第5話:女神からのプレゼント①
遅くなりました。第5話です。
寺田さんの件の後、僕たちは状況理解のための時間を与えられた。
正気を失っていた秀助君も少し落ち着いたようで、普通にとまではいかなくとも、それなりには話せるくらいになっていた。
ちなみに僕は、ずっと秀助君のそばにいる。秀助君がそれを望んだからだ。
彼が言うには、「お前を見てると凄く落ち着く。」とのことだ。
なぜ僕を見ていると落ち着くのかはわからないが、落ち着くのならまあ良いのだろうか……?
……それはともかく、僕たちの置かれている状況を理解し、これからどうしていけば良いのかを考えるのが最優先だ。
*
今、僕たち1年A組が置かれている状況について少しずつ分かってきた。
大雑把にまとめると、こんな感じだ。
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①僕たち1年A組の生徒は、元いた世界とは違う世界に来てしまった。
②①は、女神が僕たちに魔王を倒させるために僕たちを召喚したから。
③僕たちは女神とその仲間たちの奴隷である。
④測定の結果によって扱いが変わる。
⑤屈強な例の男に"寺田未来"が殺された。
⑥自分は最低ランクの一つ下の"Fランク"である。
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今分かっているのはこのくらいだろうか?
考えれば考えるほど自分の記憶に自信が無くなるが、秀助君や三代にも聞いたので間違いないはずだ。
……間違いないはずである。
さて、確か僕たちに与えられた時間は2時間だったはずだ。あと1時間ってところだろう。
この1時間でみんなだいぶ落ち着いたようで、今この空間は割と静かだ。
ーーそんなことを思っているのと、僕と秀助君のもとに三代がやってきた。
「だいたいクラスのやつには状況を理解させたわ。男子もね。まぁ、私が理解出来てる範囲ではあるけど。」
「そうか……、すまない。本当なら男子は俺がまとめるべきなんだが……。」
「気にしなくて良いわよ。誰だってあんなことされたら正気じゃなくなるわ……。」
「あっ、えっと、三代のおかげでみんな落ち着いてるみたいだね。やっぱり三代はすごいな〜。僕も何か手伝えたら良いんだけど……。」
「ふっ、あんたは森君のメンタルケアだけしてれば良いのよ。あの状態の森君を正気に戻したのは紛れもなくあんたなんだから自信持ちなさいよ。」
そう言って三代は僕のほっぺたを両手でつねった。
「い、痛いって!」
*
ー王城"会議室"ー
魔術師長の"ミカル"は、騎士団長の"レックス"ーー例の口が悪い男に向かって怒りをあらわにしていた。
「おいレックス!お前どういうつもりだ!子供たちをしっかり見ておいてくれると言ったから僕は君に僕たちのいない時間を任せたんだぞ……。子供を殺すことはしないと約束したはずだ!」
「おいおい、いつ俺がそんな約束したっていうんだよ?知らねーなー。それに、こうしてやらないとゴミ屑どもは自分の立場が理解できないだろうからな〜。これからも教育のためならどんどん殺していくぜ。」
「……レックス、貴様正気か!?」
「ああ、俺はいたって正気だぜ?ーーおっと、もうこんな時間か。じゃあ俺はあのガキどもに女神様からのありがたい"プレゼント"を渡す必要があるからな。」
そう言って、レックスは会議室を出ていった。
*
男が、放置されている"寺田未来"だったものを丁寧に回収していく。
勇者たちは違う部屋に移動したため、この部屋には男を除くと誰もいない。
男ら、特殊な魔法で死体を残さず回収すると、こう呟いた。
「全ては平和のために。」
*
ちょうど2時間くらいたった頃、僕たちのいる部屋に例の屈強な男が入ってきた。
クラスメートの間に緊張感が漂う。
「よーーし、お前らようやくおとなしくなったな。お前らがゴミだから俺が自己紹介する時間が取れなかったからなぁ、今ここで自己紹介を行うことにする。俺の名前は"レックス"。偉大なる女神"ミラー"様よりこの国の騎士団長を任されている。
つまりーー俺はお前ら勇者奴隷のいわば監督だというわけだ。俺の言うことは女神様の言うことだと思ってよく聞くことだ。命令に逆らうことは当然許されない!」
あの男ーーレックスというのか。
……なんて自分勝手なんだろう。自分勝手な女神が任命したからだろうか?
