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プロローグ
完全に日が落ちた闇夜。
周りを山に囲まれた盆地。
轟々と辺り一面を燃やす炎。
瓦礫と化した家屋。
血を流して動かない人々。
そんな中、一人の少年が呆然と立ち尽くしていた。
「なんだ……これ……。……夢……?」
少年の目の前には一人の女性が倒れていた。
その姿を見つけた少年は、ふらつく足で近づくと、力なくしゃがみ込んだ。
「嘘……だろ……」
その女性は腰から下が瓦礫の下敷きになっており、元々白かったであろう服は真っ赤に染め上げられていた。
「起きてよ……」
少年は女性を起こそうと体を揺する。
すでにその体は氷のように冷たく動かなくなっていた。
少年の手にべっとりと鮮やかな血が付く。
生暖かい嫌な感触を感じた手をゆっくりと見る。
その瞬間、少年の中で何かが壊れた。
「―――――――!」
言葉にならない叫びが腹の底から溢れ出す。
辺りを暗闇が囲む火の中、少年の悲しい叫喚だけが響き渡っていた。