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五人少女シリーズ

悲劇の頭髪殺人事件【五人少女シリーズ】

作者: KP-おおふじさん

なんとなくでも読めますが、キャラをもうほんの少しだけ詳しく知りたい場合はシリーズに紹介記事があります。


簡単な説明としては全員美少女でありまして。


衣玖 今回はほとんど出番なしの天才少女

留音 脳筋タイプの格闘少女

真凛 サイコを抜けば普通の幼馴染系少女

西香 まともに見えて性格的に友達居ない少女

あの子 不可侵の至高存在の少女


という感じです。


 ズドーンゴロゴロ。彼女らの家に深刻な事態が起こっていると基本的に雷が落ちている。演出的なやつで。


「まさか……また殺人事件が起こっちまうんなんて……」


 五人の少女たちが住む家のリビングでは最強の格闘少女である留音が、横たわる遺体を前に嘆きの表情を浮かべていた。いくら次の話で何もなかった事になっているとは言え、流石にこの家は傷害事件が多発しすぎである事を考え、留音はそんな呟きを自然と漏らしていた。


 雷から発せられる閃光を背後にして、次につぶやいたのは高飛車のお嬢様西香だった。


「でも……死んでしまっているのは……いつもなら探偵役に回るはずの衣玖さんですっ」


 そう、血を流し、地べたに長い髪を散らせて息を引き取っていたのは天才科学者の衣玖だったのだ。その頭脳を持って数々の事件を解決してきたはずの名探偵がここで死んでいる。


 その事実に怯えるのは幼馴染系の常識人である真凛だ。と言っても彼女が本気を出せば全てを消し去り、再び作り直すことが出来るのだが、そういうのは基本的に落ちまで取っておくのが小説というものである。


「ど、どうしましょう……私達で犯人をみつけることができるんでしょうか……」


 その言葉にあの子……全ての神に寵愛された女神の如き存在であるあの子も不安げにうなずいた。


「確かに不安だけど……でもやるしかない。衣玖ならやったはずだ。あたしらが力を合わせればきっと出来るさ」


 留音が力強くそう言って、部屋の中を見回し始めた。まずはその死因から確かめなければならない。まずは衣玖の遺体に近づき、血の流れている頭部に目をやった。長い髪の毛を伝ってかそこかしこに溢れるように流れ出る血が痛々しく、留音は長年の付き合いのある衣玖の頭「かわいそうに……」といたわるように外傷を確認する。間違いなく鈍器による殴打が原因だ。となれば犯行に使われた凶器は……。


「ねぇ留音さん、その脇に転がっているバットって……」


 真凛がいつも玄関に置いてあるバットが近くに転がっているのを示しながらそう伝える。全員部屋に入ったときから違和感は持っていたが、付着した血痕も含めて間違いなくそれが凶器である。そしてそのバットは留音の持ち物だった。


「あぁ……どうやらあたしのバットが犯行に使われたらしいな……くそっ……」


 悪態を付きながら自分のバットを見下ろす留音。犯人の指紋があるかもしれないが、間違いなく留音の指紋もベタベタについているだろう。これでは警察に渡しても捜査が混乱するかもしれない。


「バットは誰でも持てますわね。やはりセオリーとしては、皆さんのアリバイを確認するべきではありませんの?」


 西香がそう提案する。普段は空気を読めない西香もこういうときには多少しっかりするのか、正論を言って事を進めることでみんなの気持ちを落ち込めないようにしているようだった。


「そうだな……あたしから言うと……実は部屋で一人でボクササイズをしていたんだ。だからアリバイは無い。まぁパソコンの動画再生時間を見てもらえば一応確認は取れるけど……」


「あっ、でももし犯人だったら再生し続けていればいいだけですもんね……」


「そういう事。だからあたしにアリバイは無いんだ。でも誓って言うよ、あたしは犯人じゃない……昔からの付き合いのある衣玖を殺すような真似しないよ」


 留音は暗い表情でそう言った。一応補足しておくと別の話では殺しかけたりバカにしたり平気でしているが、矛盾は無いことにしておく。


「留音さんが白状するのならわたくしもしなければなりませんね。わたくしは部屋でずっとソシャゲをしていました。もちろん証拠はありません。延々と貢がれた課金カードを登録してガチャを回し続けていただけなので……わたくしもアリバイ無しですわ」