「さて、お前らゴミの臭いに耐えてまでここにいる理由は他でもない、女神様からお前らにプレゼントを渡すように頼まれたからだ。」
「プレゼント……ですか?」
「そうだ。女神様からのだ。ありがたく貰うことだな。……ああ一応言っておくが、このプレゼントもランクによって異なる。ランクSのやつは奴隷とは思えないほど豪華なプレゼントが与えられることになるが……、ランクの低いやつーー例えばランクFのやつのプレゼントはどんな物だと思う?(笑)もしかしたらさっき潰したランクGのゴミのようなことにならないとも限らないぞぉ。プレゼントとは言ってもお前らにとって良い物とは限らないからなぁ。ハッハッハッ!(笑)」
ああ、まただ。
男は嗤っている。
僕たちを小馬鹿にするような目、人を人と思っていないことを隠そうともしない言動。
……こんなのは初めてだ。
人の事をここまで嫌悪するのは。
彼の言動一つ一つで腸が煮えくり返る。
これが殺意なのだろうか?
僕は、クラスメートを人として扱わないあいつらを、クラスメートを殺したあの男を、僕の友達を悲しませたあいつらを──絶対に許せない。
僕は怒りのあまり、男に無策で挑もうとしていた。
今の自分では全く敵わないと分かっていても、どうしても許せなかった。
だが──
『落ち着け、小塚記記』
誰かの声が聞こえた気がした。
「えっ?」
『忘れろ』
そんな声が確かに聞こえた。
「あれ?」
僕はなんであの男に苛立っていたんだ?
思い出せない。
いや、あの男がやったことは覚えている。
だが、あの男に対する怒りの感情が思い出せない。
「じゃあプレゼントを渡したいくぞ。ランクSから順に渡すからとっとと並べ。並ばないといつのまにか頭が無くなってるかも知れねーぞ(笑)。」
男はまた嗤っている。
それなのに、僕は何も感じない。
──昔からたまにあるのだ。大事なときに大切な感情を忘れてしまうことが。それは、決まって誰かの声が聞こえる。
これは自身を守るためなのだろうか?それなら確かに、僕は助かったのだろう。昔からこうなるときはいつもこのおかげで助かっていた。
もし、あのまま飛び出していたら間違いなく僕はあの男に殺されていただろう。
……でも、自分やクラスメートのために怒ることができなくなる自分に、僕は苛立ちを覚えた。
*
大体の人にプレゼントが渡された。
三代や秀助君のようなランクSの人には伝説の武器や旅の仲間(美男、美女の奴隷)など、様々なものが与えられた。
ランクA〜Eの人に関しても、どんどんグレードは下がっていってもそれなりの物を貰えていた。
……ただ、問題はここからだ。
「よーーし、最後はゴミ中のゴミランクFのやつらだな。ランクFは3人だったな。もしノルマをクリア出来なければお前らは真っ先に処分されるというわけだが、それでも心優しい女神様はランクFのゴミにも"チャンス"を与えてくれるそうだ。1人1匹だ。受け取るが良い!」
(1匹?)
そう言われて僕たちの前に現れたのは、僕より少し年下くらいのただの少女だった。
僕の他にもランクFは2人いるが、その2人のところにも少年少女がいた。
「その奴隷をやる。旅にでも連れていくんだな。」
「えっ……?」
騎士団長が意味深なことを言うからてっきりもっとやばいものを渡されるかと思っていたんだけど……。
他のランクの人にも、人数や質は違えど旅の仲間(?)の奴隷が与えられていた。
これだとただグレードが下がっただけなんだけど……?
目の前の少女は何も喋らない。
もしかして目の前の少女には何かがあるのか?
「よしっ!これでプレゼントの時間は終わりだ。これから自分の部屋で食事を取ってとっとと寝てもらうが、当然その内容もランクによって異なる。今から説明するからよく聞くように。後で分からなくなって聞きにきたりしたら殺されると思え!」
騎士団長は、各人の部屋のことや、食事のことなど、細かいことを大量に説明した。
当然僕が全て覚えられるはずもない。
だが、部屋の場所などはとりあえず覚えたので、僕と奴隷の少女は部屋へと向かった。
お読みいただきありがとうございます。
次回の更新はなるべく1週間以内にしたいなと思っています。ただ、もう一つの作品が優先なのでちょっとスケジュール的に微妙なんですが……。