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【過去編】ボブ先輩の芋煮レシピ

ただのギャグ回です。

深く考えずにお読みください。



 先日王城の庭の一部を爆破してしまい、今日は朝から庭師に混じって復旧作業をしている。

 私はシャベルと一輪車を使い、爆破で開けてしまった十メートルほどの穴にせっせと土を運ぶ。

 穴を開けるのは爆破で一瞬なのに、元通りに埋め戻すのはとても大変だ。庭師集団の皆さん、本当にごめんなさい。


 庭師集団に「へっぴり腰になってんじゃねぇ!」「どいつもこいつも庭をめちゃくちゃにしやがって!」「バーベナ、お前は今年もう三回目だぞ!?」と怒られながら、一生懸命作業を続ける。

 そのうち庭師集団から「俺達はそろそろ休憩する。バーベナも切りの良いところで休憩を入れろ」と言われ、私は「はいっ!!」と答えながらちょうど一輪車で運んでいた土を穴に投げ込んだ。

 庭師集団が木陰に移動するのを見送り、私は「ふぅ……」と溜め息を吐く。

 庭を爆破してしまった私が100%悪いのだが、やっぱり庭師集団はおっかないなぁ。


 適当な木陰で私も休憩しよう。

 そう思って庭を見回すと、ちょうど王城の渡り廊下を走っているボブ先輩の姿が見えた。


「ボブ先輩!? そんなに急いでどうしたんですか?」

「俺様のことは『漆黒の堕天使』と呼べぇぇぇ!!!!」


 茶色い髪をボサボサに振り乱し、魔術師団のローブを翻しながら走るボブ先輩は、いつもお馴染みのツッコミを入れながらも、私の方へと方向転換しようと渡り廊下から庭へ降りてきた。


「バーベナ、俺様は今、例の奴等に追われている! お前、俺様の時間稼ぎをしろ!」

「例の奴等?」


 私が首を傾げると、ボブ先輩はローブの内側から一枚の上質な羊皮紙を取り出した。

 ボブ先輩の汚い文字でびっしりと書かれたそれは、まさに機密書類と呼べるものだった。


「それは……! ボブ先輩、もしかして……!?」


 私の声は期待と喜びに震えていた。

 そわそわとボブ先輩を見上げると、先輩はニカッと白い歯を見せて笑った。


「ああ。ついに完成した、俺様秘蔵の配合の芋煮だ! 魔術師団に入団して以来、日々改良に改良を加えてついに至極へと到達した。これはもはや悪魔の芋煮と呼んでいい、バズレシピだ!」


「おっとそこまでだ!! 魔術師団上層部、『漆黒の堕天使』ボブ・カラドリアよ!!」


 私とボブ先輩が話している間に、いつの間にか渡り廊下に白い服を着た集団がいた。

 ———王城料理人集団である。


 彼らは高さのあるコック帽を被り、真っ白い厨房服の裾をはためかせ、それぞれに麺棒や鍋の蓋を武器のように持ちながらこちらを見据えていた。


「その機密書類(芋煮のレシピ)を我々に渡せ、ボブ・カラドリア。お前がその境地まで登り詰めたことは敵ながら天晴れと褒めてやろう。だがしかし、それはお前の手には余る(レシピ)だ。その(レシピ)を上手く使いこなせるのは我々、王城料理人集団だけだ!」

「やなこったね! 誰が自分の研究成果(芋煮のレシピ)を他人に渡すものか! それも魔術師団以外の奴等なんかに! この俺様が信頼しているのは魔術師団だけだ。テメーら王城料理人なんかじゃねぇ!」


 ボブ先輩が啖呵を切ると、王城料理人は愉快そうに笑った。


「そう吠えていられるのも今のうちだけだぞ、ボブ・カラドリア。我々には国王陛下より権限が与えられている。『え? 魔術師団がめちゃくちゃ上手い芋煮のレシピを作った? 俺もそれ食ってみてぇ。よし、料理長に衛兵何人か貸すわ』と。

 いでよ、衛兵集団よ!! ボブ・カラドリアから悪魔の芋煮レシピを奪うのだ!!」


 料理長の言葉に、庭のどこからともなく衛兵集団が現れた。

 濃紺の制服を身に着けた彼らの統率された動きは美しく、同時に戦闘能力の高さを感じた。


 衛兵集団は「カラドリア殿、お覚悟をっ!」と一言言うと、ボブ先輩の芋煮のレシピを奪うために俊敏に動き出す。


「くそっ、バーベナ!! 爆破でも何でもいいから、俺様が逃げる時間を稼いでくれ。俺様の闇魔術じゃ、こいつら全員の精神をぶっ壊しちまう……っ」

「任せてください、ボブ先輩!」


 私はボブ先輩に笑いかけた。


「ボブ先輩が魔術師団の皆に最高に美味しい芋煮を食べさせようと、長年頑張ってレシピを研究してきたことを知ってます。こんなふうに王城料理人集団にボブ先輩の努力を奪われるのは、後輩として我慢出来ません。だから、私……!」


 私は深く息を吸い込み、


「庭師集団の皆さん~!! 料理人集団と衛兵集団が庭をめちゃくちゃにしようとしてますよ~!!!!」


 と、大声で庭師集団に告げ口した。


「衛兵の奴等、またかっ!!!! あいつら何十回庭を破壊すれば気がすむんだ!!!! いい加減にしろっ!!!!」

「料理人共、先週庭で薫製肉を作ろうとして火事を起こしやがったくせに、また庭で好き勝手しようとしやがって!!!!」

「庭師集団を舐めんじゃねぇ!!!!」


 鍬や鎌を持った怒れる庭師集団が、こちらに即行で駆けつけてくれた。

 料理人集団と衛兵集団は逃げ惑い、「こっ、これには国王陛下のご意志が……!」と叫んだが、庭師集団は「陛下め、また悪乗りしやがって!! おっかねぇ宰相様に言いつけてやる!!」「こちとら、初恋の家庭教師に振られて庭でビィビィ泣いてた鼻垂れ小僧の頃から陛下を見守ってやってるんだ!! 陛下に馬鹿なこと唆してんじゃねぇ!!」と怒鳴りながら追い詰めていく。すごい光景だ。


「ボブ先輩、今のうちに逃げてください」

「おお。ありがとな、バーベナ! あとで芋煮を食わせてやるよ!」

「やったぁ! 楽しみにしてます!!」


 芋煮のレシピを大事そうに懐にしまい、魔術師団の建物へと逃げていくボブ先輩を見送る。


 さーて。私は休憩しよ~っと。

 土をあと何往復運べば、爆破で開けた穴が埋まるのだろうか。


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