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17.ヒナと街並み



 昨日は大変な目に遭いはしたのだけれども。

 今回は大丈夫な気がする。何故なら――――


「本日のお相手は、割と常識的なヒナちゃんだからです」

「どうしたの急に、おにいちゃん」

「いや、自分自身に安心感を与えているんだ……。

 そう。なんたって俺は、ロリコン(ソルジャー)ではないのだから」

「そうなんだ……? よく分からないけど、大変なんだねぇ」


 そう。世界はいつだって大変なのだ。

 風当たりが強いんです。オッサンには。


「ほら俺、こんな外見だろ? だから性犯罪系で疑われたら、弁明できる自信がなくてな」


 冴えない、四十歳手前のオッサンである。

 例えば王都のほうの騎士サマとかは、四十歳でも若々しく、そして凛々しい顔立ちをしているからして。仮に性犯罪を疑われたとしても、きっとみんな弁明のチャンスをくれるし、発言を信用してくれる――――いわゆる『しっかり者の空気』みたいなものを持っているのだ。

 こちらはなんというか……、『女に困ってそう』感があるというか。

 非モテだから、このさい幼女でも……という思考で犯行に及んだと言われても、否定できない面構えをしているのです。


「そんなことないけどなぁ? おにいちゃん、オークみたいでかっこいいよ?」

「世間一般ではオークはかっこよくないんですがヒナさん!?」

「そうなの!? でもベルちゃんとルーチェちゃんと、『おにいちゃんの好きなところ選手権大会』を開催したときには、全員がまず『顔』って答えたんだけど……」

「まずその謎の大会の開催を辞めてもらっていいですかね……」


 なんだその誰も幸せになれない大会……。

 あ、こいつらは幸せになるのか。変な大会だなまったく。


「他にはねぇ……、腕毛が乱雑に生えてるところ、お腹の毛が濃いところ、研ぎたての棍棒みたいな体臭、立ち上がる時の『あ゛~』っていう声、とかがありました!」

「マニアック!」


 好きなところなんだ!

 そしてまた出て来たよ棍棒みたいな体臭!


「結局みんな『わかる~』ってなって、大会は無事終了したよ」

「分かるんだ……」


 そして俺だけが分からないのか。

 不思議すぎる価値観だった。


「それでおにいちゃん、今日はどこにおでかけするのかな?」

「あぁうん。

 今日はちょっと用事があるんだ。それについてきてくれ」

「はーい。

 えへへ、おにいちゃんとお出かけ、楽しいな~♪」


 石畳の上を、とん、とん、とリズムよくスキップし、ぱぁっとまぶしい笑顔を向けてくれるヒナ。

 眼鏡の奥の瞳は、綺麗にきらきらと輝いている。


「ヒナの笑顔は天使みたいだなぁ」


 こちらもつられて笑顔になってしまう。

 俺が「カワイイカワイイ」と頭を撫でると、ヒナは一転「えぇっ!」と涙目になっていた。


「天使だなんて酷いよおにいちゃん! 最大級の侮辱だよぉ!」

「えっ、そ、そうなのか!?」

「私はこれでもS級魔剣なんだから、天使みたいなのと一緒にしてほしくないよぉ」

「そうかぁ……。な、なんだかすまん……?」


 天使って普通は誉め言葉なはずなのだが。

 ううむ価値観な事案、三回目である。未だに測れない。


「それじゃあ何に例えれば誉め言葉になるんだ?」

「そうだねぇ……。うーん」


 小さく腕組みをして、ヒナは「それじゃあ」と口を開く。


「邪神みたいな頬笑みだね! ……とか?」

「邪神が誉め言葉になっちゃうかぁ……」


 結局理解は出来なかった。

 まぁ、理解しようと努める姿勢こそが、コミュニケーションの第一歩なのです。

 顎に手を当て考える俺を見上げ、ヒナは笑いかける。


「それで? 今日はどこに行くのおにいちゃん?」

「あぁ。今日は、ヒナたちの冒険者証明書を受け取りに行くんだ」

「証明書? この間もらった物とは違うんだね」

「この間のは書類だけ。本命は証書についてくる、冒険者プレートだ」


 コレなと首から自分のプレートを見せると、ヒナは「あぁ」と納得した。


「ソレをつければ、私たちも本格的に冒険者になれるんだね!」

「だな。今はこのプレートで、ほとんどのクエストの受付が出来るようになってる」


 冒険者プレートは強さのランクを測るだけではなく、持ち主の名前(もしくは冒険者ネーム)も刻まれている。だからこいつがあれば、証明書を持ち歩かなくても、どこのギルドでもクエストを受けることが出来るのだ。


