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24.魔剣の悲鳴



 ベルちゃんは。

 強襲からおにいちゃんを助けた。


 ルーチェちゃんは。

 おにいちゃんと二人でクエストに行った。


 私は、

 おにいちゃんに隠し事をしちゃった。

 魔力(えいよう)が切れそうだったのに。

 無理して動こうとして、見抜かれちゃった。


 ダメな子だ。

 悪い魔剣だ。

 こんなことでは、また封印され(すてられ)ちゃう。

 こんなことでは、また撃ち負け(おられ)ちゃう。


 あの日から、ずっとずっと、ぬぐえない(つみ)


『――――危険な剣でございますからな、魔王』


 大丈夫だから。


『そのようだな。ではこの(つるぎ)は、再び封印を施しておく』


 おにいちゃん(このひと)は私を嫌いにならないから。


『かしこまりました』

『魔王様! 勇者の軍勢が、すぐそこまで――――』


 でも……、もし役に立たないと思われたら?


『うむ。では、こちらを抜剣する。我に続け』


 持ち主に役に立たないと思われたら……、違う武器に代えられちゃうでしょ?


 なら。

 なら。

 だったら。


 私は。

 私、魔剣ヴァルヒナクトは。

 絶対に……、いつまでも。役に立たないといけないんだ。


「私は……」


 私を拾ってくれた、救ってくれた貴方の。

 ――――いちばんになるから。







 戦いは収束を向かえそうだった。

 あんなにも居たモンスターは大きく数を減らし、フロアの壁が見えるくらいになってきている。


「数えようと思えば数えられるくらいには減ったな……」


 我が目を疑う光景だった。

 一体一体がA級~S級のモンスター。今まで俺が居たCランク相当のパーティであれば、Bランクのモンスター一体を倒すのにパーティ総出だ。それよりもはるかに高いレベルの魔物を……、一撃、一噛み、一斬で、屠っている。


「分かってはいたけれど……、」


 人ならざる、力だ。

 圧倒的なまでの戦力が、そこに渦を巻いていた。


「しかもまだ、俺からの魔力(えいよう)を回収してない状態だからな……」


 いやはや恐れ入る。

 魔力万全のこいつらの力って、どのくらいヤバいんだろうな。


「って、そうしてる間に……」

「最後の……一体ですわッ!」


 元気に叫ぶルーチェの声と共に、一撃が放たれる。

 それにより。フロアに残った最後のモンスターである巨大ゴーレムが、今、消滅した。

 巨躯は魔力に代わり、俺の剣へと静かに吸収されていく。なんだか感覚的に、ちょっと剣が重い気がする。魔力をいっぱい吸っているせいだろうか。


「一応魔力感知……」


 最後の検知を試みて……、少なくともこのフロアに、俺たち以外の魔力は無いことを確認し終えた。


「うん……。殲滅成功だ!

 ……いやぁ、信じられねぇ! すごいぞお前ら!」


 普通の冒険者が見たら二秒で退散する――――もしくは、逃げる間もなく全滅するレベルのモンスターたちを、完全殲滅せしめていた。


「しかし俺、ホントにいらない子だったな……」


 まぁ楽出来て良いんだけど。

 というかこいつらが凄すぎるだけな気もする。いやでも、俺が居たところで役に立たないのは事実だしな……。

 ……いやだめだ。あまりの事実に、混乱してるな俺も。


「と、とにかくお疲れ様みんな!

 魔力もたんまり溜まったし、とりあえず補給しよう」


 俺はぶんぶんと剣を掲げ、笑顔の二人を迎えることにした。――――ん? 二人?

 はたと違和感を覚え、もう一人の影を探す。


 ベルは居る。

 ルーチェは居る。

 視界に……、いるべきもう一人が映らない。


「……ヒナ?」


 あ……れ?

