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8.力の所在



「うらうらうらァ! あははははッ!」


 洞窟内に、幼女の力強い声が響き渡る。

 魔竜・ベルアインという幼女は、ダンジョン内をところ狭しと飛び回っていた。


「一匹! 二匹! そこに三匹っ!」

「楽しそうだなぁ……」


 本来ならパーティごとに一体ずつしか倒せないであろう大型モンスターが、大木が伐採されるように次々となぎ倒されていく。

 一直線に飛んでいく度に一体。壁へ一旦着地し、更なる跳躍で一体。

 あんなに小さな体なのに、スピードとパワーが人間とはけた違いだった。


「これでトドメだぞ!」


 天井付近まで飛び上がったベルは、すぅっと息を吸い込んだかと思うと、その口からぶわっと大炎を吐き出した。

 フロアいっぱいを包む炎は、もはや大魔法クラスである。

 焼け焦げて消滅していくモンスターたちを背に、ベルは安全圏に居た俺のほうへてってっと駆け寄り、「どうだ!?」と目を輝かせた。


「うん……、つ、強いなベルは! あ、あははははっ!」

「そうだろ!? まだまだ本気じゃないぞ!」

「そうなのかぁ……。すげぇな」


 現在俺たちは、崖の地点の通路から一歩外に出た場所で戦闘を行っている。

 魔物除けはまだ張ったままなのだが、外にモンスターが見え、ベルが「ちょっと行ってくるぞ!」と勢いよく飛び出してしまったので同行したかたちだ。


「ううむ血気盛ん」


 元気が戻った瞬間にこれである。

 ただまぁ……、早いうちに実力が知れたから良かったと言えば良かったのかな?


