第7話:女神からのプレゼント③
遅くなりました、第7話です。
朝早く、まだ日が出ていないころ。
記記とミラは、あと2人のFランク勇者の部屋へと向かっていた。
記記と残りの2人は、同じFランクであるにもかかわらず部屋が大きく離れていた。(Sランク〜Eランクまでの勇者の部屋は、ランクごとに大体同じ場所に位置している。)
「……いやーー、でもミラが2人の部屋の場所覚えてて助かったよ……」
「感謝されるようなことではありません。……そこの角を右です!」
「あっ、あった!」
Fランク3人の部屋は全てバラバラな場所に位置しているため、2人のうちどちらかの部屋に先に行くことになる。(記記とミラの2人で手分けをすることは、ミラしか部屋の位置を覚えていないので不可能だ。)
どちらも早く助けなければならないが、とりあえず力の弱い女子を優先させようということになり、Fランク勇者の女子ーー佐藤 花の部屋へと記記とミラは向かっていた。
「この部屋で間違いない?」
「はい、確かです。」
「じゃあノックするよ……佐藤さん!小塚です、大丈夫ですか!!」
記記は佐藤の部屋のドアをノックし、中にいるであろう佐藤へと呼びかける。
しかし、少し待っても返事はない。
「寝てるだけなら良いんだけど……」
「……今の大声で何の反応も示さないのは不自然だと思います。中に入りましょう!」
「でも鍵があるし……」
記記は鍵がかかっていることを確認しようとドアノブを回した。
「あれっ?開いてる……」
ドアに鍵はかかっていなかった。
「……入ってみよう。」
「はい……」
記記とミラは、残酷な想像を捨て、覚悟を決めて部屋へと入った。
するとそこにはーー
「えっ?誰もいない……?」
誰もいなかった。
(どういうこと……?)
ミラは考える。
(もしサトウさんが奴隷の男に殺されているとしたら何らかの形跡は残っているはず。……でもこの部屋はぱっと見特に無自然な所はない。)
部屋は綺麗なままだった。
これを見て、ここで殺人が起きたと想像する人はいないだろう。
「……でもサトウさんはどこに?」
トイレにもいない。
「あっ、ミラ、何か分かったことありそう?」
ここで記記がミラに話しかけた。
「いえ……、少なくともサトウさんと奴隷の男がここにはいないということしか……。」
「じゃあ、とりあえずもう1人の方へ行ってみよう。佐藤さんはたまたま今どこかに出かけているのかもしれないし。」
「はい。」
こうして記記たちは佐藤の部屋を後にした。
*
「どういうことだ……?」
記記たちは、もう1人のFランク勇者の男ーー高橋 大地の部屋へと来ていた。
「……これは、偶然ではないかもしれません。」
高橋の部屋には佐藤と同様に鍵がかかっておらず、中に入ると誰もいなかった。
「何かあったのかも……。」
記記は最悪の事態を想像する。
「この部屋も何の痕跡も残っていません。とりあえずこの部屋から出ましょう。」
「うん……」
結局、何も分からず自分の部屋へと戻った記記だったが、2人のことが気になって眠ることもできず、朝の集会の時間までミラと喋りながら過ごした。
*
朝の集会の時間10分前になり、各部屋へと放送が流れた。
「よしっ、じゃあ行こうミラ!」
記記は、ミラに集会に行こうと声をかけた。
しかし
「いえ、私は行きません。朝の集会へ奴隷を連れていくことは許さないとあのレックスとかいう男が言っていました。」
「あっ……、そうだっけ……?」
「コヅカ様、しっかりしてください。」
「う、うん……」
記記は、自分に呆れながら静かに部屋を出ていった。
*
集会場は王城の食堂である。
記記が食堂に着くと、先に来ていた秀助が記記の方へとやってきた。
「あっ、秀助くんおはよう。」
「記記、良かった、ちょっとこっち来てくれるか?」
