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26:ラジヴィウ遺跡

前話のギルとバーベナの混浴描写を省きすぎたので、少し加筆しておきました。




 朝起きると目が真っ赤に腫れていた。まぁ、いいか。

 とりあえず顔を洗って髪の毛を適当に纏めて、ハートのピアスをし、動きやすいローブに着替える。

 遺跡探索中の食料や飲み物、方位磁石やタオルやナイフなどは、空間魔術式が組み込まれたバッグに詰め込んである。それなのにたいした重さを感じないので素晴らしい。値段が高い分の効果はある。


 身支度が整ったのでギルのもとへ行けば、ギルが氷魔術で冷やしたタオルを用意してくれていた。有り難い。

 目元に当てるとひんやりとして気持ちがいい。嬉しい。ギル大好き。


 宿から遺跡がある草原まで移動する。どこまでも続きそうな草原に、人や馬車の往来で踏み固められた土の道が続いている。まだ朝の早い時間帯なので観光客の姿は見えず、研究者風の人や遺跡の周辺で商いをしているっぽい人が馬や驢馬に乗って進んでいく姿が見えた。


 ラジヴィウ遺跡がある地下への入り口はすぐに分かった。まだ開いていない屋台の列が並び、遺跡の警備にあたる兵の宿舎が建設された大通りがあり、それを辿った先に地下へと繋がる穴が開いていた。

 穴は大人が三人ほど横に並んで入れるくらい大きい。


「この入り口は、発見時はとても狭く、人の手で掘り広げて今の大きさになったようです」

「へー、そうなんだ」


 私とギルは馬車から降り、御者に宿へ帰るように伝えて入り口へと向かう。

 穴を覗くと、中は急な階段になっていた。どうやらこの階段も新しいものらしい。


「バーベナ、滑り落ちないよう気を付けて進みましょう」

「はーい」


 ギルが先に進み、私も階段を下る。穴の中に入るとムワッと土の臭いがして、一気に気温が下がった。

 途中から天井にランプが現れ、辺りが照らし出される。階段はぐねぐねと曲がりながらどこまでも続き、果てがないようにも思えた。


「もうすぐ下に着くようですよ、バーベナ」


 階段から滑り落ちないよう下ばかり向いていた私は、ギルの言葉に顔を上げる。

 数段先に地面が広がっていて、洞窟のような空間が広がっている。その先にたくさんの松明が灯され、黄色っぽい石で作られた地下神殿がドドーンと存在していた。


「こいつは凄いね! いったい誰がどうやってこんな地下に石を運び込んで建てたのか、まったく分からない!」


 残りの数段をぴょんぴょんと降りて、私は遺跡を見上げた。

 神話の場面が描かれたレリーフが壁にも柱にも細かく彫り込まれ、完璧を作り出そうとした制作者の狂気すら感じる。


 遺跡の入り口には警備の兵士がおり、ギルがラジヴィウ公爵からの許可書を見せるとすぐに遺跡の中へ入れることになった。


 遺跡の中はやはり壁や床や天井も全部石造りだ。歩く度に足音がカンカンと響いて反響する。

 不思議なことに建材となった石は淡く発光していて、遺跡の中は完全な暗闇にはならなかった。よく見ると壁にも天井にも幾何学模様のような物が彫り込まれている。魔術式ではないようなので、古代文字だろうか。


「ここの辺りは資料通り、無数の部屋があるようですね」

「石で作られたベンチやテーブルなどもあるね。生活の跡だ」


 時折他の研究者グループと出くわし、情報を聞き出す。やはり地下二階より下へはまだ降りられず、困っているらしい。


 研究者に教えてもらったルートを進むと、地下三階へ続く階段を発見した。


「いいですか、バーベナ。ここは遺跡の中です。爆破魔術の安易な使用は生き埋めになる可能性があるので、気を付けてください」

「分かった。致し方無しって時に使うね」


 そうして私達は階段を降り始めた。





 前方の廊下から私達に向かって、巨大な球体が転がり落ちてくる。

 致し方無し。爆破!