「とは言いつつも……、冒険者になりたての頃は、これをよく忘れてたんだよなぁ。

 受付に行ったときに慌てることもざらでさ。クエスト受けられなかったりもしたもんだ」


 懐かしい話だ。

 幼女の世話とかもそうだが、自分の生活に新しく何かの要素がプラスされると、どうしても馴染むまでに時間がかかる。オッサンになればなおさら。


「じゃあ私たちも忘れないようにしないとだね」

「そうだな。まぁヒナは大丈夫だと思うけど、ベルあたりが壊さないか心配だな……」


 あと金属だから、最悪アイツは食えるんだよな。

 そう思うとカードタイプの方が良かったのではないかと思う。金属になってから、再発行には時間と金がかかるようになったらしいし。

 そんなことを話して歩くうちに、市街地エリアまでやってきた。


「だいぶ人も増えてきたね~」

「この辺りは中央街だからな。小さい街とはいえ、人口はそこそこ居るし」


 喧騒をかき分けながらも、俺たちは引き続き話しをしていく。


「にこにこ」


 ヒナは穏やかだ。

 この間のベルのときみたいに、『問題ワード』を連呼するような素振りが無い。

 声も全然大きくないし。いやぁ、大人しいということが、こんなにもありがたいことだとは。


「それでおにいちゃん。他には何か、冒険者にとって気を付けたほうが良いことってあるの?」

「ん? いや、今のところ特には思いつかないかなぁ……」


 あ、でももう一個あったな。俺のポカ。


「なぁになぁに?」

「いやぁ、恥ずかしい話なんだけどな。

 駆け出しの頃、まさかの『武器を忘れる』っていう失敗をやらかしたんだよ」

「あらら。それは大変だね! じゃあそのときは、素手で切断しないといけなかったんだぁ」

「いや素手を剣代わりにはできないなぁ……」


 発想が自由すぎるんだが?

 穏やかな外見でも、中身はしっかりパワープレイな子だった。


「……まぁだから、そのときはどうにか魔法だけで戦ったよ。

 当時一緒に組んでたやつらも、全員駆け出しでさ。いざ街から離れたってタイミングで……全員一斉に気がついたんだ」


 パーティリーダーの「ドリー……、剣……」という、単語だけの言葉で、みんなの背中が凍り付いたのを覚えている。

 しかもそのとき忘れ物をしたのは俺だけじゃなく、弓使いのやつは弓本体を忘れていた。

 アレはいたたまれなかった……。


「浮足立ってたのか油断してたのか。

 何にせよあの失敗のおかげで、今はけっこう慎重になったよ」


 と言っても、人並みになっただけだけどな。


「剣を腰に下げるのも、最初は違和感あったなぁ。

 左腰あたりが妙に重くてさ。長時間歩くのにもコツがいるんだよ」


 って、剣本人に言っても仕方ないかもしれないけど。

 ヒナは「そうなんだね」と笑う。うーん、可愛い。


「私がその剣だったら、小さくなるか軽くなるかして、歩きやすくしてあげれるんだけどなぁ」

「魔剣って便利だな……」


 ヒナだけなのかもしれんが。

 そんな伸縮自在な剣があるとか、初めて聞いたわ。


「けどまぁ剣を持ち歩くのもさ。慣れれば楽になったよ。色々便利に使えるし」

「便利に?」


 ヒナの質問に俺は「そうだぞー」と答える。


「疲れた時には杖代わりにできるし、高いところの物を取るときにも使えるし、暑い日に抱いて寝ると鞘が冷えてて気持ちいいんだよ――――」


 って、しまった。

 本来の使い方ではないような、下手をすると『剣』という概念を愚弄しているような使い方を、誰あろう魔剣本人に言ってしまうとは……!

 ヒナもしかして、怒って……る?

