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僕の可愛い人

作者: 下菊みこと

僕はレオン。公爵令息だ。僕には可愛い人がいる。侯爵令嬢で婚約者のリリアンヌだ。とても大切で、大事で、手の届くところにおいて置きたい宝物だ。リリアンヌはとても泣き虫だ。そして優しい子でもある。身寄りのない子供たちの存在を知ったら泣く。奴隷の子供たちの将来を思っては泣く。そんなリリアンヌの涙を拭うため、僕は頑張った。必死に頑張った。お小遣いを全部投資に回して、増えたお金で孤児院を設立した。奴隷の子供たちも買い取って奴隷という身分から解放した。他にも優しいリリアンヌが泣くたびに、僕は頑張った。ひたすら頑張った。その度にリリアンヌは笑顔を見せてくれた。それだけで僕は報われた。僕の可愛い人。僕は君のためになら、なんだって出来るんだよ。


貴族学院に通う歳になった。リリアンヌと一緒のクラスじゃなくてショックだったが仕方がない。リリアンヌのクラスにちょくちょく顔を出す僕。でも、ある日から突然同じクラスの王女殿下からちょっかいをかけられるようになった。


『あんな地味な子より私の方が貴方に似合うわ』『私と一緒になればなんでも手に入るのよ?』うるさい女だ。王女殿下には婚約者もいるというのに、僕になんでそこまで…。面倒臭い。けれど無視も出来ないので突っぱね続ける他ない。最近、リリアンヌの様子がおかしい。やっぱり、僕のことで不安にさせたかな?それとも他に悩みがあるのかな?けれど四六時中王女殿下に付きまとわれているせいで、話をしに行く暇すらない。


…僕はこの時、王女殿下を無視してでもリリアンヌのところに行くべきだったと後悔することになるとは思ってもみなかった。


「リリアンヌが…自害した…?」


「正しくはしようとした、です。発見された兄君が治癒魔法を掛けて応急処置してくださったおかげでなんとか命を取り留めました」


「そんな…っ、なんでっ、僕に相談すらせずにそんなっ!」


「リリアンヌ様はその…王女殿下から酷いイジメを受けていたそうなのです。それで、王女殿下が張り付いていたレオン様に近付けなかったようで…」


「…イジメ?」


「はい。その…レオン様と別れなければ侯爵家を取り潰すと脅しをかけたり、クラスメイト達を嗾けて…制服を剥ぎ取り写真を撮るなど…」


「…」


「レオン様?どこへ?」


「…しばらく頭を冷やしてくる」


「…わかりました。すぐに戻られてくださいね。この後リリアンヌ様のご実家との話し合いもありますので」


「…」


話し合い、ね。どうせ婚約破棄、だろ。父上と母上は傷物にされたリリアンヌを受け入れたくない。リリアンヌのご両親はリリアンヌを守れなかった僕をもう信用出来ない。そういうことだろ。だったらもう、僕は生きる意味なんてない。最期に大立ち回りを演じてやるよ。


ー…


僕は今王城の前にいる。城門の前の衛兵を軽々とすり抜けて王城に攻め入る。


「さて、王女殿下を殺そうか。リリアンヌの傷ついた心がそれで癒せるとは思えないけど、せめて復讐くらいはさせてよね」


王城に攻め入る。僕は僕の家系に伝わる禁呪を使っている。一時的に身体能力を爆発的に高める魔法と、身体を霊体化する魔法。ただし、二つとも限界を超えて身体を酷使するため、この禁呪を使うと、一定時間が過ぎたらもう二度と身体は自由に動かせなくなる。まあ、どうせ生きる意味なんて無くなるんだから関係ないよね。


霊体化しているので誰にも見えないし壁もすり抜けるし宙にも浮ける。王城は広いが、禁呪のお陰でサクッと王女の私室に入れた。


「あーあ。あの女自害したのはいいけど生き残っちゃったかー。本当に目障りー…って、え、レオン!?どうしたの?どうやってこの部屋に?え、そのタオル…なに?…え、レオン?」


僕は霊体化を解くと王女の口にタオルを突っ込んだ。叫ばれたら厄介だから。そして叫べない状態からさらに拘束して抵抗出来なくした。そしてナイフで着ていたドレスをビリビリに引き裂いて、腹を割いて臓物をぶち抜く。胸を切り裂いてタオルの隙間から口に突っ込む。最期に全身の皮を剥いでやった。その後はそのまままた霊体化して家に帰った。部屋に戻ると汚れた服と使ったナイフを魔法で処分して、シャワーを浴びて綺麗な服を着てベッドに横になった。ちょうどそこでタイムオーバーだったらしく身体が動かなくなる。


「レオン様、入りますぞ。リリアンヌ様のご両親と兄君がいらっしゃいました。話し合いの場に行きましょう。…レオン様?」


「すまない。身体が動かないんだ」


「なんですと!?まさか、レオン様…!」


「…車椅子があるだろう?乗せていってくれ」


「…なんということだ。旦那様方にどう言えばいいやら…」


そして車椅子に乗ってリリアンヌのご両親と兄君との話し合いの場に向かった。リリアンヌのご両親と兄君は目を丸くしていた。父上と母上は別の意味で目を丸くしている。やりやがったな馬鹿息子という目で睨まれるが僕にはもはやどうでもいい。


「レオン君?どうして車椅子に…」


「…訳があって身体が不自由になってしまいました。こんな不甲斐ない姿で申し訳ないです」


「まあ…!そんな…」


ちなみにうちの禁呪は王家すら知らない極秘事項だ。多分、両親と執事以外にはシラを切り通せばそうそうバレない。


「…お前はせめて相談くらいせんか馬鹿息子」


「なんのことかさっぱりわかりませんね」


リリアンヌのご両親と兄君はなにやら話し合っている。やっぱり婚約破棄の話だろうか?


「…レオン君」


「…はい」


「娘は傷物にされたが、それでもレオン君の役には立てるはずだ。レオン君も色々あったようだが…その、娘を予定通りに貰ってくれないか?」


「…え?」


「息子はこんな身体だが予定通り爵位を継がせる。リリアンヌさんには是非ともこの馬鹿息子を支えてもらいたい。こちらこそよろしく頼む」


「え、あの、…リリアンヌと結婚していいんですか?」


「もちろんだとも!娘はレオン君と結婚出来ないなら生きている意味がないとまで言ってな。仕方がないから結婚の予定を前倒しして貰おうとここまで押しかけてしまったのだが…」


「ありがとうございます!こんな身体ですが、リリアンヌは大切にします!絶対幸せにします!」


「そうか!ありがとう、レオン君…!」


そして僕はリリアンヌと結婚出来ることになった。両親からは物凄いお叱りを受けたが、後継が僕しかいないため結局許された。王女の件については特に疑われることすらなかった。こんな身体だしね。


「レオン様…レオン様に嫁げるなんて、私、幸せです」


「僕もリリアンヌと一緒になれて幸せだよ」


「私、こんなに幸せでいいんでしょうか…」


「もちろんだとも。僕がもっと幸せにする。…こんな身体で言っても説得力ないかもだけど」


「…!そんなことありません!レオン様は素敵な方です!どんな身体になってもそれは変わりません!」


「リリアンヌ…愛してる」


執事の手を借りないと満足にリリアンヌを抱きしめることすら出来ないが、それでもリリアンヌと一緒になれて幸せだ。僕はこれからリリアンヌに迷惑もたくさんかけるだろう。けれど、その分その倍以上リリアンヌを守って幸せにする。僕は心からそう誓った。

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