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28.その名前は



 鮮やかな雲が、風と共に流れていく。

 夕暮れを舞いながら俺は、周囲の魔力濃度が高まっていくのを感じていた。


『魔剣、始動。秩序封印(オーダーレベル)解除(クリア)


 それは、魔力の暴風雨だった。

 俺の周りにだけ、嵐が巻き起こっている。


『何があっても絶対振り落とさないからな、ゴシュジン!』

『防御はお任せあれですわ! 根性ッ!』


 ベルとルーチェは飛行し、敵を少しずつ減らしていく。

 俺とヒナは魔力を通わせて、ただひたすら集中していた。


『――――原点(スタート)回帰(ダッシュ)

 形天海(ハズルバ)、不要。帯着土(ヤージュ)、否定。不確定凝固光(クレヴェント)、完全無効』


 魔力は高鳴る。渦を巻く。

 幻想的。もしくは蠱惑的なまでの魔力粒子が、俺たちの世界の全てだった。


帰還域世観(ドリス)から、不帰還域世観(ダズ)へ。

 密接世界域(オルダイト)の膜を持ってして、全ての物質を無に帰さん』


 かつて。

 世界が歪みに満ちたとき、一つの剣が産み落とされたという。

 それは世界を滅ぼし、時に世界を救い、混沌も秩序も、善も悪も超えたところに、概念として穿たれていた、至高にして究極の一振り。


「いしきが……」


 流れ込んでくる。

 神々。よりも、更に前の時代なのか。

 断片的な魔剣(ヒナ)の記憶が、俺の頭の中を駆け巡る。


 魔王――――のような、ナニカが見える。

 一振りで破滅。一閃で殲滅。

 一刺しで消滅し、一夜にして壊滅を与える魔の剣が、そこにはあった。


「――――関係ないね」


 過去に何があったのか。どんな扱いをされていたのか。また、どんな封印(オワリ)を迎えたのか。

 そんなものは、すでに俺たちには関係が無い。

 魔剣ヴァルヒナクトは新生され、

 今はこうして、俺と共に面白おかしく生きている女の子だ。

 こんなにも、あまりにも可愛らしい、幼女なのだから。


「その名は、魔剣・ヴァルヒナクト!」

『世界に陰りと混沌と、そして――――』


 きらめきと共に。

 彼女は高らかに、勝鬨を上げた。


『おにいちゃんに、勝利をもたらす希望の剣だ!!』


 俺は。

 魔力を纏い、竜の背中に悠々立って、

 剣を構えた。







 風景が。空間が。

 とてもスローモーに見える。

 迫り来る爪も。邪悪な翼も。

 魔力の残滓も。遠くの風景さえ。

 全部が等しく止まって見えたような気がした。


「おぉぉぉぉッ!!」


 咆哮を上げる間さえも、時間は止まっているように思える。

 自分の瞳孔が開きっぱなしなのが分かる。

 体中の血液が沸騰したように熱く、その中で、内側で、更に何かが回る(はぜる)


 今までに感じたことの無い、魔力の昂り。魔力の流れ。魔力からの――――支配。

 頭の先から爪の先まで、きっちりくっきりと神経が通っているみたいで。その神経すべてに、さらさらの魔力が流れているような、そんな感覚。


 ――――器用に。

 小器用に。

 いつものように、魔力を使い分ける。


 罠解除の要領で、ルーチェに。初級攻撃魔法の要領で、ベルに。回復や解毒魔法の要領で、ヒナに。

 鋭敏になった肌感覚(・・・)と、日常的に使ってきた魔力が、親和性良く回り始める。


 配分(バランス)使い分け(バランス)切り替え(バランス)