秀助は何やら安心したような表情になった。
「どうしたの?」
「いいから来てくれ」
そう言って、秀助は記記を食堂の端の方へと連れていった。
「……実はな、もう時間ギリギリなのに佐藤さんと高橋君がまだ来てないんだ。」
「えっ」
「集会に遅刻したら殺す的なことをあのレックスとかいう大男が言ってただろ?それなのにこんなギリギリの時間に来るのはその言葉を忘れてるお前くらいのはずなんだ。」
「……」
「それに、あれを見てくれ。」
秀助は、記記たちとは反対の端に目を向けた。
「あれって……」
そこには、本来いてはいけないはずの奴隷が2人。ーー佐藤と高橋の奴隷がいた。
「確か集会には奴隷を連れてきちゃだめなんだよね?」
「ああ、お前が覚えているとは思わなかった。……どうせ後で奴隷に教えてもらったんだろ?」
「……」
「図星か。まぁ、それは置いておいてだ。ーー本人たちはいないのにいちゃいけないはずの奴隷だけがいるなんておかしいだろ?しかも2人同時にだ。何かあったのかも。お前は同じランクFだけどなんか知ってるか?」
「ううん……、実は僕も2人を探してて……、部屋にいなかったんだよ。」
「部屋にも……?どうなってんだ?」
『ゴーーーン』
鐘が鳴った。
「やべっ……、集会が始まるぞ。みんな席に着け!!!」
秀助が大声でみんなに呼びかける。
その声を聞き、クラスメートたちは喋るのをやめて一斉に席に着く。
当然、秀助と記記も同様に決められている席に座る。
(結局、佐藤さんと高橋君は来なかったけど……、やっぱり何かあったんじゃ……)
「おーー?なんだなんだ以外と大人しくしてんじゃねーか。やればできるんだったら最初からやれや。」
あの男の声が聞こえた。
「よしっ、じゃあこれから集会を始める。お前らはこれから毎朝、この集会で予定を話されるから絶対に欠席しないように。」
あの男ーーレックスが話し出した。
「さっそく今日の予定を伝えーーたいのはやまやまな・ん・だ・が。お前らに残念なお知らせをお前らに伝えなければいけない。」
レックスは、何やら箱の様な物を従者から手渡たされると、ニヤリと嗤った。
「気付いているだろうが、お前ら全員参加のはずなのに2人少ないよなぁ。なんでだと思うぅ?」
レックスは嗤いながら、全員に問いかけた。
みんなが息を飲む。
「答えは……これだ!!」
レックスは、箱の中身を引きずりだした。
「……う゛っ!?おえ゛っ!!」
何人かが吐いた。
箱の中から引きずり出されたのは、"昨日まで佐藤花だった"モノ、そして"昨日まで高橋大地"だったモノだった。
記記もたまらず口を塞ぐ。
(なんてことを……)
佐藤花だったモノは、その表情を見ているだけで苦しさが伝わってきた。
高橋大地だったモノは、その肉体を見ているだけで自分が刺されたと錯覚した。
しかも、それらーーいや、2人は、箱に入るようにバラバラにされていた。
もはや、普通の精神を持っているならば一度見てしまったら二度と忘れることは出来ないだろう。
クラスメート全員が静まり返り、目の前の現実から目を背けている中、この場にいるにも関わらず笑っている者が2人いた。
佐藤と高橋の元奴隷の2人だ。
「ふんっ、これで俺たちは自由ってわけだ。とっとと俺を解放しろ。」
「私も忘れないでくれますかぁ〜(笑)」
「そうだな、ランクFとは言え勇者を倒したのだから当然報酬が渡されることになる!なんと、報酬は女神様直々に渡されることになっているぞ!!なんとも羨ましい。」
「なら女神早くしろよ、マジで。こんな所になんかいたくねーんだからよ。」
「私もこんな敵だらけの所になんていたくないわぁ〜」
「……これより女神様が降臨される。」
レックスがそう言うと、食堂が一気に明るくなった。
全員、眩しくて目を閉じる。
