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99:再挑戦



 魔術師団の建物を再び起動させてシャッフルする当日がやって来た。


 この日のために、他の団員たちは前倒しで急ぎの仕事を終わらせている。

 シャッフルの最中は研究室の場所が色んな階の色んな場所に移動するので多少揺れるが、研究室の中は安全だ。普段通り仕事をしていても問題はない。他の団員たちは通常業務のままでも構わないのだが、「こんな楽しい時に、書類仕事をしたい奴なんていないっス!(ブラッドリー君・談)」とのこと。その気持ちは私もよーく分かる。

 ギルは「いつもこのペースで仕事をしてくれれば……」と遠い目をしていた。

 まぁ、ついでに団員たちの防衛訓練が出来るから、ラッキーなのでは?


 ミランダ先輩もやって来てくださった。……何故か、大鍋やたくさんの木箱を持った使用人たちを引き連れて。

 魔道具作り用の大鍋や、その材料だろうか? 小型ゴーレムに使うのだろうか?


「おはようございます、ミランダ先輩! 後ろの使用人たちが持っている大荷物は何ですか? ゴーレムを鍋で煮るんですか?」

「おはよう、オーレリア。勿論ゴーレムを鍋で煮るわけないじゃない」


 私はゴーレムについてあまり詳しくないので、ギルを資料室の継承者としてゴーレムに認めて貰うために、なんか、こう……ゴーレムを色んな具材と一緒に煮込めば、記憶装置の書き換えが出来るのかと思ったのだが。そんなことは全くなかった。


「ほら、貴女からボブの芋煮のレシピを貰ったでしょう? せっかくたくさんの人数がいることだし、全部終わったら芋煮会をしようと思ってね。こっちの木箱の中身は、里芋や茸よ。良い牛肉も買ってきたから、ギル坊に氷魔術で冷やしておいて貰いましょうね。あと、エールなんかも大量に買ってきたわ」

「わーい! さすがはミランダ先輩! 芋煮会楽しみです~!」


 なんとまぁ、宴会の用意をしてくれたのか!

 私たちの代は本当に飲み会が大好きで、ミランダ先輩もその機会を逃さない人間である。


 私は急いで、ペイジさんや他の団員たちに芋煮会の参加を確認してみることにした。

 ギルはどうせ、私が参加するなら必ず同伴してくれるし。


「え!? 芋煮って、王族や特別な来賓しか食べることが出来ないっていう、王家の秘伝料理のことよね!? うそぉ~!? すごいわ~!! アタシも前から食べてみたかったのよね~!!」

「メルも芋煮のレシピを覚えたいです。いつでもペイジ様の食卓にお出し出来るように!」

「良いっスねぇ、王家秘伝料理に冷えたエール。ぜひ俺も参加したいっス!」


 仕事仲間との飲み会は仕事の延長で気疲れするというタイプは、この場にはいないようだ。良かったぁ。

 それにしても、ボブ先輩の芋煮が今では王家の秘伝料理扱いか……。

 時代の流れとは、物事を思いもよらぬ方向にねじ曲げていくものだなぁ。


 というわけで、芋煮会というご褒美も用意され、私たちは気合十分で事に取り掛かることにした。





「では、僕とオーレリアは『継承者の資料室』の扉が出現するまで廊下で待機しています。扉が出現するまでは時間がかかると思うので、その間皆さんはミランダ先輩の助言に従い、防衛訓練に励んでいてください」


 ギルは銀縁眼鏡の縁に手を当てながら、団員たちにそう指示を出した。

 彼の考えはこうだ。小型ゴーレムが現れるまで時間がどれだけかかるか分からないのに、全員廊下で待機するのは効率が悪い。せっかく建物を起動させているのだから、防衛訓練を経験するべきだろう、と。

 さらに今ここには、防衛訓練の経験者であるミランダ先輩もいる。彼女のアドバイスも受けられるという最高の状況だった。


「ではペイジさん、監督をお願いします。あまり楽しみ過ぎないように」

「うぅ~、気を付けるわぁ」


 ペイジさんとメルさんは前回、起動スイッチの修理に掛かりきりだったので、建物がシャッフルされるところをきちんと体験出来なかった。今回はちゃんとシャッフル中の建物内を歩き回れるので、二人ともすでに浮かれている雰囲気があった。


「じゃあ皆~、アタシの所に来てちょうだい。防衛訓練の説明をするわぁん」


 ペイジさんが他の団員たちにそれぞれの配置場所を指示していた。

 ミランダ先輩は魔術師団に攻城してきた敵役をやるとのことで、玄関からのスタートらしい。


 どんな防衛訓練になるのか見たかったが、私とギルは廊下でお留守番だ。


「『継承者の資料室』の扉が現れたら、おじいちゃん先輩が昔作った連絡用ゴーレムを使って、皆に集合を掛けますからねー!」

「分かったわぁ、オーレリアちゃん。それまではアタシたち、この巨大な魔道具(建物)で遊んでいるわ~」

「呼ばれたらすぐに駆けつけるから安心しなさい、オーレリア」


 ペイジさんやミランダ先輩は手を振りながら去って行った。


 私とギルはいつ『継承者の資料室』の扉が出現してもいいように、前回の場所で待機する。


「資料室の小型ゴーレムが現れたら捕獲して、ミランダ先輩とペイジさんにゴーレムの記憶装置を書き換えてもらって、ギルが資料室の継承者になる。こういう計画だったよね?」

「はい。今回は捕縛用に罠を用意しました。あのゴーレムの動きは素早いですし、建物に大きな被害を出したくありませんからね」

「ゴーレムを爆破して半壊させるのも駄目だしねぇ~。上手くいくといいなぁ」


 ギルとそんな話をしていると。

 思ったより早い段階の揺れで、『継承者の資料室』の両開きの重厚な扉が目の前に現れた。

 そして封印から目覚めたように内側から扉が開き、隙間から小型ゴーレムが現れる。


 ついにゴーレムとの再戦の時が訪れた。


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