 俺がおそるおそる彼女の方を見ると、ヒナは俯いていて。

 そして小さく身を震わせたと思うと……、口をわずかに開いた。


「……い」

「い?」

「いいなぁぁぁぁ~~~~!」

「はい?」

「いろいろ便利に使ってもらえるなんて羨ましいよ~! おにいちゃんのその使い方は、つまり剣そのものを信用してないと出来ない使い方だよね!」

「ん……? そ、そうなるの、か、な?」

「そうだよ! だって、ちょっとでも悪さするような剣だと思ってたら、抱いて寝るなんてできないでしょ?」

「お、おう……」


 俺としては『悪さをする剣』という概念があることをそもそも知らなかったのだが……。

 まぁそうね……。『剣サイドからは何もされない』という前提の使い方ではありますね……。

 感極まっているのか、ヒナの声はやや大きくなっていく。落ち着いて見えてもまだ子供だな……。

 でもまぁ、そろそろ静かにさせないとな。流石に過行く人がチラチラと気にし始めている。


「ヒナ、喜んでるところ悪いんだがそろそろ……、」

「私もおにいちゃんに抱かれて眠ってみたいよ~!」

「ぶっ!? お、おいヒナ!?」


 彼女の声に、周囲の人々がぎょっとして俺たちを見ていた。

 ま、まずい……!


「ヒナさんや、ちょっと静かに……」

「おにいちゃん! これはとっても重要なことなんだよ!」

「は、はぁ……?」

「だって今の()はとっても大事にしてるじゃない! ヒナはまだ一回も使われたことないのに!」

「い、言い方……!」


 剣を子って言うな。

 周囲の人にも衝撃が走っている。

 もしかして俺……、ロリに二股かけてると思われてる……?

 ヒナを黙らせようとするが、言葉のエスカレートは止まらない。……いや、本人的にはそこまでエスカレートさせてるわけではないのだろうけれど。


「私だっておにいちゃんに尽くせるもん! おにいちゃんは今の()と私、どっちの具合がいいの?」

「具合とか言うな! 俺が悪人みたいに思われるだろうが!」


 悪人くらいならまだマシだがな。

 このままだと、幼女に手を出してる鬼畜にしか見えない。

 どうにか頑張って言葉を選んで、ヒナを説得するしかないかな……。


「い、いやいやヒナ……。俺だってお前を……、えっと(振るうとかだとやばいから)、え、『選んで』みたいけど……さ」


 いかん。これじゃあどのみち二股感が出てしまった。

 いやでも、ヒナが魔剣だってバレるよりは良いかもしれないな……。


「……おにいちゃんの()、ちょっと小ぶりだもんね。

 ふぅん。ちっちゃい()が好きなんだ」

「そっ、そういう言い方をするな……!」


 俺たちの会話を見ていた人々がざわつきを見せる。


「……あの子よりももっと小さい子が好きなの?」

「……それってもうロリっていうよりペドじゃない?」

「……ひくわぁ~」

「違うんです!?」


 俺が頭を抱えていると、ヒナは更なる追い打ち(アピール)を浴びせてきた。


「ヒナだって頑張れば、ちゃんと(鞘に)入るもん!」

「お前……ッ!?」


 ざわつきは止まらない。


「コイツ……、あの子にそんないかがわしいことを……!」

「すでに手遅れだったのね……」

「毒牙にかかって、可哀そうな子……」

「違う、ん、です……」


 もう何言っても追撃だよ。

 ただの日常会話をしていただけなのに、どうしてこうなりやがった。


「ヒ、ヒナ、落ち着け……。お前は今冷静さを欠いている……。今の発言がどれだけアレなことになっているか、お前ならきっと考えられるはずだ……」

「でも前の()には、色んな(ふく)与えて連れまわしたり、壊れるくらい握りしめたり、裸のまま激しく振り回したりしてあげてるんでしょ!?」

「全部事実だけどもコノヤロウ!」


 わざと!? ねぇわざと言ってるのこの子!?

 ざわめきが以下略!


「暴力……?」

「性的虐待……?」

「国家警備隊……?」

「ちょっと…………、まって………………」


 頭が痛くなってきた……。

 俺が気力なくがくりと項垂れていると、それらを想像して自分に置き換えたのか……ヒナは頬を両手で抑え、恍惚とした表情で口を開いた。



「いいなぁぁぁぁ~! 私もおにいちゃんに、便利に使われたいよぉ~!」



 ヒナさんのオンステージ。これにて閉幕です。

 ついでに……、俺の人生もな!







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