7:チルトン領④~海賊を捕まえろ!~
十四歳のある日。チルトン領は空前のダイヤモンドラッシュに沸いていた。
そもそもなんでダイヤモンドラッシュが起こったかというと、私がチルトン家の屋根を吹っ飛ばしたからである。
「ごめんなさい、お父様! 魔術の新しい論文を試してみようとしたら、失敗して屋敷の屋根をぶち壊しちゃいました!」
「オーレリアぁぁぁぁ!!! そこに正座せいっっっ!!!」
「本当に申し訳ありませんでしたー!!!!」
お父様にめちゃくちゃ怒られたあと、罰としてチルトン鉱山に新しい坑道を造ってこいと言われたのだ。
指示通りの場所を爆破した結果、なんとダイヤモンドの原石がゴロゴロと。
これにはお父様も大喜びで、
「でかしたぞ、オーレリア!! おまえの爆破魔術もたまには役に立つわい!!」
と一発で機嫌を直してくれたし、屋敷の屋根も無事に修理することが出来た。
で、空前のダイヤモンドラッシュのなにが問題かというと、人手不足である。
私も貴族令嬢なので日々の習い事もあるから、そんなに毎日鉱山で爆破ばかりやることは出来ない。
鉱山の人員増加をしようと募集をかけても、そんなにすぐに人は集まらない。
だって磨崖仏のおかげで商店街や宿泊施設、観光ツアーなどの仕事もたくさんあって、わざわざ危険な鉱山で働こうという人は少ないのだ。
どうしたものかとお父様と一緒に頭を抱えていた時、執事が血相を変えて執務室に飛び込んできた。
「大変でございます、旦那様! オーレリアお嬢様!」
「どうしたのだ、執事よ」
「何ごとですか?」
「領内に海賊が現れました! どうやら隣国の元漁師達が漁だけでは食べていけなくなったせいで、あちらこちらの領で海賊行為をしていたようです! ついにチルトン領までやって来ました……!」
お父様がすぐさま、「こちらの被害や、海賊達の装備は?」と質問した。
「現在漁港を占拠し、港にいた漁師や加工作業をしていた婦人たちを人質にしている模様です。今のところ人質に怪我人などは居ないようですが、海賊たちは剣だけではなく、戦時中に使われていた銃も多く所持していると目撃情報が上がっております!」
戦争で使われていた銃が回収しきれず、犯罪行為やテロ活動に使われてしまっているので、なかなか治安が戻らないのである。困ったものだ。
私は別のことを執事に尋ねた。
「海賊の中に魔術師はいるの?」
「いえ、魔術師はおりませんよ。彼らは海賊にならなくても食べていけますから」
それもそうか。
隣国の魔術師の大半はバーベナが道連れにしたし、生き残った魔術師はさらに稀少になっているんだろう。
「……オーレリア」
「はい、お父様」
かつて王国軍少将であったお父様が、アッシュグレーの瞳をギラギラさせている。どうやら戦闘モードに入ったようだ。
「行くぞ。海賊共を全員引っ捕らえて、鉱山送りにしてくれるわいっ!!」
「一石二鳥ですね、お父様」
チルトン家の兵を率いて、いざ、鉱山の人材確保へ!!
▽
さて、私は数人の兵を護衛として引き連れ、海賊達が占拠しているというチルトン漁港組合の建物正面玄関へと向かった。
漁港の周囲は兵達に規制線を張ってもらったが、領民達が野次馬に集まっていて大変だった。
「海賊達は銃を持っているんだから、危ないよー! 皆下がって!」
私は必死に警告したが、
「オーレリアお嬢様~! 海賊達の髪を燃やしちまってくださーい!」
「きゃーっ! 最強の爆弾魔オーレリアお嬢様の出番が来たわよー! きゃー!」
「オーレリアお嬢様よりおっかない銃火器なんてこの世に存在しないよ! 人型最終兵器お嬢様をぶっ倒そうっつうんなら、大砲でも持ってきやがれってんだ、この貧乏海賊共めっ!!」
誰も警告を聞いてくれないぞ。困ったな。
領民達にあんまり被害が拡大しないよう、気を付けなくちゃ。
漁港組合の正面玄関には、領民達の声援に気付いた海賊達がゾロゾロと集結している。
それぞれ銃や剣を持った男達が、ざっと二十人くらい。建物内にもまだ居るのかもしれない。
ふと建物の窓を見上げれば、人質になっている漁港の人たちが見えた。
「オイ、お前らやばいぞっ! オーレリアお嬢様がいらっしゃいやがったぞー!」
「お嬢様マジでお願いです! 今日水揚げされたばかりの魚は爆破しないでくださーい! マジのマジのマジで俺達の生活がかかってるんですー!」
「お嬢様ぁぁぁぁ! 加工場の干物も爆破しないでぇぇぇ! 爆破したら恨みますぅぅぅ!」
などと、言いたい放題である。
皆、無事なようで何よりだ。
領民達の異様な声援に、海賊達が『どうやらこの少女は強敵のようだ』と警戒レベルを上げ始める。
私に向かって一斉に銃を構えたが、そんなもの、私にとっては無意味だ。
さっと手を掲げて、魔術式を展開。
私が見える範囲のすべての銃、その内部をボンッ! と爆破させる。
「うわぁ! 突然銃が爆発した!」
「急にどういうことだ!?」
「くそ、使い物にならねぇ! ちくしょう、剣だ! 剣であの女を切り刻んじまえ!」
壊れた銃を投げ捨てた海賊達は剣を構え、私に向かってくる。
———だけど。
「私の娘に剣を向けたところで、勝てる相手ではないということが分からんのか。愚か者共めが」
漁港組合建物の裏手からすでに建物内の海賊達を一掃。人質も全員解放したお父様が、悠々とした足取りで正面玄関から出てきた。
チルトン兵達もお父様の後ろからゾロゾロとやって来る。
「なっ、なんなんだ、こいつらは!?」
「なかの連中は全員やられちまったのかっ!?」
慌てふためく海賊達に、お父様は少将時代に愛用していた大剣を構えて叫ぶ。
「もはやオーレリアが魔術を行使する必要さえない。この私、オズウェル・チルトンが参るっっっ!! 兵達よ!! 私に続けぇっ!!」
「「「イエス・サー!!!」」」
そこからはお父様の独壇場である。
お父様はいつの間にか鞘に戻した大剣で海賊達をゴンゴン叩きのめして失神させると、次々に兵達に捕縛させ、鉱山へと送っていった。
「全部で三十二人か。まずまずの収穫だな」
「これでちょっとは人手不足も解消されますね、お父様」
「そうだな。今度は山賊でも狩って、鉱山送りにしてやるのもいいかもしれん」
こうして鉱山の人手不足を解消し、治安も少しずつ回復していくチルトン領であった。