 このフロアはだだっ広いだけで、遮蔽物などはほとんどない。ところどころに石柱が立ってはいるものの、ちょっと覗き込めば人ひとりくらいは容易に発見できる。


 それが。

 いない。

 というよりも……、俺の視界に映ってないだけなのか――――


「ゴシュジン、上ッ!」

「え……」

「くっ……!」


 順番としては。

 ベルの声が聞こえて、俺の呼吸と共に、ルーチェが何かを受け止めた声と音がした。

 場所は……、俺の顔の、十センチ手前。


「は……!?」


 それは――――黒い剣だった。

 ルーチェはそれを何とか受け止め、はじき返し、反動で俺の足元に勢いよく倒れこむ。


「ルーチェ!」

「だい、じょうぶですわ……。転んだだけです旦那様」


 言いながら彼女は立ち上がり、臨戦態勢(かまえ)をとる。

 見据えるは眼前。青黒い魔力を帯びた、一振りの(つるぎ)だった。


「え……? なん、だ、アレ……」


 荒々しい。

 毒々しい。

 禍々しくて――――神々しい。


 それは所謂(いわゆる)、一つの魔剣の完成形。

 神から成る時代と人が造る時代の間に生まれた、転機となる一振りだと、唐突に理解できた。


「ヒ、ナ……?」


 その名を、魔剣ヴァルヒナクト。

 脳内へと次々に、彼女の情報(おもい)が流れ込んでくる。


「――――ッ!?」


 ゆるやかに二度寝へと落ちていくときのような。

 ぴりぴりとした、意識を一瞬一瞬刈り取ってくるような感覚に襲われる。


 おにいちゃんの役に立ちたい。

 私が一番役に立ちたい。

 おにいちゃんは私を戦闘に連れて行ってくれない。

 私は剣なのに。

 魔剣なのに。

 強いのに。

 役に立つのに。

 使ってよ。

 振るってよ。

 私を便利に使いつぶして。

 それでも、いつまでもいつまでも使い続けてよ。

 おにいちゃん。

 おにいちゃん。おにいちゃん。おにいちゃん。

 私が。絶対。


 あなたの。

 あなたの刃に、なるから。


「なっ……!? ヒ……、ナっ……?」


 頭を抑え、何とか意識を保つ。

 なんだこれ……?

 これは……、アイツの想いなのか……? 魔剣(どうぐ)としての、きもち、なのか?

 でも、どうして、今……! というか、この現象はいったい……?


「うく……」

「旦那様!」


 よろめきをルーチェが支えてくれる。けれどその隙を狙ったのか、鋭き魔剣(ヴァルヒナクト)は飛来し、俺の眼前へと迫ってきた。


「ッ!!」


 刃が鼻先に届く――――よりも先に。


「ゴシュジンに近づくなッッ!」


 ベルの大ぶりな蹴りにより、魔剣は再び壁際へと離される。


(こわ)すッ!」


 ルーチェと違い、ベルはかなり血気盛んだ。

 こちらに留まることはせず、蹴り飛ばした魔剣の方へと跳躍する。

 そして……、魔剣と魔竜は激突した。


「がるる……!」


 らせん状に回転しながら、爪と剣はぶつかり合う。

 ベルの目……。アレは、本気であの剣を破壊しようとしている目だ。


「待て、ベル……、ベル……!」

「旦那様、落ち着いてくださいませ!

 大丈夫ですわ。おそらくあの二体、早々に決着はつきません」

「けど……!」

「今の状況……、把握しましてよ。説明をいたしますわ」

「え……、マジかルーチェ!?」

「えぇ。同じような存在ですので。何となくは、ですが」


 ルーチェは戦いが行われている方を見つつ、説明を開始した。


「おそらく現在ヒナが陥っている状態は……、『(ダーク・)抱き《トランス》』だと思われますわ」

「ダーク、トランス……?」


 聞いたこと無い単語だ。

 高等な魔法用語なのだろうか。


「いえ。これはどちらかと言えば……、三人娘(わたくしたち)用の単語ですわね」


 今ネーミングしましたしとルーチェはこぼし、続ける。


「今の彼女は……、『悪』の部分が色濃く出ている状態ですの。

 我ら三体は、通常の生物ではありません。なので、人格が破綻す(ブレ)ることもあれば、闇堕ちす(グレ)ることだってある」

「そんな……。ヒナ……。ベル……」


 中空を飛び続け、衝撃波を出す魔剣(ヒナ)。それをなんとか掻い潜り、鋭い爪を振るう魔竜(ベル)

 あの状態を……、止める術はないのかよ。


「まぁざっくり言えば、拗ねているだけですわ」

「す、拗ねている?」

「簡単に言えば、ですけれどね。勿論、拗ねているというにはあまりにも可愛げがなさすぎますわよねぇ」


 ふぅと呆れるルーチェを掴み、俺は激しく質問をした。


「つまり、どうすれば良いんだ!? ヒナは、元に戻るのか!? なぁ!?」

「だ、大丈夫ですわ! 今は負の感情が強すぎて、あっち(やみ)側に傾いているだけですから!」

「そうなのか!? じゃあ、はやく元に戻す方法を教えてくれ!!」

「落ち着いてくださいまし――――旦那様!」


 ていっと足払いをされる。

 俺はその場に尻もちをつかされそうになり……、その直前で体制を元に戻してもらった。

 また直立に戻った俺は、「すまない」と頭を下げる。


「それだけ想っているということですわよね。大丈夫ですわ」


 仕切り直し、ルーチェはその、元に戻す方法を口にした。

 それはとても単純至極。

 分かりやすい方法である。


あの魔剣(ヴァルヒナクト)を……、倒せばいいだけですわ!」

「あぁくそ……。そうかよっ!」


 なるほどなるほど。

 誰が聞いても間違えようがない方法だ。


 理屈は単純で。

 成すことは、とても簡単にはいきそうもなかった。








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