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100:小型ゴーレムを捕獲



 小型ゴーレムは扉の前に構えている私とギルを見ると、すぐに逃走を試みた。相変わらず素早い動きである。

 足の速さもさることながら、高く飛び跳ねることも出来るので、壁も天井もゴーレムの逃走経路になってしまうのがなかなか厄介だ。


「ギル、小型ゴーレムにさっそく逃げられちゃうよ!?」


 このままだと、防衛訓練をしている皆を応援に呼ぶために伝達用ゴーレムを起動させる暇もないぞ。


「問題ありません。罠を用意していると、先ほど貴女にお伝えしたでしょう」


 ギルは冷静に答えた。


 小型ゴーレムの後を追いかけて行くと、廊下の奥に一冊の本がぽつんと置いてあった。

 一体なぜあんなところに本があるのだろう? というか何の本だ?


 私が疑問に思っていると、小型ゴーレムの様子がおかしくなった。

 ゴーレムはその本の存在に気付いた途端、脇目も振らず一目散に本へ走り寄っていく。

 急にどうしたのだろうか?


 首を傾げる私を見て、ギルが答えを教えてくれた。


「あれはバーベナの実家に保管されていた魔術書です。あの小型ゴーレムは、施設内にある持ち主のいない魔術書や研究資料を集めるように設計されているようなので、バーベナの本を囮に使わせていただきました」

「なるほど! 設計された設定を逆手に取る作戦か!」


 小型ゴーレムが本に触れた途端、床に仕込まれていた魔術式が発動する。

 青白い光と共に生み出されたのは水魔術で出来た檻だ。空中に浮かぶ水の球体の中に、ゴーレムを閉じ込めることが出来た。

 ゴーレムはぷかぷかと水の中を漂いながら、自分に内蔵されている魔術を使って脱出を試みようとする。だが前回の炎魔術は水の中では使えず、その他の属性の魔術も小規模なもので、水の檻を壊すことは出来なかった。


「小型ゴーレムの捕獲完了です」

「おぉ~! すごいね、ギル! ゴーレムにも建物にも損傷無しで、安全に捕まえられたね」

「油断をしなければこんなものですよ」


 ギルは何でもないふうに言いながらも得意げな様子なので、頭をわしゃわしゃと撫でてあげることにした。うちの夫はこういうところも可愛いな。


 その後、ギルは水の檻の中に威力弱めの雷魔術を流し込んだ。

 ゴーレムが感電し、胸元にある赤い核の動きが強制停止する。これで水の檻から出しても大丈夫だろう。


 私はようやく伝達用ゴーレムを作動し、ミランダ先輩たちを呼び出すことにした。





 おじいちゃん先輩の弟子であるミランダ先輩の知恵と、現魔術師団で一番魔道具の分野を研究しているペイジさんの力を結集し、小型ゴーレムの記憶装置の書き換え作業が始まった。

 場所はペイジさんの研究室なので、道具や材料も豊富である。


 私は本格的な魔道具作りやゴーレム作りにはあまり詳しくない。爆破魔術を一時付与することなら出来る程度だ。

 戦時中、爆破魔術を一時付与した武器を作ったことがある。敵軍に投げつけると小規模爆破を引き起こしてくれるので、下っ端の兵士でもそこそこ戦果を上げることが出来るという代物である。

 だが、私が前線に出て爆破魔術をぶっ放した方が戦果が特大なので、「それなら最初からバーベナを投入しろ」という感じで多くは作らなかった。

 そういうわけで魔道具作りというものには縁が無い。


 ミランダ先輩とペイジさんが小型ゴーレムを分解しながら「流石はおじいちゃん師匠の作品だわ。この魔力動線の配置が芸術的よ」とか「まぁ……!! なんて綺麗な研磨加工なのかしら!! これで耐食性や反射性を向上させて、摩擦係数を低下させているのねぇ~」とか楽しそうに言い合っている。

 それを見守っている私はチンプンカンプンである。


 他にこの場にいるのはギルとメルさんなのだが、二人はミランダ先輩たちの言葉の意味をきちんと理解しているようだ。

 ギルは銀縁眼鏡の奥の黒い瞳をキラキラと輝かせながらゴーレムの内部を覗き込み、メルさんは助手として的確にアシストしている。

 ミランダ先輩が連れて来た使用人やブラッドリー君たちは屋外訓練場で芋煮制作を始めているので、私もそちらへ手伝いに行った方がまだ役に立っただろう。でも里芋の皮むきより、小型ゴーレムの方が気になるしな。


 観察していると、ミランダ先輩とペイジさんの様子が変わってきた。

 彼女たちは何度も首を傾げ、「えぇ……、おじいちゃん師匠ったら……」やら「嘘ぉ? 通常のゴーレムとは全然違うわねぇ、困ったわ」などと困惑の声を上げ始めた。


「どうしたんですか、ミランダ先輩? ペイジさん?」


 私が尋ねると、二人は分かりやすく説明してくれた。


「今回は、記憶装置に設定された継承者の名前を、グラン前団長からギル坊に書き換えたいって話だったでしょ。けれど、記憶装置が通常のものとは全然違うのよ……」

「アタシ、こんな複雑な記憶装置を見るのは初めてよぉ。記憶装置というより、自己学習機能? それとも人工知能とでも呼べばいいのかしら? 流石は元上層部のオルステッド様ねぇ。よくぞこんな装置を考え付いた上に、実際に作り上げてしまったものよ。困ったわ~」

「ちょっとでも失敗すると、元通りに修復するのは困難ね。これはじっくり時間をかけて調べないといけないわ」


 つまり今日中にギルを資料室の継承者にするのは難しい、ということなのだろう。

 おじいちゃん先輩の記憶装置をじっくり調べ尽くして、それから書き換えを行わなければいけないということなのだ。


「じゃあ、今日中にギルが継承者になるのは難しいということなんですね」


 私がそう言った途端、強制停止されたはずのゴーレムの胸元にある核が赤く点灯した。

 記憶装置を解析するために腹部のパーツが取り外されて、内部が剥き出しなのだが、その状態のままで小型ゴーレムが上体を起こした。

 小型ゴーレムは自分の腹部に視線を落とすと、飛び出した魔力配線などをちゃちゃっと戻して、取り外されていた腹部のパーツも自力ではめてしまった。なんというセルフメンテナンス……!

 これがペイジさんの言う、小型ゴーレムの自己学習機能だろうか?


 小型ゴーレムは作業台の上であぐらをかくと、どこからか音声を発した。


〈さて。この私が言葉を発さなければならないということは、資料室の管理ゴーレムに何か問題が起きたということだな? 諸君、この管理ゴーレムに何用だろうか?〉


 とても懐かしい、グラン前団長の声だった。


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