 廊下の壁と天井から無数のトゲが現れ、壁や天井ごと私達に向かって迫ってくる。

 致し方無し。爆破!


 謎のゴーレムが大鎌を振り回し、後ろから追いかけてくる。

 致し方無し。爆破!


 廊下の床が突然消えて、巨大な穴へと落下していく。

 致し方無し。爆「ちょっと待ってください!! さらに地下へ穴を開けようとしないでください!! 風魔術で飛びます!!!!」


 急に廊下が傾斜し、天井から謎の液体が流れてきて、滑って前に進めない。

 致し方無し「廊下ごと爆破しようとしないでください!! 可燃性の液体だったらどうするのですか!? 氷魔術で凍結させます!!!!」


 冥府の番犬ケルベロスが現れた!

 致し方無「その爆破威力では遺跡が崩壊します!! 僕が睡眠魔術で眠らせますから!!!!」





 やはりギルは天才だなぁ。どのような魔術もそつなくこなす。私の夫、格好良い。妻として鼻高々である。

 お陰で無事に地下七階へと到達した。

 そしてこの七階、今までの階と違って廊下や部屋がなく、ダンスパーティーでも開けそうな巨大空間になっていた。


 床には正方形のタイルが敷き詰められ、四方の壁には神話の場面のレリーフがぐるりと一周している。所々に支えの巨大な柱があり、それには葉や蔦などの模様が彫り込まれていた。

 だが、それだけの空間だ。物は何も置かれておらず、地階へ続く階段もない。ブーツの踵で床を叩けば、これ以上地下に空洞があるような音はしなかった。


「ここが最後の階だとすると、竜王の宝は存在せず、伝説はただの創作だったということなのかなぁ」


 私のぼやきが広い空間に反響する。

 ギルは先程から壁のレリーフを観察していて、ゆっくりと広間を歩き回っている。

 私も彼の側に近寄って、レリーフを眺めることにした。


 ……おや?

 神話の場面が描かれたレリーフの中で一点、奇妙な箇所を見つけた。

 ヴァルハラが描かれた場面なのだが、館の形がおかしい。


 神の館ヴァルハラ。

 実物を見ることは叶わなかったが、チルトン領の教会の神父様と共に磨崖仏を製作した時にたくさんの絵画を見せてもらった。だから私、ヴァルハラの館にはちょっと詳しいのだ。

 世界樹の一本であるレーラズがあって、五四〇の扉があって、槍の壁と楯の屋根があって、なんか色々とすごいのだ。


 だが、レリーフに描かれたヴァルハラの館は、一目見ただけで紛い物であることが分かった。

 これはさっき外で見た、この地下神殿ラジヴィウ遺跡だ。


 そしてそのレリーフの地下神殿から、微かな魔術式の痕跡を見つけた。


「ギル。このレリーフに描かれた地下神殿こそが『本物』だよ」


 私が彼を呼んでレリーフを指差せば、ギルは驚いたように該当箇所を確認し始める。


「……相変わらずバーベナの解析は早いですね」

「私、昔から目が良いから。まぁ、どちらにしろ爆破魔術しか使えないんでね、解析より先はギルに任せるよ」

「では、バーベナに出来ないことは、この僕が。『本物の地下神殿』への入り口を開きます」


 ギルが両手を翳し、魔術式を構築、レリーフの中の地下神殿の扉に仕掛けられた魔術を次々に突破していく。さすがは現魔術師団長、無駄がなく素早い動作だ。


 そして最後の魔術式を解除すると、レリーフの中の地下神殿の扉がぽっかりと開いた。

 開いた穴のサイズは三十センチにも満たないように見えるが、一歩近づけばレリーフの世界に入れるのだろう。


「さて、行きましょうか、バーベナ」

「もちろんだとも、ギル!」


 私達夫婦は手を繋ぎ、同じタイミングで足を踏み出す。

 すぐに次元が歪んで、私達はレリーフの世界へと吸い込まれた。


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