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【コミック3巻6/14発売】前世魔術師団長だった私、「貴女を愛することはない」と言った夫が、かつての部下(WEB版)  作者: 三日月さんかく
第6章

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115:大神からの褒美

本日は2話連続更新で完結です!



 守護霊たちの登場に安堵していると、私の腕に抱えられていたギルが身じろぎした。


「……うっ……」

「大丈夫、ギル!?」


 ギルはゆっくりと瞼を開ける。

 寝ているところを狡知の神に攫われたため、ギルは裸眼だった。こんな異空間に眼鏡なしで大丈夫なのかな、と一瞬思ったが、ギルは夜着のポケットから細身の眼鏡ケースを取り出して着用した。

 寝返りを打ったらケースが壊れないんですかね? そもそも寝づらくないのか?

 と、思ったら、ポケットに空間魔術式を仕込んでいた。なるほど……。

 まぁ、眼鏡愛用者にとって緊急事態に眼鏡をどう確保するかは死活問題だろうからな、うん。


 とにかく今はギルの体調確認と、現状の説明が先だ。


「どこか痛いとか、気持ち悪いとかある?」

「多少体が怠いくらいで体調に問題はありません。僕の肉体に損傷を与える気がなかったのでしょう。狡知の神が、僕を最大限利用出来るようにと」

「え?」


 まだ現状の説明をしていないのに、ギルの口から『狡知の神』という単語が出てきて驚く。

 ギルは銀縁眼鏡の縁に指を当て、警戒した表情で周囲の様子や狡知の神を観察していた。


「申し訳ありません、オーレリア。結婚の誓いをやり直したばかりの夜だというのに、貴女のお傍を離れてしまって。狡知の神から何度も逃げ出そうとしたのですが、金縛り状態で体が動かなかったんです。それが急に解けたので、狡知の神がなんらかの理由で僕から意識を放したのだと思いますが……」


 なるほど。金縛りで体は動かせなかったけれど、意識はあったから私と狡知の神の会話を聞いていたのか。

 説明する手間が省けてラッキーだ。

 狡知の神がギルから金縛りを解いたのは、守護霊たちが現れたからだろう。警戒すべき対象が一気に増えて、ギルにだけ意識を向けていることが出来なくなったに違いない。ばーちゃんたち、本当にありがとう!


「ギルには見えないし声も聞こえないと思うけれど、今、ばーちゃんや元魔術師団たちが勢揃いしてくれてるんだよ。あの辺りに」

「なるほど。貴女の命の危機なら、地上に下りて来られるのでしたね」


 ギルは納得したように頷いた。

 近くでジェンキンズが『永遠に金縛りにあっていればいいものを、ギル・ロストロイめ……!』と歯軋りをし、『落ち着けよ、ジェンキンズ。気を付けないとまた怨霊化して強制退場だぜ? 深呼吸してみろ。ほら、ひっひっふー』『ボブ、それは深呼吸ではありませんの』とボブ先輩とおひぃ先輩に宥められているのだが、ギルはまったく別方向を向いていてシュールだ。


「では、僕も参戦しましょう。狡知の神相手といえども、僕とオーレリアの初夜の邪魔をしたことは決して許せることではありません。ましてやその理由が、世界の終わりを早めるためとあっては尚更です。神話に予言されている通り、この世界がいずれ終わることが決まっていたとしても、僕とオーレリアの子々孫々まで保っていただかなければ」


 そう言ってギルは、眼鏡ケースと同様にポケットから魔術師用の杖を取り出して、狡知の神へ向けて構えた。


 私も狡知の神に向けて、いつでも爆破魔術が放てるように両手をかざす。


「さぁ、私とギルとばーちゃんたちで、八対一ですよ、狡知の神様! 目的を諦めて天上へ帰るなら今ですからねー!」


 正直、人の身で勝てる相手に思えないのだが。ハッタリでも虚勢でも、戦意の高さを見せておかなければ。


 狡知の神を睨みつけていると、ばーちゃんたちが現れてからずっと黙していた彼が、深々と溜息を吐いた。


「はぁぁ……。やってられないな。すべてがオーディンの手の内ってことか」


 狡知の神は私たちには目もくれず、上空に顔を向けて話し出した。


「オーディンめ、俺がギル・ロストロイに目を付けることを最初から予見していたな? だからこの女の魂を転生させておいたのか。なぁんて涙ぐましい準備だ。反吐が出る!

