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【コミック3巻6/14発売】前世魔術師団長だった私、「貴女を愛することはない」と言った夫が、かつての部下(WEB版)  作者: 三日月さんかく
第3章

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43:クリュスタルムの返還2



 翌日。私とギルはクリュスタルムを連れて、馬車で王城へと向かう。


 普段は自分好みのシンプルな服装(爆破の邪魔にならない)に、夫から貰ったラブリーキュートでエンジェルなハートのピアスという、なかなか珍妙なファッションをしている私だが、今日は王城に上がるために少女感満載なフリフリドレス着用だ。

 ピアスにギルの愛情(居場所探知の魔術)が詰まっているため、外すに外せないからな。

 フリルにレース、リボン増し増しな私の姿に、毎回ギルが「オーレリアが僕のために着飾ってくださっている!!」と喜んでくれるので、まぁいいか、という心境だ。


 王城に着くと、第一応接間へと案内される。ここは主に国外の来賓をもてなす部屋だ。

 今日の会合で一番身分が低いのは私達なので、約束の時間よりだいぶん早めにやって来た。陛下やトルスマン皇国の大祭司がやって来るまで、ひたすら待機である。

 ちょっと面倒だけれど、これが貴族のマナーなのだから仕方がない。


 そう思って第一応接間に入ると、———何故か私達以外の人間がすでに全員雁首揃えて椅子に腰掛けていた。


 奥の椅子には昨日お会いしたばかりの国王陛下が、今日は王族らしい格式張った衣装やマントを身に着け、王冠を被って鎮座している。

 陛下の隣にはトルスマン皇国から嫁がれた元巫女姫の側妃様がいらっしゃった。


 トルスマン皇国大神殿からの来賓は一目で分かった。彼らは皆、純白の民族衣装を身に着けていたからだ。

 男女合わせて二十人くらいは居るだろう。

 いかにも長老といった雰囲気を醸し出しているお爺さんが、たぶん大祭司なのだろう。お爺さんの側には補佐を担う祭司達がたくさん控えていた。

 あとはクリュスタルムをお世話するために選ばれたという、巫女姫達の集団が並んでいる。


 私は思わずギルに視線を向けてしまう。


 これ、もしかして私達、遅刻した?

 約束の時間より三十分前に到着したけど、それじゃ足りなかったかな?

 いっそ前日入りして徹夜待機すべきでしたかね?


 私の考えが伝わったのだろう。ギルは小さく首を横に振った。

 どうやら私達が遅刻したわけじゃないっぽい。


 戸惑っていると、トルスマン大神殿の人達が椅子から立ち上がり、こちらに近付いてきた。


 彼らは大祭司を中心にするようにして並ぶと、ゆっくりと跪く。


「クリュスタルム様、長きに渡るご不在をトルスマン皇国の民一同、憂いておりました。再び我らが国にお戻りになられることを祈り続け、ようやく今日の日が訪れました。

 どうか我らにその尊いお姿をお見せくださいませ。

 そして我らに豊穣の加護を、クリュスタルム様……!!」


 大祭司は切実そうな声で、私が提げている鞄へと話しかける。すごい光景だな。


〈うむ 良かろう ……オーレリア 妾を鞄から出してくれなのじゃ!〉


 クリュスタルムに促され、訳が分からないまま水晶玉を取り出す。


 すると大祭司達はピカピカ輝くクリュスタルムの姿を見て、両手を合わせて感謝の祈りを捧げ始めた。


「……大祭司達にとってこの場で最も高位なのは、この悪魔だということですね」


 ギルがぼそりと呟く。


 なるほど。それで皆めちゃくちゃ早い集合だったんだね。

 私はようやく納得した。





 改めて陛下や大祭司達に挨拶をし、用意された椅子にギルと並んで腰掛ける。

 クリュスタルムをテーブルの上にゴトリと置くと、大祭司側の椅子から奇妙な声が聞こえてきた。


〈ああ そこに居るのは我が愛しのクリュスタルム……!! 野蛮なトカゲに拐われてからお前をどれほど心配し 涙を流して過ごして来ただろう クリュスタルムよ この兄にお前の元気な姿をよく見せておくれ!!〉

〈その声は兄上じゃな!〉


 クリュスタルムがはしゃいだ声をあげる。


 水晶玉に兄とは……?


