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9.大魔法ルーチェリエルの超強いお嬢様戦闘道



 さてさて。

 パーティを結成して一時間ほど休憩して(主に俺の体力回復のため)、立ち上がり「よし」と装備を確認する。


「この魔物除けは、切れるまであと一時間くらいあるから大丈夫だと思うけど……、一応ヒナ一人にするのは危険だからな」


 ヒナは先ほどのような、ベルやルーチェが弱っていたような事態にはなっていない。とはいえ、いつどこで魔力(えいよう)が切れるか分からない。

 万が一を考えると、一旦はここで養生しておいてもらったほうがいいだろう。


「そんなわけで、二人は留守番だ。頼んだぞ、ベル」

「任されたぞゴシュジン!」

「気を付けてね、おにいちゃん」


 二人に見送られ、俺たちは再びダンジョン内へと歩みを進めた。

 やることは先ほどと同じだが、今度ついてくるのはルーチェだ。

 行ってくると言って二人で探索を開始する。


「さてそれで……、」


 自身を『魔法』であると称す彼女だが……、正直他の二人と違って、ちょっと不明瞭なところが多すぎる。

 丁度先ほどダンジョンの『呼吸』があったタイミングだったみたいで、若干だが道が変動していた。俺たちの休憩スペースには影響が無くて良かったぜ。


「ルーチェはその……、『魔法』、なんだよな?」


 改めての確認のため、俺は自分でも口にしてて不可思議な文章を口にする。

 あなたは魔法ですか? って、控えめに言って意味わかんないよな……。

 困惑・混乱を抑えられない俺の言葉とは対照的に、ルーチェは「えぇ」と気品よく頷く。


「そうでしてよ旦那様」


 ちなみに呼称は『我が夫』から『旦那様』へと変更になった。

 ……まぁ、旦那様なら館の主人とかにも使うから、まだマシになったかなと思う。どうしてみんな頑なに名前で呼ぼうとしないんだ。

 それはさておき、俺は質問があると彼女に言うと、「えぇ。よろしくてよ?」と凛とした音色の声が返ってきた。

 高貴な感じの良く響く声だ。聞いていて心地よい。


「えっと……。『魔法』って……どういうこと?」

「……? 魔法という意味ですわ?」

「あーその……、お前は自分が魔法であるって言ってたじゃん? それはその、光魔法ルーチェリエルそのものなのかってこと」

「もちろんですわ。わたくし、光魔法ルーチェリエルでしてよ?」

「だからその……、大元の光魔法自体がお前ってことで良いのかな?」

「わたくしは光魔法でしてよ? 神聖なんですの。おーっほっほっほ!」


 ?????????

 うん??????? わかんなぁい??????

