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【コミック3巻6/14発売】前世魔術師団長だった私、「貴女を愛することはない」と言った夫が、かつての部下(WEB版)  作者: 三日月さんかく
第3章

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55:クリュスタルムの返還14



 クラウスはクリュスタルムとアウリュムを抱え、廊下をひた走る。

 ギル・ロストロイ魔術伯爵を連れて来るようにという、オーレリアの指示に従うために、とりあえず夜会会場へと向かっていた。


「でも、ロストロイ魔術伯爵様、夜会会場にいらっしゃるかなぁ? 最初はオーレリアさんと一緒に夜会へやって来たのに、途中から居なくなっちゃったみたいだったし……。新妻のオーレリアさんを会場でひとりぼっちにするなんて、伯爵様はとってもひどいよ……」


 ぶつぶつと呟くクラウスの言葉に、彼の腕の中からクリュスタルムが返事をする。


〈ギルは初心じゃから オーレリアの艶やかな装いに耐え切れず逃げたのじゃ〉

「……え?」

〈あやつは妾がおるせいでオーレリアと結ばれることが出来ないといつも怒っておるが 正直 妾が居なくてもギルは生息子のままだったと思うのじゃ〉

「えぇぇ?」

〈ギルはオーレリアを好き過ぎて 三十を超えておるくせに思春期のような恋をしておるのじゃ〉

「ええぇぇぇぇっ!?」


 クラウスにとっては衝撃の事実である。

 思わず足が止まりそうになってしまう。


「ただの政略結婚で、十六も年が離れてて、なのにまさかの思春期の恋状態!? オーレリアさんは冷遇されてるんじゃなかったの!? 『一緒に寝るのも駄目みたいで』って言ってたのって、そっちの意味!? 好き過ぎて駄目ってこと!?」