「ベルちゃんすごい強いんだね! 私びっくりしちゃった!」

「お、おう……。良かった。やっぱアレ、普通の強さじゃないんだよな……?」

「そうですわねぇ。魔竜の中でも相当上位に位置する破壊力だと思いますわよ我が夫」

「やっぱそうなのか……」


 俺が感心していると、二人はそういう風にベルを評した。

 これまでの人間準拠の強さはあてにならないからなぁ。この子らの言葉くらいしか、測るモノサシがないのである。

 ちなみにルーチェの「我が夫」呼びは、時間の都合上理由を問い詰めるのは後回しにした。

 ツッコミどころが多すぎてちょっと胃もたれ気味なので。すまんな……。


「まぁあれくらいならわたくしも出来ましてよ。根性があればどうとでもなりますわ」

「やっぱ根性論なのか……」

「……? 気持ちの入れようで魔法の威力が大きく変わるのは、常識ではなくって?」

「いや、そうなんだけど! それを根性で片付けられると、意味合いというか、ニュアンスが変わってくるだろ!?」

「ふぅむ……、ニンゲンは難しいのですわねぇ」

「いや、その感性はルーチェちゃんだけだよさすがに」


 やっぱそうなのか。

 ただまぁ、ベルも根性論者な気がせんでもない。性格的に。

 そんな彼女はとても気持ちよさそうにこちらへ帰還する。


「ふ~、さっぱりしたぞ! 楽しかった楽しかった!」


 一風呂浴びたばっかりのようなスッキリした表情を見せ、朗らかに笑う褐色幼女。

 あのモンスターたちって、一応Bランク以上の力があるんだけどな……(前のパーティはCランク)。

 このダンジョンだって、やや背伸びをして挑戦したのだ。まぁ、新規団員でBランクのユミナが入ったからというのもあったのだけれど。


「あいつ等……、元気かな」


 恨む気持ちもないではないが。

 今はともかく、旧友らの行く末が心配ではある。

 ベルは気軽に倒してはいるものの、アイツらはそうではないだろうからな。

 消滅していくモンスターの残滓を眺めつつ、俺はそんなことを考えていた。








 ドリー・イコンという男が去ってから。

 私、ユミナ・クライズムは。このパーティのバランスが、やや歪んで(・・・)きているような気がしてならなかった。


「ユミナ、どうかしたのかァ?」

「あぁいや。特に何もないよ」


 このパーティのリーダー・レオスにそう応えて、私は警戒しつつ殿を務める。


「ドリー、か……」


 聞こえないよう、小さく声に出して呟いた。

 あまり魔法剣士に見えない、太り気味な男。

 小心者のようでいて、意外と大胆な決断をする。それが経験則によるものか、熟考の果てに導き出したものなのかは分からないが、大抵あの男が動くと、事態が『少しだけ』好転する。


「ふむ……」


 この――――『少しだけ』というところがみそだ。

 その効能というか効果のようなものに、おそらくこのパーティメンバーは気づけていない。

 おそらく私でさえも全ては気づけていないのだろうし、そもそもコトを起こしている本人自体、無自覚だろう。


 やれることをただやっているだけ。

 このダンジョンクエスト中……、それもたったの六階層しか一緒には居なかったものの、そういう性質なのだろうなということは、薄くだが理解した。


「人が良さそう……とは、また違うか」


 まぁなんにせよ。あの短期間で人となりを把握することは難しいか。

 ただやはり……、どことなく気にはなる。

 足りないところに手を伸ばしていたというか、パーティ全体のバランスをとっていたというか。


 同じ魔法剣士という職業で。

 全ての能力に置いて彼に勝っている自信はある。が……、同じことをやれと言われると、難しいかもしれない。


「なぁレオス。ドリーはどうして、このパーティを(・・・・・・・)出て行って(・・・・・)しまった(・・・・)のだ?」


 私が訪ねるとレオスも他のみんなも、いやに微妙な表情を見せていた。

 何か触れない方が良い話題なのだろうか。しかし、私もパーティメンバーの一員なのだ。確認する権利くらいあるだろう。

 そう考えていると先を行くレオスが、薄ら笑いを浮かべながら口を開く。


「ま、まぁ……、アイツもアイツで? 色々考えていたっぽいからなァ。

 突然の申し出には驚いたが、やる気のないヤツを置いておいても仕方ないし」


 レオスの言葉に続き、周りの者も「そ、そうだなぁ……」「うんうん」と口をそろえて頷いていた。

 明らかに変な空気ではあるが……、まぁ、これを作り出してしまったのも私、か。

 切り上げてしまったほうが得策かな。


「すまない。少し気になっただけだ」


 そう言うと周りの者にも安堵の息が漏れる。

 変わらずやや上ずった口調で、レオスは言った。


「はは……。ユミナの役割が変わるワケではないからサ。そこは安心しろよ。

 普通に魔法剣士をしてくれれば良いだけだから」

「そ、そうそう」

「いやいやリーダー。彼女はドリーなんかよりも能力が高いんだ。

 アイツ以上の仕事をこなしてくれるでしょうよ!」

「ハハハッ! それもそうだな!」


 盛り上がるメンツをよそに一息ついて、私は大人しく殿の務めに戻った。

 まぁ正直な話……、戦力としては問題ないか。

 前衛の力は、私や剣士のレオス、戦士のガディが居れば大丈夫だろうし、回復も神官職のマルティがいる。遠距離から弓のジューオがフォローも出来るし、バランスは十分とれている。


 ただ私が気にしすぎているだけなのだろう。

 ダメージこそ少ないものの、どこかしら先ほどよりも疲労感が増している。

 彼が居た時と居なくなった後で、僅かではあるものの、確実にそうと言える事柄だ。


「……、」


 それはもしかしたら、彼に関係のない事柄なのかもしれない。

 単純に階層も上がり、敵が強くなっているだけな可能性もある。

 けれど――――


 得体の知れない不安を感じながらも、私は歩みを進めていった。

 この先。

 何もトラブルが起きなければ良いのだが……。







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