 声は心地いいのだけれど、会話の内容はぜんぜん心地よくないので、脳がおかしくなってきそうだ。


「えっとその……さぁ。あの二人――――魔竜と魔剣みたいに、意思を持った魔法ってことで良いのか?」

「うぅ~ん……? 正直そのあたりは、根性をもってしても分からないんですのよねぇ……。

 というよりもおそらく、わたくしもあの二体も、何故自分がここまではっきりと意識を持ったかは、分かっていないのではないかと思われますわ」

「分からない……か」


 ベルはまだ生物だから分かるけど。

 ヒナとルーチェは、そもそも生物としての概念にはカウントされていないものたちだ。


「でもそういえば……。物にも概念にも、何かしらの人格は宿るって言うのは、どっかで聞いたことがあるなぁ」


 どこで聞いた話だったかは忘れたけど。

 冒険者の中には、とてつもなく不思議な体験をした奴らもいるだろうし。そのあたりからの伝聞だったかもしれない。


「そのあたりは正直なんとも、ですわね。

 言葉を喋れてコミュニケーションをとれるようにはなっていますけれど、自身がどこまで何を知っているのかすら、あまり把握しておりませんもの」


 ルーチェは小さな歩幅のまま、優雅に歩きながら言葉を続けた。


「分かっているのは、自分自身の分類(・・)が魔法であるということだけ。

 まぁおそらく、主人が放った特大光魔法・ルーチェリエルが意思を持ったというものなのでしょうけれど――――確証はありませんわ」

「そうかぁ……。うーん、難しいなぁ。

 仮に正確な正体が分かっても、俺じゃあ理解できないかもしれないな」


 あははと笑うとルーチェもおほほと笑った。

 しかしその後、ぴたりと足を止めてルーチェは「旦那様」と静かにつぶやく。どうした?と顔を覗き込むと、大きくぱっちりとした瞳が、こちらを見返してくる。


「今の一連の話を、旦那様は理解なさったのですよね?」

「え? ま、まぁ……。『理解できない』ってことは理解したけど」


 俺の言葉に少しだけ俯いて。ルーチェは言葉を続けた。


「貴方様は、そんな『理解できない』……、得体の知れないわたくしたちと一緒に居て、本当に良いんですの?」

「うん? どういうことだ?」

「だって……、そもそもわたくしたちは、ヒトではないんですのよ? それなのに一緒に居るだなんて……」

「うーん……、そうだなあ」


 俺は腕を組んで考えた後、ルーチェに向かって言った。


「さっきも言ったけど、俺は人の気持ちを無碍にするのが嫌なんだ。その――――怖くて、な。あぁいや、……この話は別に良いんだけど。

 ともかく……、お前らは嘘をついてないと思ったし、純粋に気持ちが嬉しかったからさ」


 まぁそれにだ。

 わちゃわちゃしてるの、なんかかわいいし。とは、面倒になるので言わないでおくけれど。


「こうやって会ったのも何かの縁だしな。

 みんなで楽しく生きていければいいかな~……って感じなんだけど」


 やばい。ユルすぎたか?

 でも俺、正直複雑なコト考えられるほど、頭の出来はよくないんだよなぁ。

 世界や社会は複雑に出来てるからさぁ。日常生活くらいは簡単に生きていきたいのである。


「あっ……、ありがとう、ですわ……」

「お? お、おう……。どうした?」

「ううん……。なんでもない、ですの……」


 何故か俯いて、俺の服の端をぎゅっと掴むルーチェだった。

 困ったような顔が見えた気がしたけど……、口元、笑ってる?

 まぁ、喜んでくれてるなら、いいかな?


「よぉ~~~し! 気合いと根性、いただきましたわよ!

 ここからは光魔法・ルーチェリエル、旦那様のために精一杯頑張らせていただきますわッ!」


 凛とした力強い声がフロアに響き渡る。綺麗なおでこもきらりと光り、元気満々と言ったところだ。

 少しだけしおらしい空気を見せていたけれど、どうやら大丈夫っぽいな。

 ほっと胸を撫でおろすと同時、ガサガサドスンドスンと、多方向から色々な音が聞こえてくる。


「うん。分かってた分かってた。――――大声出せば、そりゃあモンスターは集まってくるって分かってたさっ!」

「おーっほっほっほ! さぁ! 全力全快で参りますわよッ!」


 俺たちを覆う、数々のモンスター。

 大小様々な魔物が、所狭しと集合していた。

 うん……。ヒナと行動していたときの、デジャブかな?







