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【コミック3巻6/14発売】前世魔術師団長だった私、「貴女を愛することはない」と言った夫が、かつての部下(WEB版)  作者: 三日月さんかく
第3章

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64:結婚指輪を依頼する



 旅の準備の合間を縫って、本日はギルと少々お出掛けだ。

 王都滞在中のチルトン家の皆や、ロストロイ家の使用人達からの過保護な扱いに困惑中だったので有難い。ちょっとした息抜きだ。


「大丈夫ですか、オーレリア? 馬車から降りて一人で歩けますか?」

「もちろん一人でも歩けるし走れるし、スキップもバク転も逆立ち歩きも出来ますとも」


 まぁ、ギルが一番過保護なんですけども。もはや要介護者扱いだ。

 心配してくれるのは有難いけど、爆破魔術無しでも日常生活くらい送れるんですけどね?


「今日の外出にも、陛下からお借りした護衛達に付いてもらっています。僕も決して貴女から目を離さず、どんな危険からもオーレリアを守り抜く所存です。ですが、僕たちの力不足で貴女が爆破魔術を使用する結果となったその時は……、この王国を火の海にしてしまったその時は……、亡国リドギアのために二人で鎮魂の旅に出ましょう。オーレリアとなら、どんな苦難の旅にも耐えて見せます」

「ギルは想像力が豊かだねぇ」


 そうこうしているうちに馬車が目的の店に着いた。

 貴族向けの高級店街一等地にある二階建ての白亜のお店は、以前ギルが焔玉のハートのイヤリングを購入したジュエリーショップだ。私もイヤリングをピアスに加工し直してもらう時に入店したことがある。

 その時ギルと『いつか結婚指輪を買おうね~』的な口約束をした。

 私としては正直、爆破の邪魔……という気持ちはあるのだが、約束は約束だからね。

 それに、ちょうどいま手元に加工してもらいたいものがあるし。





 前回同様にお出迎えしてくれたジュエリーショップのオーナーは、「結婚指輪を作りたい」旨を伝えると、ニコニコ笑顔ですぐに別室に案内してくれた。


「こちらのデザインが当店の一番人気となっております。地金の種類も豊富で、他店では黄金やプラチナ、純銀くらいしか選べないところが多いようですが、当店では虹合金やミスリルなどの希少金属、少量ですがオリハルコンもご用意いたしております」

「へぇー、ほんとに色々種類があるんですね。ちなみにオリハルコンだとどれくらいの耐久性がありますか?」

「水やアルコールにも強く、着用されたまま温泉に入っても変色しませんよ」

「そういうのじゃなくて、どれくらいの規模の爆破にまで耐えられますか?」

「……申し訳ありません。まだ爆破実験は試したことがなく……」

「そうですかー」


 まぁ、腕に嵌まったままのミスリルの魔道具が頑丈だから、ミスリルより価値が高いオリハルコンならさらに頑丈かもしれない。爆破に巻き込まれても大丈夫かも。


 隣に座っているギルは他の指輪のデザイン画を見ている。ハートシェイプの巨大なピンクダイヤモンドが使用された指輪とか、地金にハート形の彫り込みが入った指輪とか。あと、指輪の内側にこそっりハートシェイプの宝石が埋め込まれたデザインとか。

 ギルはどうしても私にハートを付けさせたいらしい。

 その上、「なるほど。十文字前後なら、指輪の内側に文字を刻めるのですね……〝マイスウィートハート♡オーレリア〟……。おや、入りませんね。十文字前後でどうやって愛を込めるか、『恋人に捧げるポエムの書き方~上級編~』に到達した僕の腕の見せどころですね……」などと呟いている。

 うちの夫はいつ上級に到達したのだろうか? 本当に初級を卒業したの?


「地金の話は置いておいて。持ち込みたい原石があるんですけど、平気ですか?」

「もちろんです、奥様! 当店の二階部分は工房になっており、宝石の研磨やカットを担当する専門の職人がおります。硬いダイヤであろうと、希少な焔玉であろうと、彼の腕ならどのような原石も必ず素晴らしい宝石に仕上げることが出来ます!」

「じゃあ、これなんですけど」


 私は持ってきた小振りのケースを開ける。

 中にはオーロラ色に輝く靄を内包する水晶の原石が鎮座していた。クリュスタルムがくれた分身である。


「トルスマン皇国産の『豊穣の水晶』です。あっちの大神殿の宝玉様の分身で」

「こ、これは、さすがに初めて拝見いたします……」

「何百年か経つと喋るらしいですよ~」

「少々お待ちください! 職人をお呼びしますので!」


 というわけで急遽職人が呼び出され、五十代ほどの職人気質な男性がやって来た。作業用のエプロンを外しただけ、という姿から、普段は余程のことがなければお客の前に顔を出さないらしいことが伝わってくる。

 職人さんは白い手袋を嵌めた手で、「ちょいと失礼します」と水晶を持ち上げる。鑑定用のルーペでじっくりと観察し始めた。


「トルスマン大神殿の失われた宝玉といえば、我々宝石職人の間でも伝説の代物ですよ、奥様。最近それが見つかったとは小耳に挟んでおりましたが、分身とは……」

「なんです? 僕の妻の話を疑う気ですか?」

「いいえっ、滅相も御座いません! 伝承に書かれているとおりの特徴を持った水晶です。紛いものであるはずがありません!」

「そうですか」


 ギルの圧が消えたので、職人はホッとしたように肩から力を抜いた。


「それで、この店で豊穣の水晶を研磨出来そうですか?」


 私が尋ねると、職人はやる気に満ちた表情で頷いた。


「もちろんです、奥様っ! これほどの品を研磨させていただけるなんて、職人としての誉れです。ぜひワシに任せてください! 引き受けても構いませんよね、オーナー!?」

「ああ、もちろんだとも。奥様、彼もこう言って張り切っております。ぜひロストロイ魔術伯爵家の家宝の一つになるであろう、『豊穣の宝玉』製作は当店にお任せください!」

「綺麗なまんまるの水晶玉に仕上げてみせますよ、奥様!」

「あ、違うんです」


 クリュスタルムみたいにまるい水晶玉の製作がしたいんじゃなくて。


「私とギルの結婚指輪に使いたいんです。その原石から、指輪二つ分」


 オーナーと職人は困惑顔になり、「え? 伝説級の代物ですけど、結婚指輪に使ってしまってもいいのですか?」「これ、本当に貴重な水晶ですよ? 本来なら王家の宝物殿で厳重に管理するレベルですよ?」と尋ねてくる。


「うん。いいの、いいの。友達の分身だからね。仕舞っちゃったら可哀そうだもの。ねっ、ギル」

「僕はオーレリアの望む通りが一番幸せです。……それにあの悪魔の分身ですから、仕舞っておくとまた中心の靄が真っ黒になって、死を呼び寄せてしまいそうですしね」

「あぁ、確かに。クリュスタルムの分身なら、ありえそう」


 というわけで、クリュスタルムの分身とオリハルコンの地金で贅沢な結婚指輪を製作してもらうことにした。

 『霧の森』から帰ってくる頃には、完成しているだろうか。


短編版『前世魔術師』の朗読動画がついに公開になりました!

梶裕貴さんのお声だけでもすごいクオリティで、いちかわはる先生によるオーレリアとギルも超絶美麗です(*^^*)

下になろう様の公式YouTubeチャンネルへのリンクを貼っておきますので、ぜひ視聴してください。

アニメイト様店舗でも放送中です!

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