見つめられてみたっ!
扉の影に見えるその者の姿は一言で言って異形と表現するしか無い。
その姿は大人の背丈程ある丸い胴体に多数の触手が生えておりウネウネとうねっている。丸い胴体の下部には牙の生えた巨大な口があり、そしてその口の上にはこちらを射抜くように見つめる巨大な一つ目があった。
そしてその巨大な胴体はどういう理屈かわからないが空中にプカプカと浮いているのだ。
こ、これはどう見てもヤバそうだな....
俺はすかさず《鑑定》スキルを実行する。
名前:ザンダー(Xander)
種族:ゲイザー クラス:エンシェント.ゲイザーLv42
HP:1882/1882 MP:4832/4832
筋力:782 耐久:521 敏捷:588 器用:868
知能:1099 精神:1012 魅力:666
装備:鑑定不能
スキル:鑑定不能
その鑑定結果を見た俺は絶望した。
あ、終わったわ...
そのステータスは今まで相手にして来た魔物など全く比較にならない程のもので、今の俺ではどうあがいても勝負ならない。モニカもその眼光に射すくめられたのか俺をギュッと抱きしめたまま目を見開き身動ぎ一つしない。
こ、ここまでなのか...
この狭い部屋の中では逃げることも出来ない、よしんば逃げる場所があったとしてもステータス差であっという間に追い詰められてしまうだろう。すでに八方塞がりのの状況だ。
最悪な状況にもうダメかと思っていた俺だったが、しかし予想外にその目玉の魔物はすぐに襲ってはこなかった。そして、何故かその目で俺たちの方を興味深げに見つめて来たのであった。
しばらく見つめ合う俺たち、そして唐突にその魔物が口を開いた。
「お前たちは誰じゃ?ここは儂のダンジョンの裏口ぞ、その入り口は見つけられぬように隠してあったはずじゃが如何様にしてここに来たのじゃ?」
その魔物は驚いたことに流暢に話し始めたのだった。
俺はその問いに一瞬戸惑うが、話が出来る相手だと判断しすぐに答えることにした。俺がミミックであることがバレてしまうが、この状況では些細なことである。
まさかモニカに相手をさせるわけにもいかないしな、それにチラッと見ただけだが相手にも《鑑定》スキルがあった、俺の正体はすでにバレているだろう...
俺は覚悟を決めて話始める。
「ここに来たのは偶然でここの事を知っていて来たわけじゃない、だが偶然と言えども貴方の住処に押し入ってしまったことには謝罪を申し上げたいと思う」
俺がそう答えるとその目玉の魔物は少し目を見開き驚いたような表情をする。
「ほほう、お主は話すことが出来るのか、何故ダークエルフの小娘と魔物であるミミックが一緒にいるのか気にはなっておったが、どうやらその事と関係がありそうじゃな...」
そう言いつつその目玉の魔物は目を細めウンウン頷きながらその触手で顎の下辺りを撫でていた。凄い強面なのになんだかやたらと人間臭い魔物だ。その魔物はしばらく頷いていたが何かを納得したのか次の質問を俺たちにしてくる。
「となると先程儂を《鑑定》したのはお主じゃな?」
その質問に隠しても為にならないと判断し俺は正直に話す。
「そうです俺が貴方の事を鑑定しました」
そう答えるとその魔物は再び頷きながら触手で顎の下辺りを撫でる。考え込む時の癖なんだろうか、見かけはどこから見ても魔物なんだが挙動が人っぽいのはなんでだろう...、そんな事を考えているとその魔物がまた質問をして来た。
「なるほど、スキルを使いこなすということはそれなりの知能があるようじゃな、しかしただのミミックにはどれほど上位に成長したとしても所詮は低級な魔物、そこまでの知能はないはずじゃがお主は一体何者なんじゃ?」
その質問に俺は転生したことや、前世の話しなどをして良いものかと悩みとりあえず当たり障りのない説明をする事にした。
「色々と事情があって今はこのような姿をしているので...」
「なるほどのう、それはお主の称号と関係があるのかのう...」
「称号?それは何のことでしょうか?」
「ぬ?お主は気がついて居らなんだか...むむむ、そうかお主は《鑑定》スキルのレベルが足りんせいで自分の能力を全て見ることが叶わんようじゃな...」
