助けてみたっ!
クラスチェンジを果たした俺だが、結局移動手段は手に入らなかったので移動系のスキルが手に入ることを祈りつつ、せっせとレベルアップにいそしんでいた。
まあ、ぶっちゃけ移動できないのでやることがレベル上げしかないのだが。
動けない俺は、自分より強い敵が現れても逃げる手段がないので、より強くなっておかなければいけないことはわかるのだが、同じ作業の繰り返しで景色も変わらないため、だんだんと鬱とした感情になってくる。
そうして、しばらくの間レベル上げをしていると、いつものように通路の方から音が聞こえてきた。
また、いつものゴブリンかと思ったのだが、その音が今まで慣れ親しんだものと違うことに気がつく。
その音は、小さいがコツコツと音を鳴らして近づいてくる、靴を履かないゴブリンでは鳴らない足音だ。
そして足音の数から複数いるように感じる。
(靴で歩いているような足音がするな、この世界に人がいるのかはわからんが警戒した方がよさそうだ。)
俺はその靴で歩いているような音が近づいてくることに危機感を感じた。
(そう言った足裏をしている魔物ならまだいいが、それが靴を履いた何かだったら不味いな。)
靴を履いているということは、それを作り出す知能があるはずだ。
ゴブリンが持っていた武器からも、ゴブリンが作成したのでなければ何らかの知能を持った種族がいる可能性がある。
ゴブリンは靴を履いてはいなかったので、そういったものを作れる技術がないと想定すると、いまこちらに向かっている何者かは知能がある可能性が高い。
知能があるということはこちらがミミックであることが気がつかれる可能性がある。
これは非常に拙い状況である。
偽装で油断させて、罠や噛みつきでの攻撃を主体としているミミックをしては、こちらがミミックであることに警戒されるのが一番厄介だ。
俺は警戒された場合の対応方法を考えつつ、できれば足音の主が通り過ぎてくれるのを祈る。
しかし、願いとは裏腹にその足音は俺のいる部屋の扉のまえで止まった。
しばらく扉の間で何やらごそごそとやっていたが、しばらくするとその音もとまりゆっくりと扉が開いていく。
扉が開くと扉の隙間から光が差し込んでくる、何かの明かりのようだ。
そうして扉が半分程度開くと、その陰から小柄な人が入ってきた。
その人影は部屋の中を覗き込むと何かを確認したのか、後ろを振り向いて何かをしゃべりだす。
「へ、部屋の中には魔物はいないです・・・・。」
どうやらその小柄な人影は部屋の中に魔物がいないか確認していたようだ。
そうすると扉の陰から二人の大柄な人影が、部屋の中へと入ってきた。
人数は全部で3人のようだ、手に持ったたいまつの光で3人の姿が確認できる。
大柄な二人は革の鎧のようなもの身に纏い、その肩に何の獣かわからないが毛革のマントを羽織っている。
顔にもマスクのようなものをしており、その中の容貌がどのようなものかは見た目ではわからない。
(まるで山賊だなあ・・・。)
そして、最初に入ってきた小柄な人影はぼろぼろの服を身に付け、首に首輪のようなものをつけていた。
その首輪から垂れ下がる鎖を先ほどの大柄な二人のうちの一人が持っているようだ。
小柄な人影は靴も履いておらず、顔や頭にも何もつけていないため、他の二人とは違いその容姿を確認することができた。
まず目に入った長い髪は白色にも銀色にも見える、肌は濃い褐色で、目の色は紫色であり光の反射のせいなのかうっすら光っているようにも見えた。
この距離では性別まではわからないが長い髪からして女性・・いや背格好から少女のように見える。
そして、驚いたことに普通の人にはありえない長い耳を頭から生やしていた。
(もしかしてファンタジーお決まりのエルフってやつか・・・でもその割に色が黒いな、この世界のエルフはこういうものなのだろうか。)
それにしても、後から入ってきた二人とは対称的すぎる、どうも仲間というわけではなさそうだ。
(首輪や格好からしてもしかして奴隷とか?)