 ヴァルハラの兵士どもがやって来れば、俺が面倒がって手を引くと考えたんだろう? あぁ、その通りさ、オーディン。これ以上お前の手の上で踊ってられるか、馬鹿馬鹿しい。お前がここへ降りる前に退散するさ!」


 天へ向けて悪態を吐いた彼はどこからか『空飛ぶ靴』を取り出すと、それを履いて、私たちの前から一瞬で去ってしまった。

 あまりの逃げ足の速さに、私もギルも呆然とするが、ばーちゃんたちは『相変わらず自由で傲慢な御方ですわね』『トリックスターと呼ばれるのも納得ですの』などと言っている。


「まぁ、とにかく狡知の神とは戦わずに済んだってことだよね? 良かった~……」

「おっと、大丈夫ですか、オーレリア?」

「うん。ありがとう、ギル」


 安心して座り込みそうになった私を、ギルが横から支える。ありがたく寄りかからせてもらった。


「取りあえず危険は去りましたし、僕たちも移動しましょう。屋敷に戻らなければ」

「あ、ちょっと待って、ギル」


 ばーちゃんたちに地上へ来てくれたことのお礼も言いたいし。

 枯れてしまった黄金の林檎の木も気になる。

 足に力が戻ってきたのでギルにお礼を言い、自分の足で木の近くまで行く。


「黄金の林檎の木は、狡知の神が『人間にこんな貴重なものを分け与えるなんて気に入らない』と言って、枯らしてしまったんですよね。僕は狡知の神を止めることが出来ず……」

「仕方がないよ。金縛り中じゃあ。これってさぁ、クリュスタルムの分身でどうにかなんないかな?」

「あぁ。本体の災厄(クリュスタルム)は、チルトン領の朔月花の育成に効果がありましたよね。可能かもしれません」


 えーっと。確か、チルトン領の時は……。

 私とギルは結婚指輪を枯れた木のほうに向けて掲げた。

 そして「黄金の林檎の木を元気にしてください!」と分身にお願いする。

 すると豊穣の宝玉が光り出し、あっという間に木を回復させた。


 目の前には、緑の葉っぱがわざわざと茂り、その合間にたくさんの黄金の林檎を実らせる立派な大樹が現れた。

 守護霊たちが『おぉ! ヴァルハラの黄金の林檎と同じじゃねぇか!』『オーレリアたちはなかなか便利な魔道具を手に入れたみたいじゃのう』とはしゃいでいる。


「わぁ~、オリジナルってこんな感じなんだ。領地の林檎は皮が金色っていうだけだけれど、これはもう内側から発光していて『光の林檎』って感じ。おいしそう……」

「駄目ですよ、オーレリア。食べたら不老不死になってしまうでしょうから」


「その通り。その実を食べれば人の身を逸脱してしまうから、気を付けなさい」


 聞き覚えのない声が後ろから聞こえて、私とギルはびっくりして振り返った。


 背後に立っていたのは、灰色の髪と髭を生やしたおじいさんだった。片目に眼帯を当てている。


『まぁ、大神様! うちの孫のために、地上までいらっしてくださったのですね!』

『いや、オーレリアのためというより狡知の神が本当に立ち去ったかの確認じゃない?』

『大神様はオーレリアに褒美を授けると以前おっしゃっていたぞ!! 冬頃に私とオルステッドで華麗に伝言したんだ!!』


 守護霊たちがあれこれ言い始めたが、どうやらこのおじいさんが神々の王である大神様らしい。

 私は慌ててギルに「大神様だって! 挨拶しないと!」と伝える。

 私の守護霊はまったく見えないギルだが、狡知の神や大神様のことはきちんと見えるようだ。フェンリルとも戦えたしな。


「大神様、お会い出来て光栄です! オーレリア・バーベナ・ロストロイです!」

「夫のギル・ロストロイです」

「私はこの世界を創造し、人間を造った大神オーディンである。『魔術の神』や『予言の神』とも呼ばれている」


 大神様はフッと微笑んだ。


「無事にロキを追い払えたようで何よりだ。まぁ、この結末を辿れるように、私自ら手を回したのだが」


 手を回した、というのは、きっと私の魂を転生させたことなんだろう。

 ギルが狡知の神に悪用されないように……。


「ああ、その通りだ」


 大神様が私の思考を読み取ったように答える。


「本来ならギル・ロストロイは狡知の神に誑かされて、世界の終わり(ラグナロク)を早めてしまう存在だった。それだけの強い魔力と卓抜した魔術のセンスを身に着けた男だからな。

