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16:夫婦で朝食



「これがねぇ、私が十歳のときに仕留めた一ツ目羆」

「よくこれだけ損傷少なく羆を捕らえることが出来ましたね? 貴女は爆破魔術特化型でしょうに」

「即席の魔銃で目から脳に弾を撃ち込んで、脳内で小規模爆破させたんだよ」

「なるほど。上手い手ですね」


 食堂へ行く道すがら、私が新しくロストロイ家に飾ったものを紹介していく。ギルは眼鏡のフレームに長い指を当てながら、じっくりと観察していた。


「これは一体……?」

「弟妹達がくれた、変な形の石」

「今のバーベナにはご兄弟が居るのですね。何人兄弟なのですか?」

「妹が三人で、弟が二人。結婚式にも出席していたのに、ギルが挨拶しないから~」

「申し訳ありません……」


 廊下に飾られた私のウェディング姿の念写コーナーで、ギルが泣き崩れた。


「うわぁぁぁぁ……!! 何故っ! 何故、僕はこの場に参加していないんだ……っ!! ウェディングドレス姿のバーベナとご家族の念写……!!!! 領民と笑い合うバーベナ!!!! 結婚式当日も念写魔術師を呼ぶべきだったのに……!!!!」

「全部ギルが悪いんですよ。後悔しろ」

「あああぁぁぁ……っ!!!!」


 精神崩壊状態のギルを連れ、食堂に入ると。

 今日は食堂の外にあるテラスにテーブルが用意されていた。


「天気が良いので、せっかくですからテラスで朝食をされては、と思ったのですが……。旦那様は大丈夫なのでしょうか……?」

「ありがとう、ジョージ。テラスで食べます。ギルの体調はすっかり良くなったから、心配しないで。精神の方は残念ながら一生こんな感じかもしれないけれど」


 私は「ほら行くよ、ギル」と旦那の腕をずるずる引っ張り、精神的に死んでいるギルを椅子にエスコートした。


 朝食が次々と運ばれてくる。

 焼きたてのパンに、彩り豊かな野菜サラダ、綺麗なオレンジ色のサーモンの何か。オムレツにウインナーにベーコン、コーンスープ。デザートにカットフルーツ。

 いつもより品数が多くて嬉しいね。ギルが居るから料理人達も嬉しくてがんばっちゃった感じ?


 全種類制覇するために黙々と食べつつ、まだ精神が回復していないギルの口にミニトマトやウインナー、クロワッサンなどを突っ込む。優しい奥さんだなぁ、私。


 ギルは口に入ったものを機械的に食べていたが、そのうち食事の美味しさに気付いたのか、少しずつ精神状態が回復していき、自分から料理を選んで食べ始めた。


 デザートのフルーツを食べ始めた頃、ギルが会話を始めた。


「あの……、バーベナ」

「うん?」

「結婚式の翌日、王城でお義父様にお会いしました」

「え? お義父様……? あ、私のお父様のことか!」

「貴女の父オズウェル・チルトン侯爵閣下は、もう僕の義理の父ですから。僕がそうお呼びしても法的に問題ないんですよ。僕達、結婚しているので」

「あ、うん」


 なんかギルが無駄に力説し始めたので、めんどくさいので頷いておく。


「それで、お義父様が仰ったんです。僕達の間に二年子供が出来なければ、その、……バーベナと離縁させると」

「ああ、うん、知ってる。結婚式直前にお父様が言ってた」


 まぁ、あれはお父様の優しさから出た言葉なので、実際に二年経って子供が出来なくても私自身がギルとの結婚続行を望めば、お父様はそれを受け入れるだろう。

 期限が来たら何がなんでも離縁させるみたいな、そんな分からず屋じゃないからな、私のお父様。


「なっ……! ご存知だったのですか!?」

「ご存知もなにも、ギルが式の前に一度も挨拶に来ないから私が怒ってたら、お父様がそう言って慰めてくださったんだよ。単に、ギルのせいだよ」


 ギル、撃沈。テーブルに額を打ち付けて沈んだ。

 どうやら私のお父様が、二年経っても子供が出来なければ問答無用で離縁させると思っているらしい。

 そんなわけないだろ、人格者オズウェル・チルトンだぞ。私とギルの持つ良心を二つ合わせても、お父様の偉大な良心には敵わないのだぞ。


 けれどこれもお仕置きになるのかな、と思い、お父様の本心は口にしないでおく。

 その間にジョージが紅茶を淹れてくれたので、ありがたく頂いた。


 ジョージが沈んだままのギルの頭を見下ろしながら、「ふふ」と笑い声を洩らす。


「どうしたの、ジョージ?」

「おっと、申し訳ありません。……オーレリア奥様が最初に仰っていたことは本当だったのだな、と思いまして」

「最初に言っていたこと? どれだろう?」

「『愛する奥さんに会いたくて頑張って帰ってくるよ』と。本当にその通りでしたね」

「ああ、それか」

「こんなに人間味のある旦那様は初めて見ます」

「すごい感想だね」


 どれだけ人間やめていたんだ、ギルは。


「ギル、落ち込むより今日何して遊ぶか決めようよー?」

「そう、ですね……」


 ようやくギルが顔を上げた。冷めきった紅茶を飲んで、どうにか気持ちを切り替えている。


 庭で魔術対決とか提案してみようかな、と思ったが、ギルの方が私より早く今日の遊びを提案した。


「街にデートへ行きましょう、バーベナ」

「……え?」

「僕達は夫婦です。夫婦はデートに行ってもいいんです。何も可笑しな行動ではないんです」

「それは知ってるけど」

「どうか僕とデートに行ってください、バーベナ……! 僕に挽回のチャンスを……!」


 最後には理論然とした態度をかなぐり捨て、ギルは必死に懇願し始めた。


 ギルの結界魔術の耐久を調べる爆破対決がしたかったけれど、まぁ、新婚だしな。デートの方が大事なのかもしれない。


「分かった。いいよ。デートにしよう」


 私が答えると、ギルは小犬のようにパァッと瞳を輝かせた。


明日からは1日1回更新になります。10万文字以内に完結したい所存です。

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