そして、入ってきた大柄の二人組の一人が話し出す。
「どうやら、罠や魔物は無いようだな。」
それに対してもう一人の男が答える。
「まあ、罠があったとしても俺たちは安全にことを運べるがな。」
「まったくだ、襲った馬車の荷物の中にいた奴隷がこんな餓鬼な上、ダークエルフとときた時には金にもならね~と思っていたが、こんな使い方があるとはな、おまえ天才か?」
「そうだろう、そうだろう、ダンジョンで怖いものといえば魔物もそうだが罠にかかって死ぬやつも多い。こいつがいれば罠もよけれるし、魔物に襲われたってこいつを餌にして逃げればいい、2度おいしいというやつだ。」
「口ばかりかとおもったが、なかなかやる奴だったんだなお前。」
「口ばかりは余計だ!」
その二人はそう軽口をたたいている、内容からすると二人は盗賊かなにかなのだろう、そして襲った馬車にたまたまいた奴隷の子供を囮に使いこのダンジョンの探索をしているようだ。
(男二人の方は碌なもんじゃね~な。)
そして、俺は二人のステータスを《鑑定》してみることにする。
名前:ジャイコブ
種族:人種 クラス:盗賊Lv5
HP:28/28 MP:0/0
筋力:19 耐久:12 敏捷:17 器用:16
知能:8 精神:9 魅力:0
装備:革の鎧、熊毛皮のマント、短剣、布のマスク
スキル:スラッシュエッジLv3、罠解除Lv1、鍵開けLv2
名前:ドリアン
種族:人種 クラス:盗賊Lv5
HP:29/29 MP:0/0
筋力:17 耐久:11 敏捷:16 器用:17
知能:10 精神:19 魅力:0
装備:革の鎧、熊毛皮のマント、ショートソード、布のマスク
スキル:スラッシュエッジLv2、罠解除Lv2、鍵開けLv2
(恰好からしたら強そうに見えたが、ステータスは大した事無いな。これなら油断しなければなんとかなるかもしれん。)
男二人は話しながら当たりの物色を始めたようだ、部屋のはじの暗がりにいる俺にはまだ気がついていない。
(さて、まだ気がつかれていないようだが時間の問題だな、そして気がつかれたあとはおそらく罠の警戒としてあの子供を先に俺に近づけてくるだろうな。)
どうしたものかと、考えるいるとふといい案が浮かんできた。
(あの子供だけ助けることはできないだろうか、奴隷から解放すれば場合によって移動に手を貸してもらえるかもしれんしな、あの子だけを助けて残りの二人を始末するのは罠を駆使すれば何とかなるだろう、まああとはあの子が乗ってくれるか次第だな。)
そう考えると俺は頭の中で作成の詳細を組み立てる。
そうこうしていると二人組は周囲に何もないことから俺がいる奥の方に進んできた。
そして部屋の奥の方に箱(俺な!)がいるのを見つけたようだ。
案の定、二人組は警戒しているようで、子供の方を先に俺の方に歩かせてきた。
その子供は怯えながら俺に近づいてくる。
そして俺の前まで来ると後ろの男から怒鳴り声がした。
「その箱を開けろ!」
子供はその怒鳴り声にびくつきながら恐る恐る俺に手を伸ばしてくる。
あとちょっとで手が届くというところで俺は《音操作》を使い小声でその子供に告げる。
「お前を助けてやる。その気があるなら俺を開けたら後ろの男どもに向かって宝が入っていますと言え。」
その声が聞こえたのか、その子供は一瞬手を止めて目を見開いた。
そして少しだけうなずくと、その手を伸ばしてきた。
その手で俺を開け中を覗き込む。
中には念のため餌として《アイテム作成》でつくったちょっと出来の良いナイフなどを入れてある。
俺を開けたことに気がついたのか子供の後ろからまたもや怒鳴り声がする。
「おいっ餓鬼、中に何か入っているのか?」
怒鳴られた子供はビクッとする、俺はその子供に向かって小声で
「中のナイフを拾って奴らに見せろ、そしてさっきのセリフをいったら横によけてろ。」
子供は俺の中のナイフを手に取り後ろの二人に見せつけて、
「な、中には宝物が入っていますっ。」
そう答えを返す、それを聞いた二人組は罠の無いことに安心したのか、我先にと不用心に俺に近づいてくる。
俺は言ったとおりに子供が横によけたのを確認すると、スキルを発動した。
(《罠設置》《魔法罠(麻痺)》)
俺の目の前の床に罠が設置された気配がする。
(さて、いっちょやりますか!)
準備を終えた俺は二人が向かってくるのを待ち構える。
二人はお宝に気をよくしているようで何も警戒していないようだ。
「お宝は俺のもんだ!」
「馬鹿いえ俺が先にあの箱を見つけただろうが!」
言い合いながら二人はどんどん近づいてくる。
そして二人ははたして俺の罠に足を踏み入れてきた、その瞬間バリッっという音とともに罠が発動し接近してきた二人が突然硬直し目の前に倒れこんできた。
設置した麻痺罠が効いたようだ。
倒れこんだ二人はピクッピクッと痙攣している。
そのすきに俺は男の一人を《舌》スキルで抱え込み《噛みつき》スキルで頭を噛みつく。
「ぅぎゃああああああああっ」
男は叫び声をあげたが一気にガリッと噛みつくと体から力が抜け動かなくなった。
それに気がついたもう一人の男は、麻痺した体で何とか逃げようとするが俺は魔法で追い打ちをかける。
「《ファイアボルト》!」
魔法の火の矢を放ち相手を火だるまにする。
相手は熱さにのたうちまわろうとするが麻痺が効いているせいかその動きは緩慢だ。
俺は男の足を捕まえ口の上に持ってくる。
男は行き絶え絶えに
「た、助けてくれ・・・」
と懇願をしてきたが、こんな子供に虐待するような奴に慈悲はいらんだろうと前の男と同様に頭をかみついた。
ゴリッという音とともに頭をかみ砕いた感触がする。
そしてだらんと垂れ下がってきた腕からもう死んだことを確認すると俺はそのまま男を飲み込み《捕食》する。
それが終えると先ほど噛みついた男も《捕食》した。
あとに残ったのはまき散らされた血で塗れる箱と、それを見て呆然とたたずむ子供だけであった。
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