうにもならないかもしれないって言ってるんだ」


 ペイジさんの気持ちは当然分かる。

 むしろ、いままで途切れさせないようにしてきたクァントレル男爵家の根性が凄いのだ。


「つまりペイジさんは二十年ごとの一時しのぎではなく、扉の完全封印を目指したいということですか?」

「それが最高に美しいハッピーエンドだろ?」

「記憶はないはずなのに、そういうところはペイジさんのままなのですね」


 ギルさんは困ったように微笑んだ。そしてポケットから一枚の紙を取り出す。


「これはオーレリアが『銀の鎖』から解析した魔術式の一覧です。ペイジさん、いまの貴方は記憶を失っていますが、オーレリアが魔術式を解析できたように、貴方もこれを見てなにか良い案を思いつくかもしれません」

「これが魔術式ってやつか……」


 ペイジさんは紙を受け取ると、食い入るように式を読み始めた。


 その隣でメルさんが「そういえば、思い出したわ」と両手をポンと合わせた。


「わたしとペイジさんが持っていたバッグに、よく分からないものがいっぱい入っていたのだけれど。いま思うと、あれは魔道具の材料じゃないかしら。金属の塊みたいなものも入っていたもの」

「ぜひ見せてください、ポイントル団員」

「はい、団長」


 メルさんはすぐに二人分のバッグを持ってくると、バッグの中ににゅっと腕を深く突っ込む。そして革袋や蠟引き紙や箱に梱包された物を、つぎつぎに取り出した。テーブルの上にひとつずつ並べていく。


「わっ、すごい! ウィル、見て! この革袋の中には動物の角がぎっしり入ってるわよ!」

「リーナ、こっちには宝石が入ってるぞ! キラッキラだ!」


 動物の角や爪、鉱物、金属の塊、茸や植物、大きな鱗に貝殻など。まるで旅の思い出の品のように様々なものが出てきた。

 ギルさんはそれを観察し、「ユニコーンの角、アダマンタイト、オリハルコンどころかヒヒイロカネまであるじゃないですか」と謎の単語を呟いていた。


「これでペイジさんの記憶さえ戻っていたら、確かに『銀の鎖』以上に強力なものを作り出せたかもしれないのですが……」


 ギルさんが銀縁眼鏡を押し上げて両手で顔を覆った。よほど凄い材料だったらしい。


 記憶を取り戻す方法がなにかあればいいのになぁ。頭をぶつけて脳に刺激を与えるとかどうだろう?

 そもそもこれは記憶喪失というより、記憶を封印する呪いみたいな感じがするんだよね。体感として。

 呪いを解くのはやはり愛の力だろうか?

 私の中に眠っているギルさんへの愛が奇跡を呼んだり、ギルさんからのキスで記憶が戻ったりしないだろうか? うーむ。


 私は両腕を組み、記憶を取り戻す画期的な方法が思い浮かばないか、頭を悩ませていると。


『よっしゃぁぁぁぁ!!!! ついに俺様、地上に大降臨だぜぇぇぇ!!!! 聞けよバーベナ!! 俺様ようやく守護霊検定二級に受かったぜぇぇぇ!!!!』


 目の前にとつぜん、半透明の男の人が現れた。テーブルの上をダブルピースしながら踊っている。


 いや、本当に誰なんだ。


ペイジの姓をモデシットに変更しました。


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