 約四十年間使い続けてきた身体と思考の癖は、とてもありがたいことに、意識的と無意識的の間で、上手いことソレを実行してくれていた。


 時間は――――まだ動かない。

 鮮明(クリア)なのは、意識だけ。

 止まった時間の中で、感覚と意識だけが、光速で動き出しているのを感じる。


「オォォォッッッ!!」


 もう何体目かも分からない、ガーゴイルを両断する。

 しかしながら恐ろしい。一撃でも、一体でも切り損ねたら、即アウトになるゲームをしているようなものだ。

 今沸き上がる熱量に名前をつけるなら、間違いなく『勇気』である。

 それくらいに今俺は、危うい綱渡りをしていると自覚している。


「けれど――――」


 ベルもルーチェも、勿論ヒナも。

 俺の味方で、力になろうとしてくれている。

 だから俺も、前だけを見据える。力を、行使し続ける。


「はぁぁぁぁッ!」


 両手で握りしめる魔剣を振るう。

 一撃一撃が途轍もない膂力。

 一斬一斬が並外れた破壊力。


 次々と襲い来る魔物たちを、それを上回る速度で動き、一刀の下に切り伏せていく。


 すでにベルの速度は最大だ。

 目まぐるしすぎて目が回る。

 超高速戦闘の世界に、今、俺はその身を置いている。

 ルーチェの魔法支援により、視野は異常なほど広がり、この広大なまでの空にいるのに、隅々まで情報が頭に入り込んできた。


 とにかく、今の俺は強い。

 人でありながら、ヒトではなくなったかのように。


 こいつらが見ている世界。

 ヒナが見ていた世界。

 そしてこれから、俺が見ていくかもしれない世界だ。


「おっ、お、お、お、お、お、お………………ッッ!!」


 のう の しょり が、

 おいつか       ない。

 ヒトの身でありながら、ヒトではないモノの力を振るっているのだ。そりゃあ、のうも、からだも、だめになる――――


『ゴシュジンッ!』

『旦那様ッ!』

「……お前ら!?」


 ヒナの力に押しつぶされそうになっていた俺の意識を、彼女らの声がせき止めた。


『おにいちゃん! 大丈夫だよ! 使って!』

「ヒナ……」

『何があっても、おにいちゃんを闇には引き込まないから!』


 一瞬の後。

 闇抱き(ダーク・トランス)が思い起こされる。


「……はは、大丈夫だ、ヒナ」

『おにいちゃん?』

「闇に染まろうがなんだろうが、俺はお前らと一緒にいるからな!」


 ――――あぁ、

 元気は出た。

 気力は戻った。

 いいさ。やってやる。ここでやらなきゃリーダーじゃねえよ……!


「一滴残らず……、もっていきやがれぇぇぇぇぇぇぇッッ!!」


 最後の力を、全て魔剣へと注ぎ込む。

 黒く。

 黒く黒く黒く黒く黒く黒く黒く黒く……どこまでも黒色の魔力が唸り、膨大に膨れ上がったかと思うと。

 それはまるで暴発するかのように魔力エネルギーを発して、全てのガーゴイルたちを消滅させた。

 邪悪とも言えるどす黒い一筋の魔力光は、街の空を漂い、次第に霧散していく。


「………………あ、はは、は、やったの、か?」


 あまりの威力に変な笑いが出てしまう。

 その一瞬の後、手に残った熱が、任務達成への実感に変わっていった。

 静かに空を舞いながら、俺はひと時、勝利の余韻に浸っていた――――


『あ、ヤバイぞゴシュジン』

「ん? 何が?」


 ベルの言葉に俺が首を傾げると、後の二人も『あ、本当だ。まずいね』『そうですわね』と続いた。


『ベルたち……、今ので完全に力使い切ったみたい。この姿維持できなくなる』

「はい!?」

『もう……、無理だぞ~……』


 疲労感のある声と共に、ぽんっという可愛らしい音がして――――三人の姿は、ニンゲン状態に戻った。

 服は着ているな。あぁよかった。安心した。……などと思っている場合では無い。


 ここは街よりはるか上空。

 そう、空の上。

 鐘付き塔よりも更に上へと上昇している高さなのである。


「………………は、」


 人は……、この高さの落下から、耐えられるものではない。

 だから。


「おにいちゃ――――」

「……大丈夫だ!」


 俺は落下しながらも、冒険者バックから、みんなに上級者用(・・・・)アイテムを渡した。


「みんな! その石に魔力を通して、砕け!」

「うん――――!」


 四つの音が、こだまする。

 手に持った石が柔らかく砕けると同時。

 俺たちの身体は淡い魔力に包まれ、ゆっくりと中空を舞っていた。


「わっ……! す、すごいですわ!」

「おぉ~……。翼で空を飛んでるときとは、また違う感覚だぞ」

「はは……。念のために、財産つぎ込んどいてよかったよ……」


 それは。

 飛翔の加護。

 上級ダンジョンなどに発生する、飛行しなければたどり着けないような場所へ行くための、

 ――――とても高価なマジックアイテムである。


「最後の最後……、役に立ったな……」


 苦い経験(おもいで)と共に、中空を舞う。

 だんだんと降下しながらも、俺は隣を舞っているヒナと、手を繋いだ。


「ヒナ……」

「……えへへ」


 彼女の脈動が伝わってくる。

 眼鏡の奥の大きな瞳と、目が合った。


「ありがとう、おにいちゃん。信じてくれて」

「当たり前だろ、ヒナ。お前は俺の、仲間なんだから」


 手は、重なる。

 更に二つ重なって、四人になる。

 魔剣と魔竜と魔法と、人間。

 俺たちが救った街へと、

 四人でゆっくり、着地した。


「さぁて……、なんて説明したもんか」


 取り囲む喧騒。

 向けられる視線。

 降り注ぐ歓声。

 帯びた熱。


 ぼろぼろに薄汚れた身体で、しっかりと地面に立って。

 俺は苦笑しながら、

 前へと進んだ。






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