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【コミック4巻12/13発売】前世魔術師団長だった私、「貴女を愛することはない」と言った夫が、かつての部下(WEB版)  作者: 三日月さんかく
第3章

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58:クリュスタルムの返還17



「うっ、うっ、うっ……!」

「泣かないでください、鬱陶しいです。ちょっと頭を杖で突いただけでしょう」

「しゅ、しゅみませんんん……! で、でもっ、以前オーレリアさんの爆破に巻き込まれて出来たタンコブのところを的確にザクっと突っつかれたので……っ!」

「ハッ。その程度の痛みで済んで良かったではありませんか。僕とオーレリアを離縁させ、あの人を巫女姫にしようと画策していたなどと言われてはね。大人の対応を見せるのは無理というものですよ。互いに深く愛し合う僕らを引き離すだなんて、そんなことはヴァルハラの大神でさえ許されるはずがないのです。まったく……。

 というか、貴方はなぜ僕の妻の名を親し気に呼んでいるのですか? いったい誰に許可を取って彼女の名前を呼んでるんです? 僕も爆破魔術は扱えるのですよ。妻ほど素晴らしい使い手ではありませんが」

「ごっ、ごめんなしゃいいいい!! 俺を爆破しないでくださいぃぃぃ……っ! きょ、許可はオーレリアさんご本人ですぅぅぅ!」

「……それならば仕方がありませんね。もう一回杖で突っつくだけで不問にいたしましょう」

「ぴぇぇぇぇん!」


 僕はそう言って若い祭司を脅したが、実際にタンコブを突くのは止めておいた。

 今はオーレリアの元へ駆けつけている最中で、走りながらこの若造のタンコブを的確に狙える気がしなかったからだ。

 オーレリアなら、そういう曲芸じみたことも出来そうだが。


 それに、僕とオーレリアを離縁させようとしていたことは腹立たしいが、こんな若造など嫉妬の対象にもならない。

 僕はオーレリアからちゃんと愛されている。こんな顔と若さだけの祭司が横槍を入れてきたところで、オーレリアからの愛情はこゆるぎもしないのだ。僕と彼女の愛情の比率が、例え八対二だとしても……!


〈おいギル! 何を黄昏ておるのじゃ! そんなことよりも外を見るのじゃ!〉


 クリュスタルムの言葉に誘導され、視線を側の窓に向ける。もう何発目かも分からない大規模な爆破魔術が、ちょうど上空へと打ち上げられたところだった。


 これほど巨大な魔術式を展開するには、ふつうは魔術用の杖を使用しなければならない。もちろん、爆破魔術に関しては右に出る者などいないオーレリアであっても、このレベルの爆破魔術は杖を使用しなければ無理だ。