 そんなことになっては私が困るので、ギル・ロストロイの運命を変えることにした。そこにいる者たちが君の魂の救済を求めることは予見していたから、私は君の魂を利用することにした。

 死んだ者の魂はヴァルハラか『死者の国』へ行くことに決まっていたが、私はルールを捻じ曲げ、『転生』という前例のない方法で君の魂を地上に送り返すことにした。

 そうすれば、いずれギル・ロストロイの運命が変わり、狡知の神のたくらみが失敗することになると分かっていたからだ」


 大神様の口から直接、私の転生の理由を聞かされて、納得とともに安堵する。

 大神様に利用された形だとしても、あのまま『死者の国』へ行かずに済んで良かった。ギルの運命も変えられたし、世界の終わりが早まらなくて本当に良かった。

 私、オーレリア・バーベナに生まれ変われて、本当に良かった……。


「なるほど。オーレリアは僕のために生まれ変わってくださったんですね」


 ギルが横でぽつりと言う。

 視線を向けると、本当に嬉しそうな表情でこちらを見つめていた。


「僕を助けるために生まれ変わってくれてありがとうございます、オーレリア。そして僕にオーレリアを与えてくださってありがとうございます、大神様」

「私も生まれ変われて、ギルの運命を変えることが出来て本当に良かったよ。大神様、私からもありがとうございます」


 夫婦そろって大神様にお礼を言うと、大神様は立派な髭を撫でながら「うむうむ」と微笑んだ。


「さて、以前伝言した件を済ませようか、オーレリア・バーベナ・ロストロイ。フェンリルの封印に関する褒美をやろう。あいつは私を喰い殺すことが決まっているからな。封印を厳重にしてくれて、本当にありがたかった。まぁ、これも予見していたことではあったのだが」

「……オーレリア。以前に伝言ってなんですか?」

「あー……。うん……。グラン元団長とおじいちゃん先輩が大神様からの伝言に来てくれたことがあって……」


 ギルには意図的に隠していたことだったので、歯切れの悪い返事をしてしまう。

 手短に説明すると、ギルは思った通りに「『死者の国』との繋がりを完全に断ち切っていただくべきです!」と言い出した。


「大神様、僕の妻と『死者の国』との繋がりを完全に断ち切ってください! お願いいたします!」

「ちょ、ちょっと、ギル……っ!」

「やはりそうか。私もそれがいいだろうと考えていた。『転生』などと前例のない行いをしたから、どうにも無理が生じしてしまい、彼女の身にいろいろと不具合があってな。よし、今度こそ完全なる『転生』にしてみせよう」

「待ってください、大神様!!! 私は、ギルたちが開発している『大型結界魔道具』の動力源になるような素材がほしくてですね……!!?」


 ばーちゃんたちも頭上でやいのやいの言っているが、私は自分の希望を押し通そうと大声をあげる。

 すると大神様は不思議そうに首を傾げた。


「動力源になる素材? それならば、そこにある黄金の林檎でも一つもいでいけばいいだろう。あれは神々の『不老不死の源』だ。人間が作り出す魔道具なんぞ、あれ一つで永遠に稼働させることが出来るだろう」

「えええ!!? もらっちゃってもいいんですか!!?」

「元々この土地の人間にやったものだ。しかも狡知の神のせいで枯れてしまったのを、自分たちで回復させたのだろう? 食すのはおすすめしないが、魔道具の材料にするくらい好きにするがいい」

「あ、ありがとうございます、大神様!!!」


 わーい!! これでギルとペイジさんの魔道具制作に光明が差したぞ!!


 大喜びする私の隣で、ギルが「そんなことを気にしていらしたのですか?」と驚いていたが、だって、リドギア王国がもう二度と戦争に巻き込まれずに済む結界だぞ? 私の不完全な転生よりも重いって。

 私がそう言うと、「僕の妻はなんて優しくて素晴らしいんだ!!!」と抱き締められた。

 私の性格の良さに感動してないで、黄金の林檎をもいじゃおうぜ、ギル。


「では、私からの褒美は『死者の国』との繋がりを完全に断ち切ることで良いな?」

「はい!! 大神様、よろしくお願いしまーす!!!」


 こうして私はついに『死者の国』との繋がりを断ち切り、死に呼ばれやすい不具合が修正されたのだった。


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