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18.ヒナと普通の会話



「ごめんねおにいちゃん。まさかあんなことになっちゃうなんて」

「……ぜぇ、……ぜぇ、き、気を付けてね……」


 どうにか警備隊の人たちから身を隠した後。俺は路地裏にて一息ついていた。

 二日連続で息も絶え絶えだ。なんだよこの街、いつの間にAランクダンジョンになりやがったんだ。


「ヒナくらいの年齢の子に、えっちなことをしたらダメって知識はあるんだけど、私の言い回し一つで誤解を受けちゃうんだね。勉強になったよ」

「おぉ……、分かってくれるならそれで良いんだ」


 俺の全力疾走も浮かばれるというものだ。

 しかしそうか……。ヒナは他二人と比べて、物分かりが良い方なんだな。

 あぁいや。他二人がわがままとか、そういうことではなくて。

 元から備わってる知識や倫理の根底が、人間寄りだ。

 ロリに手を出すのがいけないことという常識的な部分の根幹を、説明しないでも話が前に進んでくれる。


「ベルのときにも思ったことだけど……、俺たちの常識を理論立てて説明して、理解してもらうのが大変なんだよなぁ」

「価値観の違いは、すり合わせるのが大変だよね。

 あっ……、すり合わせるって言っちゃまずいのかな? えっちな言葉認定されちゃう?」

「いやそれくらいなら問題ないけど……」

「そ、そうなの? うーん、色んな知識(・・・・・)があるから、逆に発言に気を使っちゃうね……」

「色んな知識……」


 そうなのですかヒナさん。


「ニンゲンは大変だね……。『いく』も『ぬく』も『いれる』も『だす』も使わずに会話をしてるんだね……」

「それくらいなら使っても大丈夫だよ!」


 警戒するあまり耳年増みたいになっていた。

 普通に喋ってもらってぜんぜん大丈夫なので……。


「ねぇおにいちゃん。フツーに喋っても良いのなら、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「ん? どうした?」


 先ほどまでのことから切り替えたのか、ヒナは今まで通りの落ち着いた口調で見上げてきた。


「聞きたいっていうか、知りたいかな。

 おにいちゃんって、これまでずっと冒険者だったの?」

「あぁ俺のことか。そういえば話してなかったなぁ……」


 えーっとなと考えつつ、ギルドに行く道すがら話すことに。

 小さな足取りはどこか真剣だ。そんなに気になることなのか?


「十五の頃に冒険者を志したんだけど、そこで一旦挫折してな。三年間一般の生活しつつ魔法を勉強して……、十八歳で冒険者の剣士(セイバー)職に就いたんだ」

「そうなんだ。挫折しちゃったのは、どうして?」

「レベルの違いが凄すぎてなぁ。あ、元々は俺、斥候スカウト職希望だったんだ。罠仕掛けたりとか、解除したりとか、地形を読んだりする職業な」


 他にも色々役割はあるのだが、なんかこう……緻密な作業を行うのが、『職人!』って感じで好きだったのだ。

 子供ながらに憧れたが……、十五歳の時分、周囲の斥候職の造詣の深さに絶望――――というより脱帽した。

 すげえと思うと同時に、『これにはなれない』と諦めがついた。


「で、そっから宗旨替えだな。三年間金貯めながら剣士の勉強して……、それで何とか、冒険者としてやっていけるようになったんだ」

「へぇ~」


 冒険者資格自体は誰でも取れる。現にこうして、何の実績も無いヒナたちも、冒険者として俺とパーティを組めている。登録自体は誰でもできるのだ。

 ただそこから、生活できるくらいに金銭を得られるかというと、そうではない。

 Eランク以下のクエストなんて、街の雑用で終わったりもする上に、一日の飯代にもならないレベルのものがごろごろ転がっている。


「副業? だっけ? 別でお仕事するやつ。そういうのはダメなの?」

「冒険者登録を出したら、副業をするのには届け出がいるんだ。

 ただ駆け出しの場合は……申請が通らないことがほとんどかなぁ」


 詳しくは俺も知らないけれど。

 ただそうすると、年間の提出書類とかが面倒になったりもするらしい。


「俺がずっとCランクに居続けるのは、単にこのままでも生活が出来てるからだ。

 昔は向上心持ってやってたんだが……、今はとりあえず棚上げだな。恥ずかしながら」


 現状維持万歳だ。

 食うものには困ってないし、少なからず貯蓄も出来ている。

 ……まぁもしかしたら、向上心の無さを見抜かれて追放されたのかもしれないけど。だとしたらこちらにも、若干の非はあったのかもしれない。


「じゃあおにいちゃんを追放したパーティってさ。冒険者になって、駆け出しの頃から一緒だった人たちってわけじゃあないんだね?」

「ん? あぁそうだぞ。駆け出しでフリーの剣士やってて、その後一回、本格的にパーティ組んで、もう一回フリーになって……、んで、この間までレオスらのところに居たって感じだな」