 西香も正直に答えていた。続いて真凛も同じ様に「わ、わたしは寝ちゃってました……」と、困惑したように言った。


「じゃあみんなにアリバイがないのか……衣玖の発明品で完璧に戸締まりされたこの家で外部犯の可能性はありえないし……つまりあたしら三人、誰かが犯人であることになるんだな……」


 ちなみにあの子はみんなの思考の中の犯人という項目から完全に外れている。こんな天使の子が犯罪など犯すわけがないし疑うことすら神への反逆、冒涜に等しくあるため除外されているのだ。そしてしっかりと犯人ではないので安心していい。


「となれば……何か証拠を探さないとな。一体だれが衣玖を殺した犯人なのかってことだ……」


 衣玖はいつも留音を脳筋だと馬鹿にしているが、その脳でしっかりと現場を見定めて何かを見つけようと必死な瞳は衣玖のために向けられているのだ。


「そうですわね。何か決定的な証拠があればいいのですけれど」


「衣玖さんならパパっと見つけて解決しちゃうんだろうなぁ……」


 三人は互いを疑い、監視するかのように衣玖の周辺を探っている。自分以外の二人のどちらかが犯人なのだという気持ちでいる。すると真凛があることに気がついた。


「あ、あれ……?見てください、衣玖さんの左手……何かを握っているんじゃないですか?」


「なんだって?」


 留音が近づき、硬直の始まっている衣玖の左手を調べる。確かに手はぐっと握られており、何かを持っているようだった。


「これは……髪の毛……か?」


「衣玖さんの自分の髪ではありませんの?」


 倒れている衣玖の髪の毛を見やりながら西香が言うが、すぐにそうではないことがわかった。なぜなら衣玖の握っている髪の毛は純粋なロングの黒髪であり、衣玖の髪はどぎついピンク色をしていたからだ。ちょうどパンクのライブに行くというので真っピンクにしていたことが幸いし、衣玖の掴んでいた髪の毛が衣玖自身のモノではないという証明になっていた。


「掴んでいるということはおそらく犯人の……で間違いないよな?」


 留音がみんなに確認を取ると、全員がおそらく、とうなずいた。ちなみに長さは全員に可能性がある程度に長く、また色は黒である。西香は地毛が黒髪であり、留音と真凛は金髪と赤髪だったが訳あって今は黒に染めているため、外見的には違いがわからない。


「それって……もしかしてDNA鑑定にかければ犯人が誰だかわかるんじゃないですかぁっ?」


 真凛がいつもの口調で思いつきを言う。「それだ!」と留音は衣玖のラボに全員を引き連れて駆けていった。だがラボには数々の複雑な機械が置かれており、素人目にはどれがDNA鑑定に使える機械なのかがさっぱりわからない。


「駄目だ……あたしらにはどの機械が正解かわからないよ。きっと違うんだ。衣玖の残したメッセージはこれをDNA鑑定にかけることじゃない……」


 留音の言葉に西香がにわかに反論を呈した。


「で、でもそれでしたら一体何のために衣玖さんは髪の毛を大事に握っていたと言うのですか?」


「そ、それは……っ」


 子供の頃から幼馴染として過ごしてきた留音ですら亡き衣玖の意図を読みかねている。髪の毛一本で一体何がわかる?だが「DNA鑑定をしろという意味ではない」という解釈に関して、真凛も留音と同様の意見を持ったらしく、こう言った。


「髪の毛を残したのはIQ42兆の衣玖さんですもんね……きっとわたし達にもわかるように犯人にたどり着く道を用意してくれているはずです」


 無言でうなずいた留音だったがその意図はやはり見えず、結局全員でリビングの遺体の前に戻ることにした。


「すまない衣玖……お前を殺した犯人、あたしの頭じゃわからないよ……くそっ、ごめんなっ……」


 悔しげに奥歯を噛みしめる留音の背中を叩いたのは西香だった。


「無理もありませんわよ。なんてったってガリ勉が死に、ここに残ったのは脳筋と家事おばけ、そして至極存在が使わせし天使と圧倒的美少女のこのわたくしのみなのですから……」


 西香のそんな気遣いを苦しく思った留音は席を立ち、「ちょっと顔を洗ってくる」と言って洗面所へ向かった。少し水を出し、手にとって顔にその水をかけるとパンパンと顔を叩く。そして顔を拭きながら鏡の向こうにいる自分を睨みつけるように見た。友達のために何か糸口を見つけないと……そう思って自分の瞳を鏡越しに覗き込むようにじっと見つめながら事件の展開を脳裏に描くと、そこには赤い血を巻き散らかした衣玖の姿だけが浮かんでくる。鮮やかなピンクの髪の毛に赤い血が侵食していくような状態が妙に美しいコントラストを作り出していた。そこに来て、黒い髪。


