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【コミック3巻6/14発売】前世魔術師団長だった私、「貴女を愛することはない」と言った夫が、かつての部下(WEB版)  作者: 三日月さんかく
第4章

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66:グレてるバンデッド



 秋の空は高く、木々がゆっくりと色づき始めている。もう一月も経てば紅葉が見頃かもしれない。

 農村部は実りの季節を迎えて、人々が慌ただしい様子で収穫作業をしている。穀物を刈り取り、木の実を拾い、キノコや果物を収穫し、冬のために脂を蓄えた獣や鳥たちを仕留める。そして干したり、塩漬けやオイル漬けといった保存食を作っては、一部は売りに出し、残りを自分たちの春までの食糧にする。

 なんて忙しなくて、平和だろう。もう二度とこのリドギア王国が、戦火で焼かれることがないといいな。


 馬車で王都を出発してから、私はそんな穏やかな光景をたまに見かけては、柔らかく目を細めた。


「おいっ、そこの馬車、止まるでやんすっ!! オイラたちはこの地方でいちばん恐れられている山賊『グレートバンデッド』でやんす!! 大怪我したくなけりゃ、この道を通る通行料を寄越すでやんすっ!! オイラたちはマジで強いでやんす、ヒャッハー!!」


 まぁ、峠を越えるごとにこんな追剥ぎが現れれば、だいたいどんな光景もしみじみ平和に見えるもんだよなぁ。

 全員モヒカンに髪を整え、肩からトゲトゲを生やしている山賊たちを前に、私はしみじみと頷いた。


「ねぇ、ギル。王都周辺やチルトン領が平和だったから、戦後の混乱が長引いているの、私ちょっと忘れかけてたわ」

「王都周辺の治安がいいのはガイルズ国王陛下の采配と衛兵たちの努力ですが、チルトン領に関してはオーレリアとお義父様が暴れまわったからではないでしょうか?」

「そうだったかもしれない」


 向かいの席で銀縁眼鏡に手を添えて言うギルに、私は笑いかけた。


「じゃあチルトン領で鍛えた正義の力で、『グレてるバンデッド』とやらをぶっ倒してやりましょうか!」

「ちょっとお待ちください、オーレリアっ!?」


 私はそう言って、走行中の馬車の扉を開ける。そのまま馬車から飛び降りると、ちょうど馬に乗っている山賊の一人の顔面に膝がぶつかり、なんかいい感じに蹴りが入った。山賊の前歯がどこかへふっ飛んで行った。

 モヒカン山賊は「おぶっ!」とか言いながら落馬し、私はそのまま馬を奪う。


「さぁ、私の爆破魔術でドカーンといきますか!」

「ですからっ、お待ちくださいオーレリア! 貴女はいま、爆破魔術は使用禁止でしょう!?」

「あっ。そうだった」


 馬車から叫んでいるギルの言葉にハッとする。

 そういえば私が爆破魔術を使ったら危険なんだった、リドギア王国全土が。


 クリュスタルムの返還を受けてトルスマン皇国からやって来た、アドリアン元大祭司の奸計(かんけい)により、私は腕輪型の魔道具をはめられてしまった。

 大粒の虹神秘石とミスリルで制作されたその魔道具は、一見とても美しい腕輪だ。

 けれどそれは、戦時中にトルスマン皇国魔術兵団が生み出した、『魔術師の能力増強魔道具』の失敗作だった。

 おかげで取り外すことが出来ず、私の爆破魔術が最強になりすぎて、魔術を使うと国土が消滅するレベルになってしまったのだ。


 使わないように気を付けているけれど、爆破魔術を使うことが日常になっていた私にとって、その習慣を止めるのはけっこう大変だった。ついうっかり忘れて、両手を構えてしまう。


「教えてくれてありがとう、ギル。危なかった~。ついうっかりで、リドギア王国を滅ぼしたくないもんね」

「本当に気を付けてください!!」

「じゃあ、爆破魔術無しでグレてる奴らを吹っ飛ばそう!」

「そうじゃないです、オーレリア!!」


 山賊は二十人ほど居るのでちょっと大変だと思うけれど、全員倒して近くの街の衛兵に突き出して、少しでもこの国の治安をよくしないとね! これも貴族として当然の行いってものですよ。


 私は腰に差していた魔術師用の杖を抜き取ると、先端の尖り具合を確認する。

 うん、だいじょうぶ。山賊たちの目に次々と刺していけば勝てるな。


 そう考えている私の目の前で、魔術式が展開された。


「オーレリアは下がっていてください。僕が植物魔術で捕縛します」


 気が付くと、止めた馬車から降りてきたギルがこちらに向かって走ってきていた。そして指先を動かし、展開された魔術式から薔薇の蔓を生成した。

 トゲだらけの蔓はギルの指示で自由自在に動き、山賊たち全員をぐるぐる巻きにしていく。


「うわっ!? こいつら、魔術師だったのか!?」

「ちくしょうっ、体が動かせねぇ!」

「オイラは薔薇アレルギーでやんす! 助けてー!」


 ギルは、馬だけは傷付けずに山賊だけを捕縛する、という器用な魔術を披露した。

 乗り手が捕縛されてしまったことで、馬たちは山賊を振り落とし、野山へと帰っていく。

 そして蔓で縛られてて動けない山賊が、地べたに転々と転がっていた。


「さすがはギルだねぇ。お見事だよ」

「お褒めいただき光栄です、オーレリア。ですが夫として貴女を守ることは、僕に与えられた当然の義務。いえ、もはや権利ですから……!」

「あいかわらず愛が重いなぁ、ギルは。で、この山賊たちはどうする?」


 私は馬から降り、手綱を外して逃がしてやる。ほかの馬たちのあとを追うように野山へと駆けて行った。


「人数が多いので山賊たちはここに放置して、次の街に辿り着いたら衛兵に報告しましょう」

「次の街って、いよいよ旧クァントレル領だよね?」

「ええ」


 ギルは黒髪を揺らしながら、次の街がある方角へと視線を向ける。その黒い瞳にはすでに目的地が見えているかのように鋭かった。


「行方不明者が続出中の『霧の森』がある、旧クァントレル領です」


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