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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

血鏡~願うなら~

血鏡~願うなら~最終話

作者: SAY

 辺りが暗くなり落ちる感覚は消え、気付くと薄暗い世界に立っていた。足元は私がいる場所だけ明るく、灰色の草が見えた。

 辺りを確認しようと歩き、見渡しても何もない世界を彷徨う。あるのは灰色の草原、人の気配も建物も無い、私一人だけ。


 歩いても歩いても同じ景色で、何かが見えてくることも変わることもない。私は何処へ向かっているのか分からない、もしかしたら2度と出られないのではと思ってしまう。


(閉じ込められたのかな。私は柳子に騙されてた?)


 柳子は願いを叶えると言ったけど、私を戻すとは言ってない。これでは、1ヶ月前に戻す約束なんて叶えたかなんて分からない。


(……この曲は…)


 歩き疲れ座り込んでいると、聞き慣れた曲が遠くから聞こえた。曲の流れる方へ歩いてみる、すると光が見えてきて私は走り出した。


(今は、あの光が頼り。お願い、消えないで)


 光が突然近付いてきたので立ち止まり目を閉じると、曲が大きくなり目を開けた。

 視界に入ったのは天井だった。見慣れたカーテンが見えて、此処が自室だと気付く。


 曲が流れている方を見た。毎日聞いている目覚まし時計のメロディー。


「此処は、私の部屋?」


 ベッドから起き上がりカーテンを開くと、外は雪が降り、庭は雪で積もっている。3月に積もる雪を見るのは、この地域では珍しい。


(確か私、博物館にいて。館長に殺されそうに…)


 ハッとして、私はテーブルに置いた携帯を掴み日付を確認する。壁に掛けてあるカレンダーも確認して、確かめる為に下に降りた。


「おはよう千波。階段をかけ降りるのは危険だぞ」


「そうよ、怪我をしたらどうするの?そんなに慌てて、悪い夢で寝惚けたのかしら」


「あっ……、えっと…。この歳で寝惚けて階段をかけ降りたりしないよ」


  キッチンには母が立ち、リビングには父が座っていた。


 携帯の日付は一ヶ月前、入院しているはずの二人は何事も無かったように私に挨拶をしている。


「おはよう、お母さん、お父さん。今日は早く行かなきゃいけない用事があって、ちょっと寝坊して慌ててたの。だから朝食は途中のコンビニで買うから要らない」


「そう?慌てすぎて、怪我をしないでね」


「うん」


 良かった、いつものお母さんとお父さんだ。本当に1ヶ月前に戻ったんだ。


 二人を見て安心していると、不安が再び頭を過る。

 1ヶ月前に戻ったからと、鏡の解決になったとは思えない。また館長たちを惑わす夢を見せたら……。


 私は急いで職場に行き 事務所に入る、そこには館長と奥さんが仕事の話をしていた。

 デスクの横には段ボールが数個置かれている。その中に鏡があると思うと、心臓の音が大きく、警告音の様に近づいてはならないと鳴り響く。


「ちょうど良かった。平井さん、そこの美術品を一階のギャラリーAに運んでくれないかしら」


「ギャラリーAってことは、絵?」


「えぇ、そうよ。絵なんだからギャラリーAに決まってるじゃない」


 中身を確認すると、1ヶ月前と同じ絵画が梱包されたのが数枚と工芸品等や美術品が入った箱が数個。同じなのだから鏡が届かないわけがない、それなのに どの箱にも鏡が見付からない。

 配送された美術品リストを確認すると、確かに鏡も入っていた。他にも届いていない美術品もある。


「あの…リストの中の数と合いませんが」


「実は平安時代の貴族が使用していたと言われる食器や鏡、櫛と着物が泥棒に盗まれたらしいんだ。我々も気を付けないと」


「経営に影響しそうね」


 二人の姿を見ていると、あの夜は嘘で夢だったのでは、呪いの鏡なんて存在しなかったのではと思えた。



 数日が過ぎ、美術博物館に遠足で来ていた浩さんと孝君が夏生さんに会いに来た。浩さんはオドオドしながら夏生さんに声をかけ、孝君は夏生さんを見付けると駆け寄り、ギュッと抱き締める。

 孝君の笑顔は母親に会えたことへの喜びで、とても幸せそうに見える。


「えっ?離婚届、出してなかったんですか?」


 昼食に夏生さんと一緒になり、孝君と浩さんの話を聞くことが出来た。今は一緒に暮らしていて、浩さんと前より仲が深まったらしい。


「出すわけないでしょ、喧嘩しただけ。お互い仕事をしていて、それなのに私が定時で帰れて、孝の送り迎えが出来るからズルいと言い出したの」


「送り迎えがズルい?」


「酔って帰ってきたと思ったら突然ね。旦那も子供なのよ」


 私は苦笑してしまった、もっと酷い喧嘩を想像していたから。浩さんは孝君と夏生さんの仲の良さに、嫉妬して、自分も入りたかったのだろう。


 それが酔ったことで暴走して、失敗した。お酒を控えるきっかけとなったと、夏生さんは笑って言った。


「また一緒に暮らせて、孝君良かったですね」


「まぁね。旦那もあれから大変だったみたい。迎えに行くのが遅くなったり、休日出勤にかり出されて会社に連れて行けなくて困ったみたい」


 3人も幸せな未来になって良かった。まだ鏡のことで安心出来ていない私にとって、あの日の人達に悪いことが起きていないことが嬉しい。


 数日が経ち、博物館で窃盗をしていた集団が捕まった。海外のコレクターに売り捌いていた集団らしく、発覚したのは一人の男の死。

 アパートの一室で火災が起き、変死体として見付かったとニュースで知った。


 部屋の中にあった仏像が盗まれた物と判明したことで、博物館の展示物へと繋がったのだ。

 もしかしたら あの鏡も有ったのかもしれない、そして誰かが願いを叶えてもらうために仲間を柳子に殺させた。


『また会いましょう』


 あの言葉が頭に浮かぶ、夢だと思っている柳子の言葉が。


「私は二度と会いたくない」


「誰に?」


 横にいた夏生さんに私は「悪夢にです」と答えた。

 私の長い悪夢だったのなら それでいい、もう2度と鏡と関わりたくないと思っているから。


「すみません、平井千波さんに会いたいのですが」


 名前を呼ばれ振り返り私は驚いた。母と電話する日も無かった、私に訪ねてくる日より早い。でも確かに彼は私の前に現れた、少しの未来を変えて。


 彼から同じ話を聞くかもしれない、鏡の話も彼の父が脱走したことも。だからと今の私は覚悟が出来ている、彼からどんな話が出ても前に進める。


「私が平井です。初めまして、二宮さん」


「何で俺を知ってるんですか?」


 不思議そうに見る彼に微笑み「知ってますから」と私は答えた。

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