 疑問に思う私の目の前で、トルスマン大神殿側の椅子に腰かけていた、ふわふわなプラチナブロンドの髪の少年が動き出した。

 少年は抱えていた包みを広げ、その中身を恭しい手つきでテーブルの上へと置く。

 それは黄金で出来た品物だった。精巧な模様が彫り込まれた上に四つの脚がついた、水晶玉用の『台座』である。


〈麗しい妹よ 百五十年の時が経とうとも そなたの輝きは欠片も変わらぬようだ さぁ兄の胸へと帰っておいで!〉


 低く色気のある男性の声が『台座』から聞こえてくる。

 なんというシュールさだ。

 そして台座の胸とはどこにあるのだろう。


 クリュスタルムは嬉しそうに兄へと答えた。


〈兄上もお変わり無いようで安心したのじゃ! クリュスタルムはあの阿呆なトカゲに囚われている間も 決して兄上と国のことを忘れたことはありませんのじゃ 再び相まみえることが出来て恐悦至極でありますのじゃー!!〉


 クリュスタルムは〈オーレリア 妾を兄上の(かいな)へ抱かせてくれなのじゃ〉と注文してきたが、台座の腕も胸も分からんのだよ。

 取りあえず普通に、台座の上にクリュスタルムを乗せれば、二人はキャッキャと喜び合った。


〈その者達が我が妹を救い出してくれた恩人なのか クリュスタルムよ?〉

〈その通りなのですじゃ 兄上〉


 クリュスタルムは私とギルのことを台座に紹介した。


〈我が名はアウリュムだ この世界で一番素晴らしいクリュスタルムの 兄である 妹が実に世話になったな 恩人達よ〉


 アウリュムは礼を言ったあと、長々と昔話を始めた。


〈あれは百五十年前の晩秋のことだった 我とクリュスタルムが暮らす麗しの大神殿に 愚かなトカゲが飛来した……〉


 その日、クリュスタルムとアウリュムは、巫女姫達に傅かれながら中庭で日光浴をしていたらしい(秋の日差しを浴びてキラキラと輝くクリュスタルムを讃えるアウリュムの言葉が、延々続く)。

 巫女姫達が奏でる音楽や舞いを楽しみ、のんびりとした時間を過ごしていると。

 巨大なトカゲ———すなわち竜王が上空に現れたそうだ。

 慌てて大神殿の兵士達が竜王を討伐しようとしたが、兵士達は一瞬にして倒されてしまった。

 そして竜王はまんまとクリュスタルムを盗んでいったそうだ。


 ドラゴンは黄金や宝石に目が無いもんなぁ。

 きっと空を飛んでいたら地上でキラキラ光るものを見つけてしまい、そのまま盗みに行ったのだろう。

 なんとも不運な話だ。


〈クリュスタルムが拉致されて以来 トルスマン皇国の地は恵みを失っていった

 そして少なくなった恵みを貴族達が独占し 下々の者達は飢えていった

 それを憂いた先の皇帝がリドギア王国へと戦争を仕掛け 沃土を奪おうとした

 結果我が国は敗北したが リドギア王国に住まう者達には 本当に申し訳ないことをしたと思っている

 『豊穣の宝玉の台座』としてトルスマン皇国の暴走を止めることが出来なかったことを 深く陳謝する〉


 ギルも陛下達も、厳しい表情でアウリュムの話を聞いていた。


 クリュスタルムの話とトルスマン皇国の衰退の流れから、先の戦争の原因の一つに豊穣の宝玉の喪失が関わっていることは、なんとなく予想していた。


 けれど、それは本当に小さな切っ掛けに過ぎない。

 リドギア王国やその周辺国との貿易を増やすだとか、支援を求めるだとか、農業や養殖の研究に力を入れるだとか。国が助かる道は他にもあったはずだ。なにせクリュスタルムの喪失から百五十年の時があったのだから。

 そういう色んな方法を無視して最終的に戦争を選んだトルスマン皇国のかつての上層部を、私個人が許すことは無い。


 魔術師団の仲間達が死に、王国軍もたくさん殉職し、無抵抗な市民さえヴァルハラへと旅立っていった。

 その悲しみを、私が忘れられる日は来ないだろう。

 リドギア王国民の大多数も、そのような気持ちだと思う。


 けれどトルスマン皇国の前皇帝や、かつて上層部達は、すでに処刑されている。

 もうこれ以上憎しみを引きずりたくはない。

 悲しみが消えることはないけれど、オーレリアとしてギルと未来を生きると決めたのだから、私はアウリュムの謝罪を静かに受け入れたい。


「お前の言い分は分かったぜ、『豊穣の宝玉の台座』アウリュムよ。謝罪は受け入れよう」


 陛下が口を開く。


「じゃ、クリュスタルムの返還について話を進めるか。宰相、説明を」

「はい、陛下」


 陛下のお側に立っていた男性が進み出て、大祭司側と話し合いを始める。


 もうすぐクリュスタルムとお別れかぁ。

 兄との再会を喜び、水晶玉の中央を輝かせるクリュスタルムを私は眺めた。


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