 留音は鏡を除き、自分の髪を見つめた。今は黒くしている。地毛は金髪であるのだが、とある理由で今は真っ黒にした大事な自分の髪を見た。もうあと二本しか無い頭髪を。


「あ……。そ、そうか……あのメッセージは、そういうことだったんだ……!」


 留音は勢いよく洗面所を飛び出し、リビングに落ち着いている全員に向けてこう叫んだ。


「おい!犯人がわかったぞ!!!」


「な、なんですって?!」


 叫び声を上げる西香が思わず立ち上がって留音の方を見た。


「確かなんですか?留音さん?」


 真凛も冷静に問うた。それに対して留音はゆっくりとうなずいた。ほぼ白い頭に電気の光が反射していた。


「いいか、三人共、思い出すんだ。衣玖の握っていた長い髪の毛……あれがもともと、誰に生えていたのか……」


「えっ……?」


 疑問の表情を作る真凛。それから西香がこう食いつく。


「誰にって……それがわからないからDNA鑑定を……」


「いや、わかるさ。長さ、色……今のあたしたちは珍しく同じような髪色をしている。だがそれこそが衣玖の伝えたかったことなんだよ」


「伝えたかったこと……?」


 西香は眉を寄せながらそう聞くと留音はゆっくりと頷き話す。


「そう、流石衣玖だよ……髪一本で犯人がわかるようにしといてくれたんだ。つまり……本数だよ」


「ほ、本数……?!髪のですの……?!その話題は……今のわたくし達には禁句の……ッ!」


 西香は顔を青くしながら頭部を手で覆ってそう言った。


「そうだ。だが犯人を割り出すためには必要なことだ……なぁ真凛、お前の髪の毛、今何本ある?」


「ひっ……あ、あうあ……い、一本です……」


 そう、真凛には長い毛が一本だけ、何かを誤魔化すように花の形に結ばれているが何の誤魔化しにもなっていなかった。


「そしてあたしは二本。この触覚のように垂れている二本があたしの最後の生命線であることは、みんなもう知っていると思う」


「ごくり……」


「なぁ……じゃあ西香……お前、髪の毛何本だ……?」


「あっ……うっ……」


 西香は明らかに狼狽え始めた。まるで自分の深いところにある秘密を覗き込まれたかのような狼狽が見える。


「あっ、西香さんの髪の毛……あと四本しか無い……!」


 だが非情にも真凛が数えやすくなった毛髪量を申告し、西香の表情が完全に固まった。


「そう……西香の髪は今四本しか無い。デリケートな話だがな。西香、昨日あったはずの後一本はどこにいった?……これなんだろう?」


 そう言って留音は西香に見せつけるように衣玖の持っていた一本の髪の毛を晒し上げた。


「ぐっ……」


「衣玖は殺される直前、お前の髪を引き抜いたんだ。考えてみろ。後一本しか髪の無い真凛、あたしは二本。だがお前は真凛の五倍もの髪量を持っていた。さぞかし衣玖もつかみやすかっただろうな」


 ちなみにあの子は全く髪の毛の様子は変わっていない。いつもどおり最高の髪質で超絶キュートな髪型でそこにいる。でも犯人じゃない。


「うっ、うぅっ……」


「今のあたしらの頭の状態はすごく弱っているからな。きっと一本抜けたってお前にはわからなかったんだろう。あたしもそれで抜けまくったから気持ちはわかる。だがそれが衣玖には幸いした。あたしらにもわかる単純な一桁の引き算のみで犯人を割り出す事ができるようにしていたんだ。やっぱりあいつは天才だよ、あたしらの脳力まで瞬時に計算してダイイングメッセージを残したんだからな……!」


 本当に惜しい人を亡くしてしまった、そんな表情で留音は衣玖の遺体を見やりながらそう言った。


 そしてそれに対して肩を落として観念したかのような様子を見せる西香に対し、真凛が辛そうな顔を作って言った。


「そんな!!なんでですか西香さん!わたし達は確かに髪がたくさん抜けて不幸ではあったけど、それでもニコニコ楽しく過ごしていたじゃないですか!それなのにどうして衣玖さんを……!」