 というわけで、戦闘開始だ。

 トラブルはトラブルなんだが……それも三回続くと多少は慣れてくる。

 ヒナとベルのときはただただ驚くばかりで正確に『強さ』を感じることが出来なかったが、ルーチェの実力はしっかりと見届けてやれそうだ。


 剣、竜ときて――――魔法。

 ヒナは超速斬撃による各個撃破スタイル。ベルはダイナミックに飛び回りながらの広範囲殲滅。

 ルーチェは……どうだろう、魔法だからやっぱり、特大の魔法を撃ちまくったりするのだろうか。

 ピンチだとは感じつつも、俺だって魔法剣士だ。『本物の魔法』という存在から放たれる魔法に、胸が躍らずにはいられない。


「ルーチェ、正面から来てる!」

「ふふん……、いきますわよッ!」


 ミノタウロスと呼ばれる、オーガよりも更に筋骨隆々の巨体が迫る。大きな斧を両手で振り上げ――――そして一気にルーチェへと振り下ろした。

 それを彼女は……、


「は……、はぁぁぁぁ!?」

「フンッッ!!」



 真正面から、両の掌でどっしりと受け止めていた。



「イイですわねぇ……ッ! 滾ってきましたわよォッ!」


 豪奢なドレスと上品なツインテール――――に、とても不釣り合いな光景が、そこにはあった。


「えぇー……、ま、魔法……とは……、」

「根ッ性ッ! ですわぁぁぁッ!」


 小さな体のどこにそんな力があるのか。彼女は怒号と共にミノタウロスの斧をバキバキに粉砕する。


 幼女のぷにぷにしたカワイイおてて。

 外見はそのままだから脳が混乱する。


 流石にモンスターとしても、この状況は異常事態だったのだろう。巨体のミノタウロスは怯んだ表情を見せていた。そしてその隙をついて……一撃。ルーチェの放った飛び上がりアッパーが、大きな顔の顎へと炸裂する。


「根性アッパーッ!」

「グォォッ……!」

「イイ手ごたえですわッ!」


 揺らいだ巨体へと更に連撃。


「根性パンチ! 根性キック! そしてとどめの――――根性バックドロップですわぁぁぁッッ!!」


 アクロバティックな投げ技が炸裂する。

 巨体の両足を力づくでがしりと掴み、背中を逸らしながら宙を舞う。


「お~っほっほっほっほっほっほッ!!」


 巨体は頭から地面へ。

 ルーチェの身体は、美しきブリッジを描いていた。

 強烈な連撃。

 華麗なるバックドロップ。

 そうしてミノタウロスは、黒い霧となって消滅する。

 呆気に取られるのもつかの間。優雅なキメポーズを取っていたルーチェの元へ、更なる巨体が襲い掛かる。


「ガルルァァッ!」

「追加ですのね? 良くてよ、かかってきなさいッ!」


 それからもルーチェは、己の五体で戦っていた。

 殴る蹴る、投げる突き飛ばす、終いには頭突きまで。魔法の「ま」の字も無いような、完全格闘家(モンク)スタイルの戦闘方法により、この場を制圧せしめたのであった。


「―――いや魔法は!?」

「……? 相手の攻撃を受け止めるときには、多少は使いましたわよ?」


 何せ『ルーチェリエル』は防御魔法ですものと、彼女は一息ついて言う。

 いやそういうことではなくてさ。


「もっと魔法で遠くからとか、ド派手な光魔法でやっつけるとか、そういうのは!?」

「わたくしの武器は魔法ではなく『根性』でしてよ! お~っほっほっほっほッ!」


 高らかに笑うルーチェを、俺はどんな表情で見ていたんだろうなぁ……。

 お嬢様な外見、魔法という概念の人間化、優雅な立ち振る舞い、上品な高笑い。

 こんなワードの人物が……まさかのパワータイプだなんて思わないじゃん!?

 魔法使いとしての側面を持つ俺の、あのわくわくとトキメキを返せ……!


「はぁ……」

「――――で、見ていただけましたでしょう? わたくしの素晴らしい、『根性』!」


 驚きなのか気落ちなのか。

 そんな風に顔を伏せる俺に対して……目をきらきらさせながら、ルーチェは詰め寄ってきた。

 高笑いしている上品な笑顔とはまた別の、誉め言葉を期待しているペットみたいな、満面の笑みだった。

 うぐ……、か、かわいい……。


「ま、まぁ……、強かったし凄かったのは事実だな。

 うん、そうだな。よくやったぞ、ルーチェ」


 えらいえらいとヒナにやってもらったように、俺も真似して彼女を撫でてみる。

 またぞろ高笑いが始まるかと思ったが、ルーチェは頬を赤らめて「えへへ」と年相応の表情を見せていた。

 なんだかこっちまで嬉しくなってくる顔だ。そういう顔も出来るんだなぁ。


「……よ、よし、それじゃあ帰るか」


 ロリの沼へと陥りそうになる心を何とか沈め、俺は彼女とその場を後にした。

 ……ち、違うぞ! このドキドキは、父性が芽生えた的な感情だからな!? 






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