第6話:女神からのプレゼント②
遅くなりました。第6話です。
「ここが僕の部屋……?」
僕が案内された部屋は、6畳くらいの部屋で、ちゃんとトイレもある。
今までの扱いから、Fランクの僕にも部屋が与えられたのは衝撃だった。
……てっきり野宿でもさせられるのかと思っていた。
「さてと……、確かご飯は各部屋に運ばれてくるんだったよな。それまで何してようかな……。あっ、そうだ!自己紹介をしておきませんか?僕の名前は"小塚 記記"です。みんなに呆れられるくらい物忘れが激しいので、これからサポートしてくれると嬉しいです!あなたの名前は?」
僕がそう聞くと、奴隷の少女はこう言った。
「……"ミラ"です。」
「ミラさんって言うんですね。……絶対忘れないように気をつけないと……。」
「……」
「あ、あれ?えっと……、これからよろしくお願いします。」
「……ミラ"さん"はやめて下さい。私はあなたの奴隷ですから。呼び捨てにして下さい。後、敬語もやめて下さい。」
「えっ、あ、分かったよ。じゃあミラ、これからよろしくね!」
「……」
その後、ミラは一言も発しなかった。
*
「夕食を届けに来ました。」
そう言われて運ばれてきたのは、パン一個とスープだ。
きっと高ランクの人はもっと良い物が与えられるのだろう。
でも、ご飯なしよりは全然良いのだけど。
……ただ、少し気になったことがある。
ご飯が1人分しかないのだ。
「あ、あのーー僕たち2人なので2人分貰えませんか?」
「申しわけありませんが、奴隷の分の食事は用意されておりません。」
えーー……
そう言い残し、夕食を届けた男はすぐに去っていった。
「あーー、えっと……、これ全部ミラが食べて良いよ。僕はそんなにおなか空いてないけど、ミラはおなか空いてるんじゃない?見た目的にもあまり食べてなさそうだし……。」
ミラの体は決して健康的ではない。
見えている腕や足は痩せこけ、僕の力でも折れてしまいそうだった。
「いえ、その食べ物はコヅカ様が食べて下さい。奴隷の私は仮に餓死しても特に問題はありませんから。」
「いやいやそんなことないって!そんなこと言ったら僕だってこの国の奴隷なんだから。だから食べて!」
「結構です。」
頑固だなあ。
「僕は君が死ぬことなんて許さないからね!」
そう言って僕は、パンを彼女の口に無理矢理押し込んだ。
「……ふがっ!?」
見たところ彼女は空腹だ。おなかを何度か押さえていたし、僕が食べて良いと言ったときにほんの少しだが表情が明るくなったのだ。
「僕たちはこれから一緒に冒険する仲間なんだから!しっかり食べて!」
「……」
僕が無理矢理パンを押し込んだので、少し苦しそうなそぶりを見せたが、その後すぐにパンをすごい勢いで食べ切った。
その後で、彼女は"あっ"とでも言いたげな表情でこちらを見た。
「やっぱりおなか空いてたんじゃないか。このスープも食べて良いよ。」
「……っ、申しわけありませんでした。久しぶりの食事だったもので……。」
「だから良いってば。それよりこのスープも食べなよ。パン食べたらさっきより顔色良くなったよ。でもちゃんと水分も取っておかなくちゃ。」
「いえっ、私は結構です。」
「もう、ほんと頑固だなあ。じゃあこうしよう!」
「……はむ!?」
僕はスプーンでスープをすくい、そのままミラの口へと運んだ。
「食べないならこうやって食べさせてあげるね。」
「た、食べます!自分で食べれます!」
こうして、僕は彼女にスープを食べさせることに成功した。
*
……あれっ?
よく考えたら僕結構恥ずかしいことしてる?
*
ーーその日の夜。
僕の部屋は広さの関係上ベットが一つしかないので、体があまり強くなさようなミラがベットで寝るべきだと言った。
しかし、ミラは断固拒否した。
結局、最後は2人の妥協案ということで2人で一つのベットで寝るということになった。
風邪でも引いたら大変だ。
この世界の医学がどこまで発達しているのか分からないため、ちょっとした風邪でも死にいたる可能性もあるのだ。
……それはさておき、
(よく考えたら僕女子と一緒に寝るなんて初めてだ。ちょっと緊張してきた……、まぁ……、寝るだけだし気にしてもしょうがないか……。)
結局、僕は緊張を忘れてすぐ寝てしまった。
……どの世界にいても僕は僕のようだ。
*
その日のよる遅く、記記やクラスメートが寝静まったころ。
その時を待っていた者が3名。
内2人は、ベットでぐっすり寝ている自分の主人を見て静かに嗤っていた。
主人が起きないようそっと近づき、女神からの任務を果たすために動いた。
*
他の2人が動き出した中、最後の1人は動けずにいた。
ーー最初はとっとと、迷いが生まれる前に自分の任務を果たすつもりだった。
しかし、
(この人を見ていると何故かそれを躊躇ってしまう。)
それを達成してしまえば、私は助かるのだろう。
でもーー
*
そのころ、他の2人はというとーー
「……これで私は自由だわぁ〜」
2人の内1人は、自分の主人の首に短剣を突き刺していた。
ベットが紅く染まっていく。
「……あ゛がっ!?」
主人ーー男子生徒は、何が起こったのか分からないまま一瞬声を発した。そしてーー。
一方、もう1人は主人に気づかれてしまった。
「……っ!?いやっ、何!?」
だが、
「お前は俺のために死ぬんだよ。」
男は女子生徒の首に掴むと、そのまま信じられないような力で首を締め付けた。
「……っ、ん゛っ!!誰……かっ……」
女子生徒は必死に助けを求める。
しかし、それに気づく者は誰一人としていないのだ。
そしてーー
「…………」
「ふう……、これでようやくこのクソみたいな生活から解放されるぜ。女神の野郎には感謝しねーとな。(笑)」
*
……駄目だ。
私にはできない。
例えこれで自由になったとしても、きっと後悔することになる。
少女は、手に持った短剣をしまおうとした。
ーーその時。
「あ゛っ!?がぁ!!」
(何これ……体が勝手に!?)