少しの時間が経過する。
光が収まり、全員が目を開けると、目の前にあの女神がいた。
「皆さんご機嫌よう。早速ですが奴隷の2人には報酬を差し上げましょう。」
「おうっ、遅せえんだよ!!とっとと奴隷から解放しやがれ!」
奴隷の男がそう言うと、女神は意外な反応を見せた。
「?……何を言っているのですか?」
「はぁっ?とぼけんじゃねーよ!!俺たちが勇者を殺せたら自由にしてくれるって言ってただろーが!!」
「ああ、そのことですか。ええ、約束の通り2人を自由を保障しましょう。」
「ならとっとと奴隷から解放しやがれ!!」
女神は、納得のいった表情を作り、奴隷の男の言葉にこう答えた。
「そういうことですか。どうやら解釈違いのようですね。私は確かに自由を保障するとは言いましたが、奴隷から解放するとは一言も申し上げておりませんよ?」
「は?」
「へ?」
奴隷の男と女は、訳がわからず固まった。
「貴方達2人は殺人鬼ですからねー、流石に奴隷から解放するのは危険すぎます。私が言った自由とはですね、こういうことです。」
「……う゛っ、があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!?!?!?!?!?!?!?」
突然、奴隷の男が叫びだした。
そして、そのまま全身を押しつぶされて絶命した。
体はいびつに曲がり、あらゆる場所から血があふれ出している。
「ひっ!?いやぁぁっ!!!」
奴隷の女が悲鳴を上げる。
「私は、死こそが大いなる自由であると考えていましてねぇ。ですから2人には私の最上級の自由を与えましょう。」
「いやっ!いやぁぁあ゛あ゛あ゛っ!?」
ブシュッ
生々しい音が食堂に響く。
奴隷の女は、男と同様何かに柔らかいもののように簡単に潰され、周囲は赤黒い液体で満たされる。
「さてと」
女神が記記を見た。
「私がFランク勇者に与えたチャンスを貴方は見事ものにしましたね。良かった良かった。」
(は……?)
「貴方達に渡した3匹の奴隷は能力が非常に高い。もし奴隷が一夜のうちに主人を殺すことができなければ奴隷は一生主人に逆らうことができなくなり、Fランク勇者の仲間とは思えないハイスペックな奴隷をこき使うことができる。逆に、奴隷ごときに殺されてしまう勇者ならば初めからいらないというわけです。小塚記記、貴方は生きるに値すると判断されたのです!」
「何を……言ってるんですか……、人の命を何だと思っているんですか!!」
「おやおや……、そこはもっと喜ぶところですよ?自分だけは生き残ることができたんですから。あと一つ言っておくと、私は神です。人の命が何なのかなど考えたこともありませんね。人間のことを尊重する神がいると思いますか?」
「……っ!!」
「もう、そんなに睨まないで下さい。……貴方も自由が欲しいのですか?」
記記は黙るしかなかった。
ここで女神をどうにもできない自分に心底腹を立てながら……。
「はいっ、では私の出番は終わりです。ではまたいつか〜」
そして、女神は消えた。
この後、記記、秀助など、何人かの生徒がブチ切れそうになったが、三代が大声で黙らせた。
結局、こんなことがあった後で朝食がまともに食べられるわけもなく、作業のような食事の時間があっという間に過ぎていった。
ー第7話 完ー
お読みいただきありがとうございます。
前回、これからは週一回更新(日曜日)とか言っておいて結局1週間以上経っていたわけですが、今度こそ日曜日に更新したいと思っています。(更新できるとは言っていない。)
良ければ私のもう一つの作品である"不殺の賢者"の方もどうぞ。こっちはダークな要素があまりない作品になっています。
この作品を読んで面白いと思ってくれた人は、評価など、してくれると嬉しいです。