コミック1巻発売記念SS(バーベナの花言葉)
本日6/15、つのもり鬼先生が作画を担当してくださっている前世魔術コミック1巻が発売です!
何卒よろしくお願いいたします!
SSの時間軸は結婚して半月後なので、まだギルがバーベナ呼びです。
「バーベナ、今日は僕たちが結婚して半月記念日なので、仕事帰りに花を買ってきました。貴女が気に入ってくださるといいのですが」
「わーい! ありがとう、ギル! でも、昨日も『結婚して二週間記念日』って言って、人気パティスリーのケーキを買ってきてくれたよね??」
結婚二週間記念日が十四日目で、半月記念日が十五日目とか、だいぶ刻んでくるなぁ……と思いつつ、ギルから大きな花束を有難く受け取る。
ギルは連日の記念日になんの疑問も湧かないようで、「あのパティスリーのケーキはなかなか美味しかったですね。バーベナも気に入ってくださったので、今度は違う種類のケーキも買って来ましょう」と穏やかに微笑んだ。
色んな種類の花で作られた花束は、本当に大きい。私は結構力持ちなので、重さだけなら片手でも持てるけれど、花を痛めないように持とうとするとやはり両腕で抱えなければならない。
抱き締めるように持った花束からは、植物特有の甘い芳香と緑の香りがして、瑞々しかった。
「あ、花束にバーベナが入ってる!」
花束の中に、小さな花が密集して咲くバーベナが何種類も入っていた。
バーベナは元々種類の多い花なのだが、私も今まで見たことがなかった色まで混じっている。
「バーベナは貴女の名前と同じ花ですから、店員に頼んで入れてもらいました」
「ギル、ありがとう! 私、バーベナの花が大好きなんだ」
「ええ。知っています。確か、おばあ様がお好きだった花の名前を、前世の貴女に授けられたのでしたよね?」
「そうそう! 随分昔に話したことなのに、よく覚えているね、ギル」
「貴女と過ごした時間は僕にとっては全てが大切で、かけがえがなくて、忘れることなんてありませんから」
「私にとっても、ギルと過ごした時間はとても大切だったよ。多少忘れた部分はあっても、言われれば思い出すと思うし」
かつてのギルは可愛い部下だったし、今は可愛い夫である。
そう思って答えれば、ギルは感激した様子で「バーベナ……!!!」と横から私にしがみついてきた。
ギルの頭をよしよしと撫でてやりたいが、両腕が塞がっていて身動きが取れない。されるがままである。
「ギル~、せっかくのお花が潰れちゃうよー。ホーム」
「申し訳ありません。というか、花束を渡したのは僕なんですけれど、持ちましょうか?」
「いや、別にいいよ。重くないし。それにしても色んな種類のバーベナを選んでくれたんだね? 見たことがない種類まである……」
「ああ、それはですね、店員が『バーベナは花の色によって花言葉の意味が異なる』と言っていたので、貴女に贈るのに相応しい花言葉を選んでいたら、いつのまにかこんなことになってしまいまして」
「花言葉? バーベナが古来から『魔女の薬草』って呼ばれているのは知っているけれど……」
古代語で『良き植物』の意味を持つバーベナは、神話の中にも登場し、神々に関係する神聖な花として知られている。
それゆえ古来から教会の儀式にも使われているし、魔術に使われることもある花だ。バーベナで作った薬液が悪霊除けになるとか、予言魔術の効果を高めるとか、家に飾れば守護をもたらすなんて話も聞いたことがある。
そういったことから、バーベナが『魔女の薬草』と呼ばれていたのは知っていたけれど。花言葉まであったのかぁ。
「バーベナという花自体の花言葉は『魔力、魅了』で、貴女そのもののような花なのですが、花弁の色でさらに花言葉が変化するんですよ。赤いバーベナは『一致団結』、ピンクは『家族の和合』、紫色は『後悔』といったふうに」
「へぇ~、面白いね。でも『後悔』はさすがにプレゼントには向かない花言葉じゃない?」
「これは、貴女の前世での心残りも傷も含めて全てを愛しています、という意味です」
銀縁眼鏡の奥の黒い瞳を細めてこちらを愛おしげに見つめてくるギルに、私は一瞬雰囲気に飲まれそうになった。あんなに細くて小さかったギルは、こんなに男の人に成長してしまったのか。
ギルの成長がなんだかこそばゆく、同時にとても嬉しい。胸の奥が温かくなる。
「改めて、半月記念日の花束をありがとう、ギル! 屋敷のあちこちに飾るね! とりあえず夫婦の寝室と、食堂と、玄関ホールの一ツ目羆にも飾ってあげたいし……」
「あ、でしたら、僕の執務室にも少し花をいただけますか? バーベナの肖像画の傍に供えたいので」
「いいよー。あとで暗黒祭壇にも飾っておいてあげる」
「暗黒祭壇と呼ばないでください」
この先も現世でギルと楽しく記念日を積み重ねていけたらいいなと、私は思った。