ダンジョンに住んでみたっ!
ザンダー爺さんとの話が終わり、ここに住まわせてもらうことになった俺たち。
住まわせてもらう条件として俺の異世界情報の提供が家賃代わりとなり、それ以上の対価は今のところ求められていない。
現状、無い無い尽くしの俺たちには生き延びる上でありがたい条件であるのは確かだ。
モニカもいまだにザンダー爺さんの強面に若干の怯えはあるみたいだけど、外に出ても行く宛があるわけでは無いようなので、とりあえずはここでお世話になることに納得してくれた。
「早速じゃがここに住まう上での注意点を説明した方がよかろう、儂が管理をしているこのエリアは比較的安全といえるが、それ以外はちと問題がある。今のおぬしらでは危険であろうからな...」
住むことが決まった俺たちにザンダー爺さんがそう切り出してきた。
確かにここはダンジョンの中だからいろいろな危険もあるだろうし、ザンダー爺さん的にも見られては困る部分があったりするのだろう。お互いに不快な思いをさせないためには必要なことだ。
俺たちが納得の表情を見たところでザンダー爺さんが説明の続きを始める。
「まず、このわしが居住しているエリアじゃが、先ほど通ってきたことからある程度は想像出来るかとは思うが、そこそこに広い敷地を有しておる。そして当然管理や掃除が必要になるが儂一人でやっているわけではない、そこは儂の部下が面倒を見ておる。それに、少ないながらも儂にも交友関係があり友人と呼べるものが折り、そのうち何人かは今このダンジョンに滞在しておる。まずはその者たちの紹介からしようと思うのじゃ」
そういうとザンダー爺さんはどこから取り出したのか触手の一本にハンドベルを持っておりそれを左右に揺らす。
それによりチリンチリンと部屋の中に甲高い金属のベルの音が響き渡った。
しばらくすると扉の向こうから何者かがズシンズシンとこちらに近づいてくる足音がしてきた、先ほどのベルはその者を呼ぶ合図だったのだろう。
しばらく待っているとその足音は扉の前まで来て歩みを止め、ゴンゴンと荒々しく扉をノックをしてくる。
ザンダー爺さんはその者に対して「入ってくるのじゃ」と入室の許可をだした。するとその扉の向こうにいた者は先ほどの聞いたズシンズシンという足音を響かせながらこの部屋に入ってきた。
屈みながら入室してきたその姿は部屋の中に入ると背筋を伸ばしザンダー爺さんに向かい用を確認してくる。
「主様、何か用だか?」
入口に振り返ってその姿を見ていた俺たちは唖然としてしまう。
でっ、でかいっ!
その立ち姿は圧巻で三メートルを超えるくらいはありそうな筋骨隆々の巨体であり、手には巨大な斧が握られている、そしてその魔物の頭部はなんと牛の頭だったのだ。
俺たちはその巨漢の牛頭に圧倒され見つめていると、その牛頭の魔物の方もこちらに気がついたようで俺たちを見つめ返して来たので目線があって見つめあってしまう。
睨まれてる! めっちゃ、こぇ~~~~~
俺はその鋭い視線にガクブルしながらなんだかよくわからないお見合いを続けているとザンダー爺さんが後ろから声をかけて来た。
「何をしとるんじゃお主たちは、そろそろ本題に入りたいのじゃが....」
ザンダー爺さんの言葉で我に返り、ザンダー爺さんの方に向き直る俺たち。
その牛頭の魔物もさほど気にした様子もなく俺たちの横をのしのしと通りすぎザンダー爺さんの背後に立った。
並ぶと両方とも巨体なのでめちゃくちゃ圧迫感がある。
「では落ち着いたところで紹介しよう、儂の召使兼このダンジョンの守護者、種族は見ての通りのミノタウロス、このダンジョンでは儂に次ぐ強者じゃ、名はビーフという」
ザンダー爺さんから紹介を受けた俺は一瞬聞き間違いかと思ったが、その後に続き牛頭の魔物が自己紹介をする。
「おらの名はビーフ、かしこまって呼ばんでビーフでいいだよ、趣味は掃除と料理、ついでにこのダンジョンの守りもやっているだ」
本人が名乗ったしどうやら聞き間違いじゃ無かったようだ、牛の魔物だから名前がビーフなのか?いくら召使だからってちょいひどくないか?ないわぁ~
俺はこっそりと鑑定スキルを使いその牛頭の魔物のステータスを見てみることにする。
名前:ビーフ
種族:ミノタウロス
クラス:グレーターミノタウロスLv52
HP:2025/2025 MP:152/152
筋力:1052 耐久:1221 敏捷:735 器用:423
知能:89 精神:631 魅力:52
装備:歴戦のグレートアクス
スキル:牛突猛進Lv10、上位斧技Lv7、筋力強化Lv10
速度強化Lv8、耐久強化Lv9、
物理無効Lv7、魔法耐性Lv10、技感知Lv10
調理Lv5、掃除Lv8、看破Lv3、言語学Lv2
牛頭の魔物って言ったらやはりミノタウロスなんだな、クラスはグレーターミノタウロスになっているミノタウロスの上位種族ってことか、そのステータスは名前の残念さとは異なりかなりの強さを持っている、俺なんて斧の一振りで木っ端みじんだろう。
それにしても名前がビーフって、非常食扱いなのか?、いざというときには美味しく頂かれちゃうのか?、そもそも美味しいのか?