全身が痛い。そして、短剣をしまおうとしたはずの手が、再び強く握られる。
(いやっ……、待って!!)
体が勝手に動く。
短剣を持った手はそのまま主人の首へと向けられる。
その時、誰かーーいや、あの女神の声が聞こえてきた。
"貴方達に拒否権はありませんよ?"
彼女ーーミラは確信する。
自分は洗脳されている。
そして、彼女は自らの意思に反して、主人の首に短剣を容赦なく突き刺した。
*
ミラはしばらく目を開けることが出来なかった。
きっと今目の前には悲惨な光景が広がっているのだろう。
しかし、目を背けることはできない。
彼女はゆっくりと、目を開けた。
(……えっ?)
だが、目の前に広がっている光景は、予想外のものだった。
突き刺したと思っていた短剣は、気付くと手から消えていた。
そう思ったそのとき、知らない声が聞こえた。
「あの女神、ずいぶんと物騒なことさせるじゃねーか。」
「えっ」
彼女の前に立っていたのは、長い青髪の美少女(?)であった。
「今回はお前の意思じゃなかったみてーだし、許してやるよ。……あんたを殺したりなんかしたら"こいつ"が許さないだろうしな。」
「あっ、あなたは?」
「?……、ああっ気にするな。俺はこの体をこいつと共有してるただの……。……それより、あのゴミ女神の洗脳は解いてやったから安心しな。じゃーな。」
そう言って、彼女(彼?)は消えた。
いや、消えたというよりも、元に戻ったと言った方が正しい。
ミラの前には、代わりにさっき殺してしまいそうになった主人が立っていたのだ。
「これって……」
ミラがそう呟いた瞬間、立っていた主人はそのまま倒れ、頭を強打した。
ものすごく嫌な音がした。
「コヅカ様!?」
*
「うーーん、よく寝たーー。」
朝早く、昨日の夜の出来事などつゆしらず、のんきに小塚記記は起きた。
この世界にも太陽と同じような物があるのかは知らないが、まだ外はあまり明るくなかった。
「あれっ、ミラは?」
一緒のベットで寝てたはずなんだけど……。
いつの間にか居なくなっていた。
「あっ、起きたんですね!!」
と思ったらトイレに行っていたようだ。
「昨日頭から倒れて血がでたんですが大丈夫でしたか?」
「ああ……、えっ、どういうこと!?」
その後、僕はミラからいろいろ説明してもらった。
そして、一瞬でも殺そうとしたことを謝罪してくれた。
「青い髪の美少女?僕には何のことだかさっぱり……」
「その方は体を共有してるだかなんだか言ってましたよ。」
「うーーん……」
よく分からん。
「あっ、そんなことより、頭を打ったとき心配してくれてありがとう。包帯も巻いてくれてる!今はもう大丈夫だから安心してね。」
あっ、あともう一つ。
「でも良かったの?僕を殺せば自由を保障するって女神様から言われたんでしょ?」
どうも彼女は、無実であるにも関わらず"殺人"を犯したとして犯罪奴隷にされたらしい。なんでも友人に騙されたんだとか。
そのせいでろくに食事も取れないわこき使われるわで大変だったそうだ。
そんな中、女神にたまたま選ばれ、『主人となる勇者を殺すことができたらこれからの自由を保障する』と言われたのだとか。
女神様は一体何のために?
「それより、君の他にもそう言われた奴隷っているの?いるとしたらマズいんじゃ……。」
「はい。もしかすると、私と一緒にランクFの方たちに渡された奴隷もそうかもしれません。
「……、それってマズいよね?」
「……もし、他の2人が犯罪奴隷で、殺人鬼などだった場合、……もう手遅れかもしれません。」
マズい、早く助けに行かないと!!
ー第6話 完ー
お読みいただきありがとうございます。
本当は日曜日に更新しようと思っていたのですが、スケジュール的に無理でした。
これからはなるべく週一更新(日曜日)にしていきたいと思っています。
これからもよろしくお願いいたします。