「転々としてるんだね」

「割とみんなこんな感じかなぁ。

 四十過ぎてD~Cランクの冒険者ってのも、別に珍しく無いし」


 ただまぁ、非凡にはなれなかったけどな。

 俺の話を聞いてヒナは、てくてくと歩いていた足を止め、「そっかぁ~」と安堵の息を漏らした。


「え? ど、どうかしたのか?」

「ううん~。良かったなぁって思って」

「良かった?」


 俺が訪ねるとヒナは「うん」と、心底こちらを(おもんぱか)った口調で言った。


「おにいちゃんが冒険者駆け出しの頃から、ず~~~~~っと一緒に居た人たちに、そんな酷い裏切りをされたのかと思って、心配してたんだぁ」

「ヒナ……」

「長い長い年月をかけて信頼してた人たちにそんな扱い受けたんだったら、流石に……ね」

「……ありがとうな、ヒナ」


 優しく微笑むヒナは、本当に可愛らしく映った。

 慈愛に満ちた瞳は、本当に天使みたいで――――


「お、おっと……、天使は誉め言葉じゃないんだっけな」

「ん? そうだよ?」

「じゃあその……、ヒナは邪神みたいだな」

「うん! ありがとうおにいちゃん!」


 心温まる話の締めとしては、けっこう最悪な部類の言葉な気がする。

 けどまぁ……、ヒナが笑顔なら、それで良いか。

 そうこうしているうちに、クエストギルドが見えてきた。

 俺はそこに入りながら、彼女に礼を言う。


「心配してくれてありがとうな。俺もお前らの事、大事にできるように頑張るよ」

「うん! 便利に使って――――は、ダメなんだっけ」


 いけないいけないと両手で口をふさぐヒナ。

 仕草がとても可愛らしい。魔剣という邪悪な単語からは想像もつかないくらいだ。

 そんな彼女の笑みに、俺もどこか心が浮ついてしまう。でも仕方ないよな、こんなに可愛らしいんだから。


「そうだおにいちゃん。私の方から教えておかなきゃいけないことがあったの」

「ん? なんだヒナ?」


 ほどなくして。

 受け取りの書類を記入し終えた先の待合室にて、ヒナは小さな声でそう言った。

 周囲には聞こえないようにこっそりということは、もしかしたら俺の『剣』に関することかもしれない。

 待合室はがやがやしているからそこまで声を潜めなくても大丈夫だとは思うが……、念のため小声にしておくか。


「おにいちゃんの疑似魔剣についてなんだけどね。おにいちゃんの魔力を流せば、私たちの魔力(えいよう)残量が分かるようになってるから」

「お、そうなのか。えーと……、さすがにここで試すわけにはいかないか」

「そだね。ちょっとだけ光っちゃうかもだから」

「じゃあ帰ったら試してみるとするか。しかし便利だなぁ」

「うん! ヒナ便利だよ!」

「声が大きいですよヒナちゃん……」

「あっ、ごめんなさい……。

 う~ん、おにいちゃんに『便利』って褒められると、どうしてもテンション上がっちゃうよぉ……」

「背徳的だな……」


 捉えようによっては、俺が超鬼畜な人間だと思われる。

 幼女に対して『便利』って、性的な意味でなくともヤバい意味っぽいし。


「あとはこう……、魔力を受け渡すやり方さえどうにかなればな……」


 三人娘の身体的に大丈夫なんだろうけど、一応衛生的なところにも気を付けたいしな。そして何より絵面がヤバい。こっちは間違いなく、性的な意味でヤバい。


「ううん……、そこはどうしようもないかも。もしかしたらこの先、おにいちゃん自身の手で改良していけるかもしれないけど」

「なるほどな。それも、時間あるときに試していくしかないか……」

「うん。ヒナも付き合うよ」


 にこっと微笑みかけてくれるヒナ。

 小声なせいか、普段よりもかなり距離が近くて、眼鏡の奥の柔らかな瞳がよく見える。……かわいい。


「ヒナはかわいいなぁ」

「えへへ。ありがとうおにいちゃん」

「うふふ♪」


 いかんな。自分でキモいと分かっていても、自然と笑みがこぼれ出てしまう。

 あー幸せだ。こんな子から懐かれる人生、最高だろ。



「これからもいっぱい頂戴ね、おにいちゃん」

「あぁ。いっぱい注ぎ込んでやるからな♪」



 にこにこにこにこ。

 なでなでなでなで。

 笑顔で見つめ合い、俺は小さな頭を撫で続ける。

 ごろごろと猫のように甘えてくるヒナに、俺はもう夢中――――


「――――はっ!?」


 ふと。

 我に返り。

 あたりを見回す。


「――――しまっ、」


 俺たちに突き刺さる、周囲からの、視線、視線、視線。

 みな一様に怪訝な目つきをして、遠巻きに俺たちを、というか主に俺を眺めていた。


「は、はは……、いや、あの……」


 嫉妬してるわけでは……ナイですよね? その、アレですよね?

 うん。たぶんソレですね。

 危険人物扱いですよね……?


「すみませんドリー・イコンさん」

「ひゃ、ひゃいッ!?」


 ポンと肩を叩かれた。

 そこにはギルドの管理者たる、お偉いさんが護衛を何人かつけて立っている。


「少しだけ――――奥でお話いいですか?」

「…………………………チガウンデス」


 その後。

 何とか釈明をし、なんとか檻の中に入れられるのだけは免れた。

 でもよく受付をしてくれるお姉さんには距離を取られることになりましたとさ。


 たしかに気を抜いた俺が全面的に悪い!

 でもコレ……、避けようがなくないです……?





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