「そういえば《鑑定》レベルが上がった時に少しだけ能力が詳細に見えるようになりましたが、その事に関係があるのでしょうか」
「《鑑定》はのレベルが上がればより詳細な情報を得ることができるのじゃ」
「それでは俺はその称号とやらを見るにはレベルが足りないということでしょうか?」
「その通りじゃ、なかなか理解が早いのう」
どうやら称号とやらを鑑定するには俺はスキルレベルが足りないらしい。その魔物のステータスが一部見れないのもその辺が影響していそうだ、魔物はそのまま話を続けてくる。
「まあ、とりあえず詳しい事を話しても良いがこんなところでは落ち着いて話も出来んじゃろ、どうじゃ向こうに落ち着ける部屋があるしのう、そちらで話をせんか?」
目玉の魔物はそんな提案を気楽にしてくる。こちらは不審者で突然ここに押し入ったのにあまり警戒をしていないみたいだ。まあ、あれだけのステータスの差だし、どうあがいたって俺たちには勝ち目は無い、無警戒も当然か。
「わかりました、それではお邪魔させて頂くことにします」
俺はそう告げる、その言葉に納得したのかその魔物は振り返り先行するように通路を進んでいく。俺もそのあとに続きたいのだが、まあ俺は動けないのでその足はモニカに頼む事にする。
そしてそのモニカだが事の成り行きについていけなかったのかはたまたあの目玉の魔物に威嚇されたせいないのかわからないが、俺たちの言葉を聞いていたはずなのに目線はその魔物に向いたままでその体は強張り動き出すことはなかった。余程初見のインパクトが強かったのだろう。
まあ、あの姿だし普通はビックリするよなあ、むしろ錯乱しないだけマシなのかもしれない。そのモニカの姿を見た俺は安心させるために声をかける。
「モニカ、聞こえているか?モニカ、こっちを見るんだ...」
モニカは俺の呼びかけに気がついたのかビクッと体を震わして、そしてゆっくりとだがその視線を俺の方に動かす。
「モニカ、あの方は知識があり話が通じる魔物だ、そして話した限りではこちらに敵対する感じではない、ここまではわかるか?」
そうモニカに尋ねると、いつものようにコクコクと頷く、俺はそれを見て話を続ける。
「それでだ、あの方はここでは話がしづらいのであちらで話をしたいといっている、だから付いて行ってもらえないか?」
そういうと、モニカは理解したのか再びコクコクと頷いた、そしてようやく歩き出してくれたのだがその歩みはとても遅い、言葉は理解していてもやはり最初のインパクトが強すぎたのだろうかかなり怯えている。その様子に気がついたのか目玉の魔物は立ち止まってこちらを振り返り
「お嬢ちゃん、取って食いなぞしないからこちらへ来てくれんかのう...」
そういうとニヤリと笑うのであった...
とまあ、本人としては気を利かせて愛嬌を振りまいているつもりらしいが、しかしこちらから見れば見た目は凶悪な魔物である、その笑みはどう見ても「これからお前を食べるぞ!」という風にしか見えない。
その笑みを見てモニカの体がビクッと震え再び歩みが止まる。
あ、あれは笑っているのか?....う〜ん、あれはないわ〜、あれじゃどう見ても邪悪な魔物にしか見えないぞ!
そのうちモニカは目に涙を浮かべてプルプルと震え始めてしまう、俺は再びモニカに「大丈夫だから...」と懸命に説得をする、そうして5分ほど話してようやく落ち着いたのかゆっくりとだが再び歩き始めてくれた。しかし先ほどの笑顔が余程怖かったのかその目元には涙がまだ残っている。
そんな俺たちの姿を見た目玉の魔物は空気を読んでくれたのだろうか、今度は笑みを浮かべることなく振り戻り俺たちを案内すべくゆっくりだが進み始めたのだった。
よかった、もう一度あれをやられたら説得する自信がないぞ俺は...
モニカも前を進む魔物に続いて歩き始める。そして俺は前を進む目玉の魔物の背中をどことなしに見つめてみたのだが、なんとなくだが先程より触手が弱々しい気がする。
もしかして、さっきモニカに泣かれたことがこたえているのか?...まさかなあ...
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