〈なに阿呆なことを言っておるのじゃクラウス ギルがオーレリアを冷遇するわけがなかろう

 よしんばギルがオーレリアを冷遇したとして オーレリアはそんな待遇を許す女ではないのじゃ あやつは『地位向上を要求しま~す☆』とか言って ドカーンとやるはずじゃ〉

「そ、そうですよね……。オーレリアさんは強い人ですもんね……」


 走っている最中だったが、クラウスは自分の愚かさに頭を抱えたくなった。


 オーレリアを篭絡しろとアドリアン大祭司に言われたときに、もっとロストロイ夫婦の関係を探るべきだった。

 そうすれば二人が愛し合う夫婦だということに、いずれ辿り着いただろう。


 いや、例え愛し合う夫婦ではなかったとしても。

 国や民という大きな大義名分があったとしても、誰かを離縁させようなどと画策してはいけなかったのだ。

 そんなことは人の道理に反する。神に仕える祭司が行って良いことではなかった。


「あとでオーレリアさんにも、ロストロイ伯爵様にも謝らないといけないなぁ……」


 力なく呟くクラウスに、クリュスタルムが〈一体何の話なのじゃ?〉と尋ねた。

 クラウスは、自分の過ちとアドリアン大祭司の計画を説明する。


〈妾の大神殿はなんと愚かな組織に成り下がったのじゃ! 呆れ果ててものも言えぬ!〉

「本当に申し訳ありません、クリュスタルム様……」

〈我がおりながら 大神殿を腐敗させてしまってすまなかった クリュスタルムよ〉

〈兄上は妾がおらぬと腑抜けになってしまうから仕方がないのじゃ!〉

〈我のことを許してくれるのか妹よ〉

〈妾たちはたった一つの兄妹 兄上のことはすべて許すと決めておるのじゃ! 身内贔屓じゃ!〉

〈なんと兄妹愛に満ちた優しい妹だろう お前の優しさに応えるために これからは我も大神殿をきちんと監視しよう〉

〈うむ 妾たちで新しく最強の大神殿を作るのじゃ!〉


 クリュスタルムは暗い表情をするクラウスに話しかけた。


〈よいかクラウスよ オーレリアとギルに己の過ちをきちんと説明し 謝罪をするのじゃ 二人が許すかは妾には分からぬが ちゃんと誠意を見せるのじゃ

 じゃが今は早くギルを探し出し 助けを求めることが急務じゃ!〉

「はっ、はい! もちろんです、クリュスタルム様!」


 クリュスタルムの言う通り、今は自分の過ちに気付いてくよくよしている場合ではない。一刻を争う場面だ。

 今この瞬間も、オーレリアが魔道具によって魔力暴走を起こしているのだ。

 彼女自身の精神力でなんとか持ちこたえているが、いつ爆破魔術が炸裂するか分からない。

 そしてその爆破の規模がどれほどのものかも、想像さえつかなかった。


(ロストロイ伯爵様は、魔術師団長だ。きっとオーレリアさんを助ける方法を見つけてくださるはず……!)


 次の廊下の角をクラウスが曲がったところで、ドレスローブの裾を翻しながらこちらに向かって走ってくる男性の姿が目に飛び込んできた。


「あ、あれは……!」

〈ギルじゃな! さすがオーレリア公認ストーカーじゃ! 居場所を探知してこちらにやって来たのじゃな!〉

「えぇぇっ? 公認ストーカーって何ですか!? 大丈夫な人なんですか、ロストロイ伯爵様って!?」

〈おーいギルー!! オーレリアの一大事じゃぞー!!〉

「この辺り一帯の魔力が激しく揺らいでいる上に、妻に持たせたピアスの反応があるのだが、一体何が起こっているのか説明しろ、この悪魔ぁぁぁ!!!!」


 ロストロイ伯爵は黒髪を振り乱しながら目の前までやって来ると、鬼の形相でクリュスタルムを鷲掴み揺さぶった。


(ひぇぇぇぇっ!? ロストロイ伯爵様って、なんだか思ったのと違う感じの人みたいぃぃぃ!!)


 冷静沈着という言葉が似合いそうな怜悧な大人の男性に見えていたのだが。

 自分には人を見抜く目が全く備わっていないらしい、とクラウスは涙目で思った。





 ……あー、なにこれ。

 すっごく頭が痛い。冷汗が出て悪寒が走る。吐き気がすごくて、床と熱い口付けをしている最中なのに天地が分からないほどぐるぐるする。

 ちょっと目を開けたら世界がぐにゃぐにゃだ。ありとあらゆる物の輪郭が溶けて見える。


 極限下の戦時中に開発された『魔術師の能力を増強させる』魔道具かぁ。そりゃあ碌な品物じゃないよね。

 勝つためなら何でもやらなくちゃいけない時代だったから、魔術師の大量破壊兵器化を目的に開発していたんだろうな。

 こんな魔道具を実用化されて先の戦争に投入されていたら、勝敗が変わっていたかもしれない。よかったぁ、失敗作で。


 でもいまの問題は、ギルが来るまで私がこの魔力暴走状態に耐えられるかどうかだな。

 体の中で魔力が暴走していてヤバい。少しでも気を抜くと魔術を発動してしまいそう。

 通常なら魔術式を展開するというワンクッションがなければ、体内にある魔力は魔術として正しく発動されないけれど。これほどの魔力暴走だと術式が正しくなくても、体外へ放出された時点で強い力を生み出してしまう。現に漏れ出ている魔力がバチバチと音を立てて、周りにある物を爆破していく。

 自分が爆破魔術特化型だということをこれほど悔やんだことはない。これが植物魔術の得意なグラン団長だったら、放出されても綺麗な花吹雪で済んだかもしれないのになぁ。


 あぁ、早く来て、ギル。

 腕輪ごと私の腕を吹っ飛ばしてもいいから、私の暴走を止めて欲しい。

 王城どころか、王都まで火の海にしてしまうかもしれない。

 嫌だ。嫌だ……。

 戦争でさえあんなに嫌だったのに、魔力暴走で殺人鬼になることだけは本当に嫌だ……。


 ギル、ギル、たすけて……。


 私が強くギルのことを想った、その時———……。





『まぁ、さすがは魔術師団上層部最弱のバーベナですの。相変わらず無様な姿ですの』

『いや、今はバーベナではなくオーレリアだよ。上層部最弱は否定しないけど』

『まったく世話の焼ける孫娘ですこと』


 なんか、ギルじゃないのが登場してきたんですけどぉぉぉっ!!!?


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