第1話:記憶力のない少年
初めての投稿でまだ慣れていないので、温かく見守ってくれると嬉しいです。
村に火の手が上り、燃えている。
ついさっきまでいつも通りの日常が続いていたこの村が、今は地獄と化している。
そんな中、1人の少年が呟いた。
「……僕は絶対に諦めない。見捨てたりなんかしない。僕は全てをーー」
少年は1人、この状況を生み出したあの憎たらしい悪魔へと、近づいていった。
*
──これは今年の4月の出来事である。
「おい、昨日俺と遊ぶ約束したのに来なかっただろ!外で1時間も待ったんだぞ。」
春に高校一年生となった小塚記記は、遊ぶ約束をしたのにもかかわらず待ち合わせ場所に来なかった。
「えっ……? !あっ……そういえば……。…本当ごめん………」
彼の顔を見ると本当に忘れていたことがよく分かる。
「ったく、しっかりしろよマジで。お前いつもそんな感じだって三代から聞いたぞ。」
三代は、記記の幼なじみだ。
「……僕最近のこと全然覚えられなくて……学校のこと覚えるので精一杯なんだよね……」
「おい……お前その年で認知症とか笑えないぞ……。」
「ははっ……。」
「まぁ、悪気はないみたいだから許してやるよ。次からはメールでちょくちょく連絡するから。それなら忘れないだろ?」
「……」
「どうした?」
「いや、優しいんだね秀助君って。みんなは呆れて次からは誘ってくれないんだ……。僕のことを見捨てないでいてくれる人は秀助君と三代だけだよ……。」
「お、おう……。まぁ、これからもよろしくな記記。」
(だけって……)
***
今年の春(今は11月)、都立十一路高校に合格し高校1年生となった少年、小塚記記。
そんな彼の特徴はなんといってもその『記憶力』のなさ。
例えば、友達同士で今日の朝ごはんの話をすることがあるとする。
その場合、彼はこういった話はしない。――なぜなら彼はついさっき何を食べたかをすっかり忘れてしまっているからである。
もちろん、彼だって忘れたくて忘れているわけではない。
単に"忘れっぽい"だけなのだ。
また、食に限った話ではない。彼はついさっき受けた授業の内容をほとんど覚えていない。
が、これは彼が不真面目だからではないし、ましては授業中寝ていたり、サボっていたりするからではない。ただただ物を覚えるのが苦手なだけなのだ。
*
さて、彼の欠点ばかりに目を向けてきたが、実は学業の成績はかなり良かったりする。
二学期中間テストの彼の学年順位は327人中21位である。(ちなみに、都立十一路高校はかなり特殊な学校で偏差値30の生徒から偏差値75の生徒まで、さまざまな生徒が在籍している。)
では、そんな彼の成績をもう少し詳しく見てみよう。
名前:小塚 記記
国語・現代文:97点/学年1位
古文:90点/学年9位
数字・1:100点/学年1位
a:100点/学年1位
英語表現:91点/学年4位
コミュニケーション英語:73点/学年80位
化学基礎:93点/学年3位
生物基礎:64点/学年152位
地理:61点/学年160位
日本史:0点/学年327位
合計(10教科計):769点/学年21位
彼は決して手を抜いているわけではない。全力なのである。
*
放課後、記記は教室に1人で残っていた。
何をしているのかというと――
「はぁ……大丈夫かな……忘れ物ないかな……明日の時間割は特に変わってないよね……?大丈夫だよね……。」
もうかれこれ10分以上こんな感じである。
どんだけ心配症なんだよと、彼を知らない人は言うだろう。
しかし、彼の記憶力は(逆の意味で)すごいので、これくらいやらないとすぐに忘れ物をしてしまうのだ。
*
「うん、大丈夫そうだな。帰ろう。」
時刻は4時30分。結局30分もかかってしまったが、
忘れ物しないのならそれで良いやと思い、帰ろうとしたそのとき、後ろから声が聞こえてきた。
「筆箱が机の中に入れっぱなしだけど良いの?」
「……!?びっくりした……なんだ三代か……って筆箱忘れてたっ!」
「ほんと記記は相変わらずだね。」
そう言ったのは、記記の幼馴染であり、小中高全て記記と一緒である記記の親友(?)"中塚 三代である。彼女は、成績優秀、容姿端麗、人望もあると言う完璧超人のような存在で、小中高の全てで学級委員長を任されている。また、このクラスの女子のリーダー的存在である。
一方、記記は成績は優秀で、何気に容姿もかなり良い(女子と見間違えそうな美少年)のだが、それを帳消しにするほどの記憶力のなさでクラスメイトからの信頼はほぼない。当然人望もない。
そんな正反対な2人だが、仲は良くお互いのことを理解し合っている。
「いやー……三代がいなかったら今日家で勉強できないところだったよ……。」
「ふふっ、感謝しなさいよねっ。」
「あっ、そういえば何でまだ学校にいたの?」
「ん?あー……、まぁ、あれよあれ、学級委員の集まりみたいなやつ?」
「あっ、そうか!三代って学級委員だもんね!」
「うん、そうそう……ってか忘れてたんかーい!」
「あはは……、ごめん。」
*
――次の日。
「おはよう。三代、秀助君!」
「おう、おはよう!」
「おはよう。忘れ物してない?大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ……ははっ……」
「お前ら席に着け!ホームルーム始めるぞ。」
「はい、先生。」
「やべっ、もう8時24分じゃん。」
「じゃあ一旦席に戻るわね。」
「うん。」
『キーーンコーーンカーーンコーーンキーーンコーーンカーーンコーーン』
8時25分。いつもと同じように、何の変わりもなくチャイムは鳴った。
僕たちは、チャイムが鳴り終わりホームルームが始まるそのときを、ある生徒は憂鬱そうに、ある生徒は忘れ物がないか心配しながら、ある生徒はどうでも良さそうに、いつも通り待っていた。
――しかし
『キーーンコーーンカーーンコーーンキーーンコーーンカーーンコーーン』
(あれ?なんか今日チャイム長くね)
クラスの誰かがそう思った。
いつもは割とすぐ終わるチャイムが、今日は少し長く、"響く"ように感じた。
しかし、ほとんどの生徒は気にしていない。
『キーーンコーーンカーーンコーーンキーーンコーーンカーーンコーーン』
(ん?)
(なんか今日のチャイム長いな)
(長い……よな?)
この時点で気付いた生徒はそれなりにいた。
チャイムは、なにやら洞窟の中で聞いているかのように響いていた。
『キーーンコーーンカーーンコーーンキーーンコーーンカーーンコーーン』
(やっぱおかしいよな?)
(先生に言った方が良いんじゃ……)
(うちの学校古いからなー、ついにチャイムぶっ壊れたか?少し放送室見に行ってくるか……。)
教師は教室のドアを開け、廊下に出て閉める。
だが、そこにあったのは静寂だった。
(あれ?なんだもうチャイム止まったのか。まぁ、一応放送室まで行ってみるか……。)
そう思い先生は、一度放送室まで行って戻ってきてからホームルームを始めることを生徒に伝えるために教室に入ろうとした。
──しかし……
(ん?開かないな……)
「誰だ?ドアの鍵かけたやつ!後で先生と二人っきりで話したいのか?」
教師は教室の外から中へと話しかけた。
そして、気づいた。
(えっ……?)
いつのまにか、教室の中にいた生徒40人は跡形もなく消えていた。
(あっ……、ドア開いた……)
教師は、しばらくの間何が起きたのか全く分からず、動くこともできなかった。
ー第1話 完ー
ここまでお読みいただきありがとうございました。