 泣きそうな真凛の言葉に、西香はついに腰を落とした。もう逃げる気も隠れる気も無いということだ。


「……わかりましたわ、もう白状するしかないようですね……そう、あれは昨日の夕方……というかここ数日、わたくしは衣玖さんとこんな話をしていたのです、ピンクのもさもさヘアーの衣玖さんと……」


 西香はここ数日で衣玖と交わした会話を思い出した。


「……それで衣玖さん、毛生え薬の進捗はどうなんですの?」


 西香の前には死亡から数日前の、髪の毛があと十三本しか残っていない衣玖の姿があった。


「もうほとんど完成しているわ。まだ調整は必要だけど、もう完成は目前ね」


「それは素晴らしいですわ!衣玖さん、完成の暁には是非わたくしに真っ先に回していただけませんか?」


「まだ調整があるのよ。黙って待ってなさい」


「うふふ、考えておいてくださいまし。それなりの褒美は取らせますから」


 そして昨日の、まだ生きている衣玖との会話に情景は移っていく。その時の衣玖はピンクの髪の毛がしっかりと生えていた。


「衣玖さん!どうしてあなた、自分にだけ毛生え薬を使ってわたくしには回してくださいませんの!?」


「だからまだ調整中だって言っているでしょう」


「で、でも、あなたのその頭ふさふさで……わたくしも使いたいですわ!」


「だめよ。これは私しか使わないの。あなたがパンクファンならともかく」


「独占するなんて酷いですわ……ならば死ねぇ!!」


 それは死のホームランであった。衣玖の頭から飛び散った血液は一塁、二塁、三塁へと飛び散り凄惨さを演出するようだった。


 そして西香はその情景を説明し、項垂れる三人を前に気持ちを吐露した。


「だから……衣玖さんが酷いんです!自分だけあんなに素晴らしい毛生え薬を使うから!!わたくしに素直に毛生え薬を渡していればこんなことにならなかったのに!!!」


「西香さん……」


 真凛の瞳には同情の念が込められている。抜け落ちる髪に対する焦燥感はもう、ここにいるあの子以外の全員が嫌という程味わっているのだ。


「西香。お前勘違いしてるよ」


 同じく同情を持った声音で話しかける留音は続けてこう言った。


「衣玖はな、あたしらのために毛生え薬の調整をしていてくれたんだ。例えばあたしには元の金髪が生えるように。真凛は前に茶髪にしたいって言ってたから、茶色になるように。西香、お前も落ち着いた黒色が生えるような毛生え薬をな……」


「えっ……?」


「でも衣玖は少し苦戦していたんだ。あいつのパンクロックな脳がド派手な髪色しか作れないで、まだピンクを緋色にするので精一杯だってな。それにお前、前に言ってただろ。髪色がピンクのキャラクター見たとき”髪色ピンクだけはないですわよねぇ、淫乱ピンクなんて言葉がありますけど、ホントその通りですわよね”って、笑ってさ。……だから衣玖はお前にピンクだけは渡さないって思ってたんだ。お前は黙っていればそこそこ清楚だからな。きっとお前が淫乱ピンクになるのを止めたかったんだよ」


「そ、そんなっ……」


 だがもう遅いのだ。衣玖は死に、清楚という言葉は髪と共に消え去ったような気がする。これは性格の話ではなく見た目の話である。髪の毛が無くたって性格が良ければ美しいが、この作品に登場する人物にあの子以外で清楚な性格などないので完全に見た目に限った話をしているのだ。その辺の意図については察してもらいたい。


「じゃ、じゃあわたくしはっ、衣玖さんの気遣いをわからないで……」


「そうだ。お前は自分の毛髪量の五分の一を犠牲にして、自分を想ってくれた人を……殺してしまったんだよ……」


「そ、そんな……衣玖さん……衣玖さんっ」


 西香はもう息をしていない衣玖の遺体に抱きつき、わんわんと泣きながらごめんなさいと謝り続けるのだった。


 留音は触覚のように生えた自分の髪の毛がかかった目元から軽く払うのと同時に目に溜めた涙を拭う。


 外の雷は止み、ただ何かを流してしまうような雨がサーサーと降りしきる中、生けられた花が一輪、悲しみの涙のように地に落ちる。真凛の頭から。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


髪一本から犯人を推理する展開、いかがでしたでしょうか。


シリーズにはこの他にもタコと戦う話、掃除機を掃除する話など各種取りそろえがございます。


よろしければポイントや感想、それからシリーズをチェックしていただけるととてもうれしく思います。


重ねてありがとうございました。

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