心の中でいろいろな葛藤が浮かび上がるが、それを直に聞く勇気は俺にはなかった。
「これ、儂の非常食じゃよ」とか言われた日には目も当てられない、最初はその巨漢と強面に面食らった俺だが、その名前から妙な親近感がわいてくる。
そしてザンダー爺さんが俺たちの紹介もしてくれる。
「この者たちは、迷宮の散歩中にたまたま見つけた者たちじゃ。話を聞く限り狙ってここに来たわけではなく偶然ここに迷い込んだらしくてのお、悪意あってのことではなさそうじゃ。まあ何か企んでいたとしてもどうこうされる儂らではないがのぅ。ふぉっふぉっふぉ」
そう言いつつザンダー爺さんが笑う、まああのステータスなら俺たちなんて赤子も同然、なんとでもなるか。
「そして事情を聞くと行く当てもないという、そこでじゃ同じ魔物よしみとしてしばらくここで面倒を見てやることにしたのじゃ。まあ、条件付きじゃがの、そこでじゃビーフよこの者たちに階層の案内と面倒を見てやってほしい、ここはいろいろと危険じゃからのぅ」
ザンダー爺さんがそう告げると、ビーフはうなずきながら。「わかっただ」と答える。
互いに紹介が終わり、ザンダー爺さんは用事があるからということで俺たちのこの後の面倒はビーフが見てくれることになった。
「案内するからついてくるだ」
とビーフからいわれ、俺とモニカはその巨体の後ろをついていく。
部屋の外に出ると前を歩くビーフが話しかけてきた。
「案内する前に言っておくだよ、この階層には主様とおで以外に主様のお客がいるだよ、それに召使たちもいるでな、まずはその方々や召使たちにお前らを紹介するだよ」
この階にはザンダー爺さんの客人やビーフと同様の召使がいることを説明をしてくれた。
確かにこちらはほぼ一方的に世話になる身だ、ザンダー爺さんに迷惑が掛からないよう失礼が無いようしろということなんだろう。
このミノタウロスは見かけは大雑把のように見えたが意外に気配りが出来るようだ。見た目で判断してしまった俺は少し恥ずかしくなりビーフに例を告げる。
「ビーフ、気を使ってくれてありがとな、わかった失礼が無いようにするよ」
俺はそう告げるとビーフは振り返り怪訝そうな顔でこちらを見つめてきた。
もしかして何か違っていたのだろうか。
そう考えているとビーフが語り掛けてきた。
「何か勘違いしてねえだか?、おら達は魔物だ、人間じゃあるめえし一部の奴らを除いて客人も召使もそんな細けえことは気にしねえ連中だ、普通に礼儀を弁えちょればあんま細かいことは気にせんでいいだよ、それよりもっと問題があることがあるだよ」
そういうとビーフは俺たちを下から上に眺めてながらその理由を教えてくれた。
「先に顔合わせて、形だの匂いだのを覚えさせねえと、おまいらあっさり食われちまうだろうからなぁ~」
想定の斜め上を行く回答に俺は引きつった。
なにそれ、魔物界怖いわぁ~~~!
しかしそれもそうか、弱肉強食の魔物の世界では強さが全てなのだろう。ザンダー爺さんが紳士的だったのでうっかり忘れていたが、彼のような魔物の方がレアケースで一般的な魔物は力が全てで弱きものは蹂躙されるのが常の世界なのだろう。
多分、紹介されずに見知らぬ魔物と出会ってしまった場合こちらが餌食になるのを防ぐための事前の顔合わせということなのだろう。
「特にこの階層にいる連中は変な奴らばかりだから気いつけるだよ...」
続けて話してくれたビーフから不穏な言葉が告げられる。
ビーフは話終わりとばかりに再び前を歩き始めた、俺たちはその言葉を理解し離されまいとビーフの跡を小走りで追いかける。
俺はモニカの腕の中で考えてしまう、安全だと思っていたダンジョン生活もそう簡単ではなさそうだなと思いにふけてしまうのであった。
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