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書籍2巻発売記念SS(万能クリュスタルム)

今日明日あたりに2巻発売です!

何卒よろしくお願いいたします!!



 トルスマン皇国大神殿の神官であるクラウス君と、今日も今日とて王城の庭で防衛訓練(箒の素振り)に熱中していると。そろそろ休憩時間になった。


「はうぅぅ……、ただの水がとっても美味しいよぉ……!」

「クラウス君、塩分も取った方がいいよ。ほら、ソルトクッキーがあるから」

「はわわわわっ、ありがとうございますっ、オーレリアさん!」


 クラウス君は喉をゴクゴクと鳴らして水を飲むと、ようやく人心地がついたというように溜息を吐いた。

 ソルトクッキーをゆっくりと齧り始めたクラウス君は、テーブルの上で楽し気にお喋りをしている水晶玉と台座の兄妹を微笑まし気に見つめていたが、ふと私の方に顔を向けた。


「そういえばオーレリアさん、クリュスタルム様はロストロイ魔術伯爵家でどんなふうに過ごされているんでしょう? 俺、大神殿に帰った後は、アウリュム様だけでなくクリュスタルム様のお世話も担当するので、どのようにすれば『豊穣の宝玉』様が心地良く暮らせるのか、参考にしたくって……」


 なるほど。クラウス君はとても勤勉な神官だな。


 だが、クリュスタルムがロストロイ家の屋敷でどんなふうに過ごしていたかと尋ねられても、彼の参考になりそうなことは何も思い出せない。

 私たちとクリュスタルムの生活は、なんの変哲もないごく普通のものだったし――……。





 あれは庭に新設したお酒の貯蔵庫に、とっておきのワインを取りに行った時のことだ。

 私はうっかり、灯りを屋敷から持ってくるのを忘れてしまった。

 お酒の貯蔵庫にはギルがいろいろと魔術式を書き込んでくれたので、最適な温度と湿度に保たれている。こんなに素晴らしい貯蔵庫はリドギア王国内でも他にないだろう。さすがは嫁を甘やかすことにかけて右に出る者のいない夫である。

 だが貯蔵庫には窓が無いので、昼間でも暗いのだ。


「もう一度、屋敷に戻らないと駄目だね。私は光魔術も使えないし。蝋燭か、ランプがないと」

〈それならば妾に任せるのじゃ! ほれ!〉

「わぁ! クリュスタルムの輝きが増した! これならとっておきのワインを取りに行けるよ。ありがとう、クリュスタルム!」

〈ふはははは!! 妾はいつだって役に立つ素晴らしき宝玉じゃからな!! もっと妾を崇め奉り褒め称えるのじゃ~!!〉


 機嫌が良いと水晶玉の中心が光り輝くクリュスタルムのお陰で、灯りに困らない毎日だった。


 そういえば、蝋燭の代用以外にも、クリュスタルムが大活躍した時があったなぁ。


 リドギア王国の山側には、巨大な魔術水道橋がある。

 これは、ばーちゃんの代の魔術師団が水魔術の研究を重ねて作った力作で、バーベナの頃は『水龍の姫』こと、おひぃ先輩や、水魔術が得意な団員たちが管理を担当していた。

 魔術水道橋は、王都の公共施設や水飲み場、周辺地域の工場や農地に水を流している。王城には最優先で水が流されているし、上位貴族屋敷にも水道が普及している。下位貴族や一般家庭は、公共の水飲み場を使っているが。


 ロストロイ魔術伯爵家も上位貴族なので屋敷に水道が普及しているのだが、ある日、調理場の給水栓が壊れてしまった。

 調理場の床が一面水浸しになり、使用人たち総出でモップ掛けをするも、水の勢いに作業が追いつかない。


「給水栓が古くなっちゃってたのかな? まぁ、壊れてしまったものは仕方がない。修理を呼ぼう」

「オーレリア奥様、すでに修理を手配しましたが、あと半日は来れないようです」

「そっか。ありがとう、ジョージ。修理の人が来るまで水がジャバジャバ出続けるのも困るなぁ。こういう時にギルがいれば氷魔術で凍らせもらえるんだけれど、今はちょうど、王城に呼び出されちゃってるし……」


 どうしようかな、と壊れた給水栓を観察していると。

 なんかこう、この水が流れ続ける丸い穴が、ちょうどクリュスタルムと同じ大きさのような気がしてくるではないか。


〈何か良い考えは浮かんだのか? オーレリアよ?〉

「そうだね……。もしかしたら浮かんでいるのかもしれない」


 という訳でクリュスタルムを拝み倒し、給水栓が壊れた部分に水晶玉を押し込んでみる。

 すると予想通り、クリュスタルムは穴を塞ぐのにピッタリのサイズであった。


「完璧!! 完璧だよ、クリュスタルム!! ありがとう!!」

〈そうか……? まぁ 水面から顔を出して泳いでおる気分じゃな 悪い気分ではないから許すが あまり長くは水に漬かっておりたくないのじゃ 修理人に早く屋敷に来るよう急かして来いなのじゃ〉

「うん、本当にありがとう、クリュスタルム!」


 水の勢いが止まったことで使用人たちも喜び、クリュスタルムのことを口々に崇めた。

 お陰でクリュスタルムの機嫌は良く、修理人がやって来るまで何とかそのままの状態でいてくれた。





「クリュスタルムはそんな感じで、我が家で平和に過ごしていたよ~」

「ひぇぇぇぇ!? く、クリュスタルム様は我が国の国宝なのに……っ、とっても便利道具として扱われちゃってるぅぅぅ!!!?」

「あはは。『豊穣の宝玉』の役目も便利道具みたいなものだから、一緒じゃない?」

「敬意ってものが全然違いますよぅ、オーレリアさんんんん!!!!」


 クラウス君はなんだか涙目になったが、クリュスタルムがトルスマン皇国大神殿に帰っても、幸せに暮らせるといいね!


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