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【コミック3巻6/14発売】前世魔術師団長だった私、「貴女を愛することはない」と言った夫が、かつての部下(WEB版)  作者: 三日月さんかく
第2章

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35:チルトン領の朔月花祭り3



 さて、ギルと私の弟妹達がようやく歩み寄れたところで、クリュスタルムの接待である。

 私とギルがソファーに並んで腰かけると、弟妹達もそれぞれ定位置に座り、お茶の時間が始まった。

 お茶菓子は私とギルが王都で選んだスノーボールクッキーだ。弟妹達はもちろん喜んでいたし、お母様も無表情で喜んでいる。

 まったりとした空気が流れてきたところで、私は例のブツを斜めかけバッグの中から取り出した。


 ゴトリと水晶玉をテーブルに置くと、弟妹達が不思議そうに首をかしげたり、興味津々の様子で身を乗り出してくる。


「オーレリアお姉様、この水晶玉みたいなのはなんですか?」

「真ん中がキラキラしていますね。まるで朝の光を閉じ込めたみたいできれいですわ」

「もしかしてオーレリアおねえさま、占いを始めましたの?」

「うらないってなんですか?」

「わたし、しってます。世界のおわりがいつやってくるのか、おしえてくれるんですよ」

「僕、世界がおわっちゃうの、こわいです!」

「わたしもです!」


 双子が不吉なことを言い出したので、私は勿体振らずにクリュスタルムの紹介をすることにした。


「これはね、喋る水晶玉です。クリュスタルムという名前の、豊穣……いや、作物を元気に育てる力を持っている不思議な水晶玉なんだよ。私がチルトン領に滞在中、みんなにこの水晶玉と仲良くして欲しいんだ」


 ちなみにこの間、クリュスタルムはずっと無言のまま鼻息? だけが荒い。

 ただ彼女の喜びを表すように、水晶玉の中央がかつてないほど光り輝いていた。

 どうやらうちの弟妹達、クリュスタルムの好みに入っていたらしい。


「クリュ……タ、ム……さん? ですか?」

「オーレリアお姉様、水晶玉さんのお名前が難しすぎますわ」

「わたし、舌を噛んでしまいそうです」

「クーちゃん? ですか?」

「きっとクーちゃんですっ」


〈し……仕方がない童達なのじゃっ!! 妾のことをクーちゃんと呼ぶのを 特別に許してやるのじゃ!!〉


 まさかクーちゃん呼びを許可するとは。

 豊穣の宝玉としてのプライドはどこへ行ったのだ、クリュスタルムよ。


 そう思った私の隣で、ギルがぼそりと「この悪魔、自らの欲望の為に宝玉としての威厳を溝に投げ捨てましたね」と呟く。

 どうやらギルも私と似たような感想を抱いたらしい。


 弟妹達は「本当に水晶玉から声が聞こえました!」「不思議ですわ」「すごいっすごいっ」とはしゃぎ、クリュスタルムに夢中になった。

 クリュスタルムも自分好みの純粋な生き物にチヤホヤされて嬉しいらしく、〈苦しゅうない 近うよるのじゃ〉〈妾に触れても良いのじゃぞ〉〈おお なんと清らかな手なのじゃ……!〉と、光を放ちまくっていた。


「これで当分は、クリュスタルムの機嫌も良いでしょ」

「いつまで保つかは分かりませんけどね」


 ギルは冷ややかな笑みを浮かべた。


「それよりギル、明日は領内を案内してあげるよ。磨崖仏とかすごいから」

「ああ、あの。歴史偽造問題で一時炎上しかけたやつですね」

「磨崖仏に行く前に、大通りを案内しようかなぁ。あそこも磨崖仏グルメとかグッズとか色々あって、栄え始めてるんだよね。あとギルが楽しめそうなところはどこだろう? 初めてのチルトン領観光に相応しいのは……、漁港で地引き網体験?」

「ふふっ」


 どこから案内しようか悩む私を見て、ギルが笑った。

 先程までクリュスタルムに向けていた冷ややかさは、そこには全くなかった。


「オーレリアが僕を楽しませようと一生懸命に考えてくださっているだけで、僕はとても幸せです」


 ギルは頬を赤く染めながら、私がちょうど自分の太ももの上に置いていた手を取り、そっと優しく握った。


「貴女は鈍感ですし、大雑把を通り越して豪快ですが」

「それ、褒めてるやつ? 貶してるやつ?」

「好きなところではあります」

「ふーん。ならいいよ」

「話を戻します。とにかく、オーレリアが僕のことを気にかけてくださる細やかな愛情が、僕はとても嬉しいんです。昔からずっと」


 私の今の発言に細やかな愛情というものがあったのかどうか、自分ではよくわからない。せっかくギルと一緒にチルトン領にやって来たんだから楽しみたいという、遊び欲? みたいなものだ。

 でもギルにそんなふうに喜んで貰えると嬉しいし、ちょっと照れる。

 そっかぁ、ギルは昔から私のそういうところが好きなのかぁ、と。

 なんだかフワフワする気分だ。


「細やかな愛情と言うのはよくわかんないし、昔の私(バーベナ)がギルにあげたのはどう考えても師弟愛だったけれど。今は全然違うよ」

「オーレリア?」

「私がギルに向けてるのはね、一緒に生きたいって言う夫婦愛」


 ギルがめちゃくちゃ大好きだよ~、という気持ちを込めて、隣に座るギルとの距離を詰める。ギルの右の太ももに、私の左の太ももをくっつけた。とてもあたたかい。

 するとギルも私の手を指を絡めて握り直し、「嬉しいです」と照れた表情を向けてきた。


「僕も貴女と同じ……と言うには、重く濁ってどろどろしてるかもしれませんが。オーレリアと一緒に生きたいと言う夫婦愛もちゃんと混じっています」

「えへへ、ありがとう。嬉しい」


 そうやって二人掛け用のソファーで隙間無くぴっとりとくっついて座っていると。向かい側に座っている弟妹達が「オーレリアお姉様はタフだから、あんなに重いギルお義兄様の愛情にも、圧し潰されないんですね」とか「まぁ、とっても仲良しですわ」とか「意外と相性がいいみたいです」などと、好き勝手に言い始めた。


 お母様はというと、私とギルの様子をしっかり観察したあと、何か合点が行ったというように頷く。


「オーレリアのように掴み所のない子には、何がなんでもしがみついていくようなギル殿のような方が合うのでしょう。

 良かったですね、オーレリア。オズウェル様に素敵な結婚相手を用意していただけて。オズウェル様によく感謝するのですよ」

「はい、お母様」


 その日はそうやって旅の疲れをチルトン家で癒し、夕食にはお父様も帰宅されたので九人という大所帯で食事をした。

 ちなみに私は未だにチルトン家ではアルコールを出して貰えなかった。悪酔いなどしないと訴えたのに駄目だった……。


 クリュスタルムは弟妹達にたっぷりと構ってもらい、そのまま弟妹達の誰かと一緒に眠るかと思いきや、寝る時間には私とギルの元に帰ってきた。

 夜が一番イチャイチャしたい時間帯だというのに、クリュスタルムめ。


 そんなふうにしてチルトン領一日目が過ぎていった。


短編版の『前世魔術師団長だった私~』なのですが、アニメイト様主催のコンテストで大賞を受賞させていただきました。

梶裕貴さんに朗読をしていただき、いちかわはる先生にオーレリアとギルのイラストを描いていただけることになりました。

応援してくださった方々、本当にありがとうございました!

これからもオーレリアとギルをよろしくお願いいたします。

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