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目線を合わせよ。  作者: 上条晶
9/15

友達。

「唯ー?そろそろ時間よー?」

「はーいっ。んじゃあ、行ってきますっ。」


今朝はなぜか、いつもよりも体が軽いような気がした。

ずっと抱えていた悩みが解決したからだろうか。


「…でも電車混んでる…。」


高校に通い始めてもう数週間が経った。

けど、この電車の込み具合にはいまだ慣れることができずにいる。


「あー!唯ちゃんー!」

「えっ…!?」


イヤフォンから流れる音楽の隙間に、自分の名前を叫ばれたような気がして

私は顔をあげた。


「おはよぉ。昨日おんなじ電車乗って帰ったから、乗ってないかなぁって探してたんだぁ。」

「坂口さん…。おはよう、ございます。」

「折角だし一緒に行こぉ。」


白井くんの隣から私の隣に並んだ坂口さんからは、昨日も感じた甘い匂いがした。


「ねぇねぇ、今日の1限ってなんだっけぇ?」

「今日の1限は…英語ですよ、確か。」

「えー、朝から英語かぁ…。絶対あたし寝ちゃう。」

「真未は科目関係なく寝てるだろ。」

「そんなことないもんー!」


坂口さんに気をとられていて気づかなかったけれど、周りには白井くんも氷室くんも住村さんもいて。

遠目で見ているときはわからなかったけれど、4人ともすごく仲がいいことがこのときはすぐにわかった。


「あ、そーだ司くん。今日売店行くぅ?」

「行くけど、どーかしたのか?」

「売店のメロンパンがすっごくおいしいって、噂できいたから買ってきてくれないかなぁって思ってー。」

「お前弁当もあるのにメロンパン食うのかよ笑」

「いいのー。あたしのお弁当はちっちゃいから。」


柚ちゃんと食べたいねって言ってたんだよ、と坂口さんは住村さんの腕を引いた。

相変わらず距離のつめかたが独特な人だ。


「あ!唯ちゃんも一緒に食べよ―よ!」

「えっ、私…?」

「メロンパン、嫌い?」

「す、好きです、けど…。」

「じゃあ決まり!メロンパン3つ、よろしく!」


話の速度についていけないまま、メロンパンの話は終わってしまった。

それと同時に電車は駅についていて、私達は慌ててホームへおりた。


「…安藤。」

「は、はいっ…。」

「…真未が勝手に決めて悪いな。」

「だ、大丈夫、です。」


突然氷室くんに声をかけられた驚きで、自分の声が少し震えたのがわかった。


「あいつすぐあーやって周り巻き込むんだよ。嫌だったら断っていいから。」

「い、嫌とかそんなんじゃなくて…。…新鮮で、その、びっくりしてるというか…。」

「…そうか。」


今まで必要以上に距離をつめてくる人はあまり得意ではなかった。

その裏に隠された悪意が見えるようなきがするからだ。

でも、彼女は私が過去に出会ってきた人とは違う。

なんの根拠もないのに、なぜか私はそう思わずにいられなかった。


その後教室についてからも坂口さんはずっと私の隣で楽しそうにしゃべっていた。

私はあまり話をするのもきくのも得意じゃないし

目も合わせられないからきいてるかきいてないかもわかりにくい。

そんなの、自覚していることで、だからずっとひとりでいた。


「それでね?気づいたら学校終わっちゃってて、司くんしかいなくてね?慌てて帰ったの。」

「そ、そんなに寝不足だったんですか…?」

「んーん違うの。その席すっごく日当たり良くて、気持ちよくてなかなか起きられなかったんだぁ。」

「日向って、気持ちいいですもんね…。」

「そうそう!やっぱ唯ちゃんもわかる!?」

「わかります笑」


彼女は中学生の頃、席がすごく日当たりいい席で、学校が終わるまで気づかず眠ってしまったらしい。

なぜ私にその話をするのか、私には見当もつかなかった。

でも、あまりに楽しそうに坂口さんが話すから、きかずにいられなかった。


「あっ、後1限でお昼かぁ。」

「あ、はい、そうですね。」

「じゃああたし、そろそろ席戻ろーっと。唯ちゃん、お昼は一緒に屋上ねぇ?」

「えっ、あ、はい…。」


今日は朝から坂口さんに流されっぱなしだ。

話しかけてくれるのは嬉しいのに、なぜかまだ心を開けていない自分もいて

それが自分で嫌になった。



「あーやっとお昼だぁー!」

「って言ってもお前ずっと寝てたろ。」

「寝ててもお腹は空くんですぅ。」

「はいはい。んじゃあ俺売店行ってくるから。あいつらきたら先行ってて。」

「はぁい。」


いってらっしゃーい、と白井くんを見送ってからすぐに坂口さんは私の元へとやってきた。


「柚ちゃん達多分すぐ来るからぁ。メロンパン楽しみだねぇ。」

「あ、でも、お金…。」

「だいじょーぶだいじょーぶー。」


坂口さんが廊下を眺めはじめてから5分もしないうちに氷室くんと住村さんは私達の教室にやってきた。

なんだかんだ横に並んで仲良さそうに。


「はやく行こぉ?」

「そんなにお腹空いてんの、真未。」

「空いてるよぉ。だってもう13時じゃん!」

「まあねぇ。」


坂口さんが住村さんの隣に並んで、その後ろに私と氷室くんが並んだ。

坂口さん1人なら、今日ほとんど半日ずっとしゃべっていたからだいぶ慣れてきていたけれど

やっぱり3対1となると緊張して体がこわばった。


「…今日半日真未と一緒にいたの?」

「は、はい…。」

「どう?うるさかったろ。」

「そ、そんなこと…。…なんか、すごい色々話してくれて、面白かった、です。」

「ふーん、ならいいんだけど、さ。」


氷室くんは、こうやって私が居づらそうにしていると何かしらフォローをするかのように話をふってくれる。

私が目を合わせるのが苦手なのをわかってか、視線を合わせずに話してくれるからすごくありがたい。


「屋上にとーちゃくー!あーご飯ご飯ー。」

「ほんと弁当のことしか考えてないのかよ笑」

「いいのー。そんなこと言いながら柚ちゃんだってお弁当広げてるじゃんー。」


3人が座って準備を始める中、私はどこに座ればいいのかわからずにいた。

普通に一緒に座ればいいことなんてわかっているのに

それでなれなれしいって思われたら、不快にさせたら、と思うと足が動かなかった。


「…安藤さんも座れば?てか、無理して私達に合わせてんならそんなことしなくていーけど。」

「あ、え、と。そうじゃ、ないんです、けど…。」

「なら座ればいいじゃん。立ち尽くされても困るって。」


驚き、恐怖、自己嫌悪。

どれなのか何なのかわからずまま、私はその場を走り去っていた。





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