 けれどオーレリアは余程のことがなければ杖を持ち歩かない。杖を使わなくても山くらいは吹っ飛ばせるので、必要がないのだ。

 特に今日は国王陛下主催の夜会だ。大規模爆破をする必要性などどこにもなかった。


 それなのに、これほどの威力の爆破がすでに数回繰り返されている。

 やはり、そこの祭司が言っていた『戦時中にトルスマン皇国魔術兵団が開発した魔道具』とやらが原因なのだろう。

 そもそも通常の杖ならば一発目の大規模爆破で吹っ飛んでいるはずだ。


 クラウスとかいう若造から、魔道具を嵌められたとたんにオーレリアが苦しみだした、という話を聞いている。

 クリュスタルムとアウリュムも目撃したと言っている。


 たぶんオーレリアの身には魔力暴走が起きている。身の内側で魔力が過剰生産され、魔術として変換して外に放出しなければ体がもたない状況なのだ。

 普通の魔術師なら周囲に害の無い魔術を放てばいいが、オーレリアに関しては爆破一択だ。周囲に害しかない。

 オーレリアは世界を破滅させたい願望などないので、ギリギリまで魔力暴走に耐えようとするだろう。

 どれほど吐き気や頭痛などの症状に襲われても、歯を食いしばってこの国を守ろうとするだろう。

 それが僕の知るオーレリアでありバーベナだ。


 だが、先程から何発もの爆破魔術が撃ち放たれている。


 チュッッドォォォォーーーッッン!!!! と打ち上げられた爆破魔術は、そのまま月をも破壊しそうな勢いで昇っていく。

 けれどどこからともなく現れた、最上級水魔術と最上級風魔術の合わせ技によって爆破の威力が相殺された。

 そして三つの大規模魔術がぶつかり合う衝撃波を、大規模結界魔術があっさりと跳ね返すのが見えた。


「オーレリアが魔力暴走を起こしているのは分かるが、ほかの魔術は誰が展開しているんだ……? あれほどの魔術を扱える者なんて、もうリドギア王国には残っていないはず。トルスマン大神殿の随行者に魔術師が混じっていた可能性も低い。いったい誰だ? まるでバーベナが居た頃の魔術師団上層部レベルだ……」

「あっ、ロストロイ魔術伯爵様! こっちの瓦礫の隙間から、オーレリアさんの居る方へ行けそうですよ!」

〈ギル ぼーっとするでない! 早くオーレリアを助けるのじゃ!〉 

〈さぁ行こう 恩人よ〉

「……行けば分かるか」


 僕は再び駆け出した。





「おひぃ先輩~、ジェンキンズ~、いろいろ大丈夫ですか~?」


 魔道具のせいで魔力底なし状態の私より、おひぃ先輩とジェンキンズの状態が危険になって来た。

 ふたりとも守護霊という半透明の姿で夜空に浮かんでいるのに、ぐったりと四つん這いの体勢をして肩で息をしている。

 うちのばーちゃんはまだ余力のある表情で、大規模結界を維持しているが。


『なぜっ、こんなヤバい娘にこんなヤバい魔道具を与えようと思ったんですの、トルスマン皇国の馬鹿どもは!?』

『リドギア王国に負けた恨みから、魔王を生成したくなったとかじゃないの? オーレリアをちょっと改造すれば魔王くらい作れるでしょ』

『そうですわね。きっと魔王が作りたかったんですのね。ジェンキンズ、貴方冴えておりますの』

「人を魔王扱いするのはやめてくださいよ~」

『魔王はお黙りなさい』

『魔王はこの世界から消えた方がいい。そして私と共にヴァルハラへ行こう』

「あんまりだろ」


 茶番はともかく、現状打開の方法が思いつかない。

 この腕輪は外そうとしても外れないし、ミスリル製だから破壊しようと思ったら私の腕ごと吹っ飛ばす勢いの力が必要だろう。それは最終案だ。最終案と言いつつ、ここに居る魔術師全員が現状の魔術式の維持で限界なのだけど。

