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SS(川魚)

データ整理していたら見つけたSS①

時間軸、前世バーベナ戦時中です。



 夕刻の迫る山のなか、道なき道を進んで行く。

 私が羽織る魔術師団のローブは爆破で燃えカス状態、ブーツは泥にまみれ、歩くたびに靴裏に湿った落ち葉が張り付く。ときおり休憩して靴裏の枯葉をはがさないと、斜面を登るときに滑って大変だ。

 私の後ろから、数人の部下たちの話し声が聞こえてくる。


「敵の捕虜になったときに死を覚悟してはいたけど、むしろ助けに来てくれたバーベナさんのせいで死ぬかと思った……」

「バーベナさんが敵の火薬庫を爆破して陽動してくれたおかげで、捕虜になった俺たちも逃げ出せたんですけど、ふつうに視界全部が火の海で……。ギル坊が氷魔術でなんとか道を切り開いてくれなきゃ、本当にヤバかった……」

「俺、絶対今夜、火の海の夢を見るわ……」


 敵国の捕虜になってしまった魔術師団の部下数人を助けるために、私とギルが頑張って捕虜収容所に忍んで行ったわけだが。私の爆破魔術がちょっと大大大惨事を引き起こしたくらいでこんなにナーバスになるとは、収容所で余程つらい目に遭ったのかもしれない。助け出せて良かったぁ。


「まぁ、助かったんだからいいじゃん?」


 私が優しく声を掛けてやれば、部下たちは「そうなんですけど……」「確かに助かりはしたんですけど……」と頭を抱えた。どうやらずいぶん疲れているらしい。隣国トルスマン皇国め、部下たちをこんなに苦しめよって。絶対に許さん。


「そろそろ夕暮れです、バーベナ」


 私が打倒トルスマン皇国の意志を再確認していると、しんがりを務めていたギルが側までやって来てそう言った。


「今日の移動はこの辺までにして、野営の準備に移ったほうが良いと思います」

「そうだね」


 ちょうど近くの木立の向こうから、川が流れる音がする。飲み水も確保できるし、ここらで夜を明かすとしようか。


「じゃあ皆、今夜はこの辺りで野営にしまーす!」

「おお、やっと落ち着いて休めるな」

「食事だな! 捕虜の最中は本当に碌なものも貰えなかったよなぁ。しかも貰えるのも毎日じゃなかったしな」

「食べ飽きた兵糧さえありがたい!」

「だけど残念なお知らせでーす! 私が皆の分も用意していた兵糧は、火薬庫に落っことしてきましたー!」

「えええええぇぇぇぇっっっ!?」

「あの火の海の中に!?」

「バーベナさん、あんたって人は、もおぉぉぉぉ!!」


 どよめく部下を尻目に、ギルは自分のポケットを漁って自分の分の兵糧を取り出した。固いクッキーバーの形をした兵糧が一本(一人分)出てきた。


「これを全員で分けましょう、バーベナ」


 そう言った途端、ギルのお腹がぐぅーっと鳴った。

 ギルは顔を赤らめ、慌ててお腹を押さえたが、彼は育ち盛りの十三歳。しかも捕虜奪還という任務帰りである。お腹が空いて当然であった。


 部下たちも捕虜になっていたとはいえ、か細い少年のギルから兵糧を貰うことはさすがに考えず、「それはギル坊が食え」「悪いのはバーベナさんだからさ」「大きくなれよ、ギル坊」とギルの肩を叩いた。


「しゃあねぇ、町に着くまでは食事を我慢するか。いや、それはさすがに無理だよな……」

「なんか木の実でも見つかるといいんだが」

「ウサギとか野鳥とか、食えそうな動物がひょっこり現れてくれたらなぁ」


 周囲をキョロキョロ見回す、部下に私は木立の向こうを指差した。


「取り合えず川があるみたいだから、水の中を爆破して川魚捕まえて来るね!」

「さすがバーベナさん!!」

「その手があったか!!」

「爆破魔術のせいで危機に陥っても、爆破魔術で危機を救われる……!! なんてめんどくせー魔術なんだ、バーベナさん!!」


 部下たちの応援を背に、私は川へと向かった。そして川に魔術式を構築し、ドッカーン! と一発撃ちこんだ。

 爆破の威力で川の水が巻き上がり、周囲に水をまき散らしたせいで全員水浸しになったが、川魚や川エビや沢蟹が死んでぷかぷかと水面に浮かび上ってきた。大量である。





「バーベナさんのせいで、また酷い目に遭った……」

「火の海のつぎは押し寄せる川の水か……。今夜見る悪夢は決まったも同然だな……」

「バーベナさんが爆破魔術を使う時は絶対に結界を張らなきゃダメだな。いい加減、俺が死ぬ」


 部下たちは焚き木の前で身を寄せ合い、震えている。もうほとんど服も体も乾いているはずなのだが、まだ寒いのかな? もうちょっと爆破して火力を上げた方がいいだろうか?


「バーベナ」


 私の隣に腰掛けるギルが、そわそわした様子で声を掛けてくる。


「あの、そろそろ焼けてきたのではないでしょうか?」

「あ、ほんとだ。いい焼き色になってきたね」


 焚き木のまわりに枝を刺して並べていた川魚から、すっかりいい匂いがしてくる。丈夫そうな葉っぱに包んで蒸し焼きにした川エビや沢蟹も、火が通ってすっかり赤くなっていた。


「では食事にしようか、皆! めしあがれ!」

「散々酷い目に遭ったけど、川魚マジでうまい……!」

「川エビも沢蟹もイケるな。これで塩でもあれば、さらに良かったけどさ」

「温かい分、兵糧よりうまいわ」


 疲れ切っていた部下たちが温かい食事に喜び、むさぼりつく。

 ギルも川魚に齧り付いて、目を輝かせた。


「美味しいです、この川魚。バーベナは料理がお上手ですね。さすがです!」

「そう? ありがとう、ギル」

「ギル坊、これは料理ってレベルじゃねーぞ」

「バーベナさんがやったのは、川を爆破して浮かんできた魚に枝をぶっ刺して、焚き木の側に並べただけだ」

「ギル坊に言うだけ無駄だ。最年少天才国家魔術師様は、バーベナさんに関しては正気を失ってやがる」


 日に日に激しくなっていく戦争のほんの束の間。

 ギルや部下と囲んで食べた川の命は、私たちを明日へと立ち向かわせる糧となった。


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