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【コミック3巻6/14発売】前世魔術師団長だった私、「貴女を愛することはない」と言った夫が、かつての部下(WEB版)  作者: 三日月さんかく
第6章

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110:謎の女性リィーエ③



 バーベナにそっくりな顔(ギル曰く『バーベナ像似』だそうだが)で、爆破魔術まで扱えるなんて……。


 リィーエさんには申し訳ないのだが、あまりの気味悪さに私はうまく挨拶をすることが出来なかった。ただただ、彼女が怖い。


 代わりにギルが、蒼褪めた顔をする私をリィーエさんから隠すように前に出て、彼女に「スリの一派を捕まえていただき、ありがとうございました」とお礼を言ってくれた。


「領主様にお礼を言われることのほどじゃないですよ。私、昔から爆破魔術が得意っていうか、魔術はそれしか出来ない感じで。困っている人がいたから、ちょっとドッカーンってしただけなんで! あはは!」


 リィーエさんは明るく笑い、「じゃあ、私はこれで! 領地視察頑張ってくださーい!」と、そのまま爽やかに去っていった。


「……大丈夫ですか、オーレリア? 顔が真っ青で、体が震えていますよ」

「だ、だいじょうぶ……」


 大丈夫。バーベナは私だ。私の前世だ。

 フェンリルの魔力で記憶を失っても、取り戻した記憶はちゃんとバーベナのものだったから、思い込みとか間違いではない。


 でも、だからこそリィーエさんが怖かった。

 まるで彼女はバーベナの模造品みたいだ。姿や話し方、笑い方、爆破魔術まで、バーベナを元にして作られたみたい。


「もしかしてギルが暗黒祭壇に祈りを捧げ過ぎて、祈りに答えた邪神がバーベナのそっくりさんを生成しちゃったとか……?」

「そんなわけがないでしょう」


 ギルは心配そうに私の背中をさすっていたが、さすがにそれはキッパリと否定した。

 怪談過ぎるもんね。


「それに、先ほどリィーエさんが展開していた爆破魔術ですが、魔術式がオーレリアが使用するものと異なっていました」

「魔術式が?」

「古代文字よりももっと古いもののよう見えました。教会が使う神聖文字のような……」


 魔術には基本的に古代文字が扱われる。現代の文字より魔力の馴染みがいいという研究結果が出ているのだ。

 神聖文字は人類史初期に使われていたとされる原文字で、絵文字のような形の文字から、古代文字が生まれたとされている。

 教会の中でも上位の神職者にしか、神聖文字を読み解くことが出来ないらしい。昔、チルトン領の神官様がそのような話をしてくださった。


「神聖文字だとしたら、リィーエさんは教会の偉い人なのかな? でも、商人の娘だって、昨日挨拶されたし……」

「その辺りはフレッドの報告を待ちましょう」


 フレッドはと言うと、スリの一派の件でちょうど騎士たちに指示を出しているところだった。


 昨日フレッドに頼んだばかりの上に、代官の仕事と並行してだから、リィーエさんの情報が入るのはもうちょっと先かもしれない。

 早くリィーエさんのことが分かるといいな……。





 その後、数日かけて領地視察を行った。

 新しい道を作る予定の場所を見たり、領主館直営のお土産物屋さんに寄ったり、別荘地のほうも足を伸ばして、揉め事を解決したりもした。


 大型結界魔道具の設置場所も探したら、魔力が安定している広い場所も幾つか見つかったので、これは本当にロストロイ領をペイジさんに推薦してもいいかもしれない。


 その合間合間に、何度もリィーエさんと鉢合わせてしまった。

 こちらも視察の関係で領地中を出歩いているし、リィーエさんは商会の関係であちこちに顔を出しているようだ。

 バッタリ会ってしまうのは仕方がないのかもしれないが、毎回彼女のバーベナっぷりに怯えてしまう……。


 けれど、そろそろ領地視察も終了だ。

 あとは教会視察をして、ギルと二人で結婚の誓いをすれば、王都へ帰れる。

 フレッドはまだリィーエさんの情報を調べている途中だけれど、怖くてたまらないので、もう関わらずにロストロイ領を去ってしまいたい。気掛かりではあるので、調査結果を王都のタウンハウスへ送ってくれればそれでいいよ、もう。


「いよいよ明日が教会だね~」

「ええ、そうですね、オーレリア!!! 結婚指輪の準備も万端です!!! 時間がある時はひたすら磨いておりました!!!」

「ありがとう、ギル」


 私がリィーエさんの件で調子を崩しているからか、それとも通常運営なのかは分からないが、ギルが明るく言う。

 結婚式でギルに再会した時、彼はひどく冷たい目をしていた。

 それが今ではこんなにも朗らかで愛情に満ちた様子を見せてくれる。

 私が今生でギルと結婚したことは間違いではなかったのだと思えた。


 暫くギルと教会観光の話で盛り上がっていると、フレッドが「失礼いたします」と入室してきた。


「奥様、ご報告があります。商人の娘リィーエに関する情報が手に入りました」

「……あ、ありがとう、フレッド」


 王都に帰る前に、リィーエさんの情報が届いてしまった。

 私は緊張で湿る手のひらをぎゅっと握り、覚悟を決めてフレッドの報告を聞く。


「どうやら彼女は商人のじつの娘ではなく、一年ほど前に養女として迎え入れられたようです。なんでも、商人が旅の途中で『グレートバンテッド』という山賊に襲われ、商品も金銭もすべて奪われて途方に暮れていたところ、通りがかった彼女が助けてくれたそうで」

「なんだか聞いたことのある気がする山賊だな……」

「僕とオーレリアが旧クァントレル領に行く途中で捕まえた者たちですよ」

「あっ! そっか! グレてるバンデットたちは、私たちが捕まえる前にそんな悪さをしていたのか! ……でも、それでどうしてリィーエさんが商人の養女に?」

「彼女は戦争孤児で、親切な夫婦に引き取られて育てられたそうなのですが、その夫婦もちょうど流行り病で亡くなったばかりで、今後の身の振り方に悩んでいたようです。そこで商人がリィーエを養女に迎え入れたそうです」

「なるほど。なかなか波乱万丈だね……」

「……しかし、孤児で育ての親も死別では、ますます彼女のバッググラウンドが分かりませんね」


 一体どうしてリィーエさんはあんなにバーベナに似ているのか。

 孤児では両親の顔も分からないし、育ての親もすでにこの世を去っているとなると、彼女の性格形成の環境的要因も調べることが難しい。


「リィーエさんの故郷の人に聞き込みをすれば、もう少し分かるかなぁ?」

「それが、奥様。商人の話によると、リィーエと育ての親が暮らしていた家は山奥にあり、あまり他人との交流がなかったようで。だからこそ身の振り方に困っていたのでしょう」

「それじゃあ、これ以上リィーエさんについて調べようがないね」

「申し訳ございません、奥様」

「ううん。ここまで調べてくれてありがとう、フレッド。助かったよ」

「恐縮でございます」


 なんとも消化不良な結果に、私とギルは揃って諦めの溜息を吐いた。


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