 うーむ。詰んでるぞ……。


 悩む私達の周囲には最初の爆破で製造された瓦礫の山があった。その向こうから突然、足音が聞こえてくる。


「オーレリア!!」

「あ、ギル。そういえばクラウス君に呼んできて欲しいって頼んでたっけ。来てくれてありがとー!」


 やばい。守護霊とかぬかす三人が現れたせいで、いろいろ忘れてた。


 ギルは瓦礫の山から駆け降りると、私のもとへ走り寄ってくる。ギルはひどく焦った表情をしていて、彼にずいぶん心配をかけてしまったな、と思った。


「クリュスタルムやあの若造から話は聞きました。魔力暴走は?」

「爆破魔術を打ってる間は平気。でも魔道具の影響か、魔力が無尽蔵に生成されて私が死ぬまで止まらなそう。腕から外れないし」

「実に厄介ですね。魔道具を見せてください」

「てか、クリュスタルム達は?」

「この程度の瓦礫の山でさえ登れないなどとあの若造が言うので、置いてきました。そのうち迂回ルートを見つけて、こちらに辿り着くでしょう」

「そっか」


 私がミスリルと虹神秘石で出来た腕輪を見せれば、ギルは彫り込まれた魔術式を真剣な表情で読み始める。私からも、すでに解読した部分を説明した。


「トルスマン皇国の魔術師は、こんな滅茶苦茶な術式を使っていたのか!?」

「虹神秘石が上手いこと媒介作用をもたらしちゃってるんだと思う。誤作動の奇跡って感じだよね」


 私がそう言えば、上空から『むしろ誤作動の悪夢ですの』『誤作動の魔王でいいよ』『隣国は私が若い頃から、魔術師の質はあまり良くはありませんでしたねぇ』などと言葉が返ってくる。


「そろそろ魔王から離れようよ」


 しつこいなジェンキンズ、と思って上空に向かって私が言うと。

 ギルが首を傾げた。


「どうしたんです、オーレリア? 急に魔王などとよく分からないことを」

「え? 皆と喋ってたんだけど」

「皆とは?」

「えぇぇ!? ほら、おひぃ先輩とか、上空に浮かんでるじゃん!?」

「元上層部の水龍の姫君ですか……? いったいどこに?」

「ほらっ、あそこ! 半透明に光り輝いてるでしょ!」

「……見えませんよ?」

「えええぇぇぇっっ!?」


 腕輪を嵌めた方とは逆の手で指差してみたが、『守護霊を指差すのはやめなさいですの』と、おひぃ先輩に苦言を呈されるのみであった。


 ばーちゃんが口を開く。


『オーレリア。守護霊は基本的に生きている人間には見えないものなのですよ。貴女は死に近い魂を持っているため、特別に私たちが見えるのです』

「そうなの、ばーちゃん!?」

「え、リザ元団長もおられるのですか? 貴女、また死者の世界に引きずり込まれたりしませんよね?」

「守護霊だからそこらへんはクリアしたっぽいよ」


 私はギルに守護霊の説明をした。

 自分の目には見えない存在の話をされても信じてくれないかもしれないな、と思ったけれど、ギルはあっさりと「オーレリアが僕に嘘を吐くはずがありませんから」と信じた。


「それに、貴女が大規模爆破魔術を放っていたときに、高度な水魔術式と風魔術式の合作、そして強力な結界魔術式が発動するのを目撃しましたし。あのレベルの魔術式を扱える者は現在の魔術師団にはおりません。元上層部たちが守護霊として現れたと聞いて、むしろ納得です」

「そっかぁ」

「では情報も共有出来たところで、この魔道具の件に移りましょう」

「やっぱり私の腕ごと切り落とす系ですかね? 出来れば一瞬で切り落としてください。シュパッと」

「何故、リドギア王国一の愛妻家であることを自負しているこの僕が、嫁の腕を切り落とさなければならないのですか……」


 ギルは嫌そうに顔をしかめた後、「魔術式に介入して、式を書き換えます」と言った。


「魔術式が滅茶苦茶すぎて、オーレリアの身に被害がないように魔道具の破壊、もしくは強制停止は難しそうです。なので、どうにか魔道具に刻み込まれた魔術式に介入し、魔力暴走を止めます。魔力暴走さえ止めてしまえば、この異常な威力の爆破魔術もおのずと元の威力に戻るはずです」


 魔術式の書き換えは繊細な技術と集中力が必要な行為だ。あと、書き換える魔術式の属性が自分と相性がいいか、という問題もある。私も爆破魔術なら書き換えることが出来るけれど、ほかの魔術式はてんで駄目だ。

 どんな属性の魔術式でもそつなく扱える天才ギルだからこそ、この滅茶苦茶な魔術式に介入して書き換えることが可能なのだろう。私には出来ない芸当だ。


「僕を信じて、任せてくださいますか?」

「もちろん! めっちゃ信じてる。だからよろしく頼むよ、ギル」


 私が笑みで返せば、ギルも柔らかく目を細め、微笑んだ。


「では、始めましょう」


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